英国の入管収容施設の実態

ここ数年、日本の入管収容施設(以下、「入管」)のあり方に光が当たるようになったが、国外でも同様の問題が浮上しているようだ。戦争・紛争後などのトラウマ研究を専門とし、入管施設の被収容者についての調査も続けている英国ノッティンガムトレント大学の社会トラウマ心理学准教授ブレリナ・ケレジが、英国の入管施設の現状について『The Conversation』に寄稿した記事を紹介する。


CON_Deaths and abuse in UK immigration detention
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ドキュメンタリー番組が入管収容施設の闇を暴いた

英国の入管施設でコロンビア人フランク・オスピナ(39歳)が死亡した事実は、オスピナの家族を憤慨させた。オスピナは強制送還を待っている間に精神状態が急速に悪化、2023年3月に自ら命を絶ったとされている。

2023年6月までの一年間で、短期拘留施設を含む入管施設に収容された移民は2万300人以上に上る。身元確認や移民申請処理の完了や、強制送還を待つ人々だ。2017年、BBCのドキュメンタリー番組「パノラマ」が、ロンドン・ガトウィック空港近郊のブルックハウス入管施設を調査し、めったに公開されない施設内の実態を見せつけた。それをきっかけに4カ月間の公的調査が行われ、人権法の違反にあたる“確かな証拠”など、数々の深刻な事態が明らかになった。

配慮に欠けた不適切かつ不必要なまでに権力を乱用する職員たち、自傷行為に及ぶ被収容者たちーーいかに“有害”な環境であるかが報告書に記載されている*1。ある証言者は、「職員に不適切で屈辱的な物言いをされ、自ら命を絶とうとしている被収容者たち」を目撃した者もいた。報告書の発表を受け、内務省の広報担当者も「ブルックハウス入管施設の実態は許容できるものではない」とコメントした。


*1 2023年9月に発表された結果報告書 The Brook House Inquiry Report

政府の指針では、拘留は「必要最小限の期間」であるべきとされている。にもかかわらず、制限なく拘留されているのが現実で、なかには数年間に及ぶケースもある。さらには、過密状態かつ人員不足の施設という非常に騒がしく厳しい生活環境、そして長時間ロックダウン(閉じ込め)によって、さらに苦しい状況となっている。また、被収容者を守るための措置が適切に運用されていない実態も明らかとなった。こうした環境は、過去に拷問などのトラウマ的体験がある被収容者にはとりわけ甚大な悪影響をもたらすだろう、と報告書でも指摘されている。

収容者たちが精神的に追い詰められていく

ブルックハウスを含む複数の入管施設にて、行動観察調査やインタビューを実施した筆者らの調査*2 からも、現行制度や職員(医療スタッフを含む)では、拘留による極度の不安はもとより、収容者が抱えているこころの問題(特に自傷傾向や自死の兆候のある人々)に適切に対処できておらず、拘留によって問題がさらに悪化する可能性があることが判明した。

*2 Mental health services inside immigration removal centres など。

施設内では家族や友人とは連絡が取れず、強制送還となれば、そのまま永久に離ればなれになるかもしれない。もっとも支えを必要とする時期に、連絡手段を奪われているのだ。インタビューした被収容者たちは、囚われ、逃げられない、つらい感情を訴えた。多額の借金をしてまで迫害や困窮状態から逃れてきたため、祖国に送還されるのを恐れる気持ちを打ち明ける者もいた。極度の苦しみを味わい、自傷行為や自死を試みるまわりの被収容者たちからの影響を訴える声も聞かれた。

ある被収容者は語った。「自分を傷つけるなんて、これまでの人生で一度も考えたことはなかったのに、自分をどう痛めつけようが何も感じないんです。一人で部屋にいると怖くなります。でも、誰も気にかけてくれない。この施設に収容されてからすでに、首つりなどで2人が亡くなりました」

自分たちには理解できない手続きやシステムに包囲されているよう、と語る被収容者たちもいた。スタッフや医療関係者への不信感がつのる。精神面の悩みを相談すれば、かえって不利にはたらき、強制送還につながるやもしれないと不安を感じている。法的なサポートを利用するのは難しく、はなから不可能だと感じている者もいた。

BBCの番組で収容所の内情が明るみに出て以来、内務省は、職員の権限行使に関する訓練や安全面の監視機能など「さまざまな改善がなされた」としているが、フランク・オスピナの死は、入管が被収容者たちの複雑なニーズに対応できていないことを、そして、拘留がもたらす精神面への悪影響は深刻で、死に至るケースがあることを突きつけた。しかも、“改善点”には、「拘留期間を28日間以内とする」という、被収容者の聞き取り調査を踏まえ、最も重要と思われる変更も含まれていない。

ブルックハウス入管施設の実態を暴いたBBC番組「パノラマ」

By Blerina Kellezi
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo
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