電話ボックスが、地域の支援ハブに生まれ変わる。24時間365日、無料で食料を提供

1ポンドでできることとは何だろう――? レイ・バロン゠ウールフォードにとって、その答えは電話ボックスを購入することだった。

ロンドン・ルイシャム地区、デトフォード橋のたもとにあるその電話ボックスは、人々がトイレ代わりに用を足す場所となり果てていた。同地区を拠点とするフードバンク「We Care Food Bank」の共同設立者である彼は、これを有効活用できないかと考え、さっそく電話会社のBTに連絡。3日後にわずか1ポンドで買い取る契約を結び、今年の2月末には24時間365日利用可能なコミュニティハブに生まれ変わらせた。

*1ポンド…約192円(2024年10月1日時点)

壁には支援窓口につながる連絡先
驚いたのは、地域住民の手助け

わずか1㎡の電話ボックス内の空間は、余すところなく活用されている。内部は改装されて、食事に困る人が持ち帰れるような新鮮なフルーツやシリアル、保存食品、飲み物、衛生用品などが置かれた。壁一面には、支援窓口の連絡先やアドバイスも掲示されている。こうして、生活に困窮した人が助けを求めずとも必要なものが手に入るスポットが誕生した。

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電話ボックス内には本やおもちゃも Photos: Andy Parsons

「どうせまた荒らされてトイレとして使われるだけだって、みんなに言われましたよ」とバロン゠ウールフォードは振り返る。しかし、開設後は多くの人に利用され、こうした場所がいかに必要とされていたかを示した。

電話ボックス内の物資は1〜2日おきに補充する必要があり、基本は同フードバンクが管理している。だが彼が驚いたのは、地域の人たちが毎週買い物のついでに立ち寄って、自ら差し入れを置いていくようになったことだ。

初めて自転車に乗れた難民女性
1㎡でも新しい力を生み出せる

新しいつながりも生まれている。ここを訪れたシリア難民の50代の女性二人は、これまで自転車に乗ったことがなかった。母国では女性にとってタブーとされていたからだ。しかし、ここで地域のチャリティ団体の電話番号を見つけて連絡をとり、乗り方を教わって、自転車も手に入れた。

また、ある時近くを通りかかったポーランド出身の女性二人は、ホームレス状態の男性二人が中に置かれていたカップ麺のラベルを読むのに苦労していることに気づき、手助けした。それ以来、彼女たちは毎日同じ時間に電話ボックスの前に立ち、字が読めない人に、彼らが受けられる支援について情報提供をしている。

「この国に来て11年になりますが、これまでホームレス状態の人と話したことはありませんでした」と女性の一人は話す。「でも今、電話ボックスを通じて新たな役割を担っていると感じています。今や二人の男性と友達になりました。これまでの生活では想像もできなかったことです」

電話ボックスを通じたこの地域活動は、本来なら政治がなすべき仕事を提示しているのだと、バロン゠ウールフォードは考えている。「政治家がこれを見て、自分は何をやっていたんだと恥ずかしくなるような、現実的な解決策を考え出したい。そうすることで、政治にも行動を起こしてもらいたいのです。たった1㎡のスペースでも、地域社会を変え、新しい力を生み出せるのですから」(Greg Barradale, The Big Issue UK)

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地域の支援ハブ「Under The Rainbow」の前で、レイ・バロン゠ウールフォード Photos: Andy Parsons

※この記事は『ビッグイシュー日本版』436号(2022-08-01 発売)からの転載です。










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