障害のある女性への「性と生殖に関する差別」

障害のある人はいまだにありとあらゆる差別を受け、さまざまな形の暴力に直面し、「性と生殖に関する健康」における権利の行使を妨げられている。特に女性の場合、それが顕著だ。 セルビアのストリート誌『リツェウリツェ』が、障害者権利の活動家ヴェロニカ・ミトロとミリーサ・ミリンコヴィッチに取材した記事を紹介する。

設備不足、訓練不足から定期検診から足が遠のく

国連条約では生殖権(リプロダクティブ・ライツ)を、「すべてのカップルと個人が、子どもの数、出産の間隔、そのタイミングについて責任を持って自由に決定でき、そのための情報と手段を得ることができる基本的権利、および性と生殖に関する最高水準の健康を享受できる権利」と定義している。しかし、障害のある女性はさまざまな理由から、性と生殖に関する健康を守るための医療を十分に受けづらい状況がある。

セルビアの第三者機関の報告では、その主な原因として、医療機関の出入口、トイレやエレベーターが障害者の利用を想定していない、婦人科に油圧式診察台が整備されていないなど建物や設備の不備に加え、社会経済的な要因、社会的排除や差別を挙げられている。婦人科検診に関する情報の入手しにくさ(点字、障害者向けにワンクリックでSMS送信できるサービス、音声情報での情報提供がないなど)から、問題に直面している人もいる。

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設備不足のみならず、医師従事者や医療スタッフの、障害のある患者を想定したトレーニング不足も状況を困難にし、障害ある女性が適切な医療にたどりつくまでに時間がかかりがちだ。医療従事者への教育や意識向上は、障害を持つ女性の受診体験に大きな影響を与える。先述の報告書にも、医療スタッフから不適切な扱いを受けた、手助けがなく移動すらできなかった、医師が本人よりもパートナーや介助者と話そうとするなど、偏見や理解不足に起因する不快な思いを経験したとの声が当事者たちから寄せられている。婦人科受診時の屈辱的でもどかしい経験を訴える声も多く、そうしたネガティブな記憶が女性たちの足を定期検診から遠のかせる。

障害のある女性が妊娠した場合も、周囲の人々や医療スタッフからもネガティブな反応を受けることが少なくなく、子どもを産むかどうかについて自己決定権がないかのような対応を取られやすい。セルビアのヴォイヴォディナ自治州にある支援団体「イズ・クルガ」では、こうした問題に長年取り組んでいる。同団体のプロジェクト・マネージャーで、障害者に関するウェブサイト「Portal o invalidnosti」の編集者でもあるヴェロニカ・ミトロは、障害者の尊厳を守るために求められる3つのステップとして、「第一に、医療に携わるすべての職員が、さまざまな女性障害者に対応できる感覚を養い、偏見に気づき、それらを克服する努力をすること。第二に、医療機関の建物内の設計を見直すとともに、地方の医療機関であってもアクセス向上を図ること。第三に、コミュニケーション方法や情報提供を改善すること」と指摘する。

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強すぎる性欲?! 性的健康をめぐる誤解

クリエイティブ・アファーマティブ・オーガニゼーション・パルナサス(Creative Affirmative Organisation Parnassus)の代表ミリーサ・ミリンコヴィッチは、性的健康(Sexual Health)*1 をめぐる課題についてこう指摘する。「問題の根源は家父長制にあります。子育てならびに親族の世話を女性一人に押し付ける。障害者のからだではそのようなジェンダーの役割を果たせる十分な能力がないとみなされてきました。昨今は、家父長制の影響も徐々に弱まり、状況は少しずつ変わってきているとは思いますが」

*1「セクシュアリティと性的関係に対する積極的かつ尊重的なアプローチで、強制、差別、暴力のない、安全で心地よい性体験を享受できること」(世界保健機関)

また、障害のある女性は「性的なことに関心がない(asexual)」という固定観念も持たれがちで、子どもを持てないと誤解されることも多い。だが、障害のある女性の性的な欲求、アイデンティティ、行為は、障害のない女性と何ら変わりないことは、多くの研究から明らかになっている。その一方で、特に知的障害や精神障害がある女性は、コントロールしづらいほどに性欲が強いという真逆の固定観念もある。こうした誤解は、彼女たちを必要な教育や情報から遠ざけようとする動きにつながりやすい。障害のある女性に性的な行動は不適切とされ、施設で暮らす場合には、意思決定や選択の機会を奪われがちだ。

障害のある女性が障害のない相手とパートナー関係になると、その相手が、「人生を犠牲にしている」と他人から言われることが少なくない。それが女性たちのネガティブな自己イメージを形成し、性的あるいは恋愛への願望を封印してしまうこともある。「パートナーとして適している相手なのかどうかを周囲からうるさく問われ、それがプレッシャーとなるのです」とミリンコヴィッチは言う。「パートナーや家族を持つ権利があるということの認識を広めるべく、もっと多くのアクションが必要です」

メディアでの取り上げられ方の課題

障害のある女性に光が当たるのは「障害」がトピックのときだけで、母性やセクシュアリティ、恋人について話す時に障害のある女性が例に含まれていなければ、「そのような役割は彼女たちのものではない」という間接的なメッセージを送ることになる。また、障害のある女性たちの性と生殖に関する権利や、暴力を受けやすい立場についても、メディアでは十分に語られていない。「メディアがこういったトピックを扱うことがあったとしても、そこでは障害を持つ女性のセクシュアリティ、パートナーシップ、子育てに関するステレオタイプや偏見を伝え、歪んだイメージを植え付けることが少なくないのです」

社会的サポートの不足、メディアでの表現など文化的背景が欠如していることが、障害のある女性のアイデンティティと自信形成に大きな影響を及ぼしている。「人は周囲の意見を取り入れ、他者と似た見方をしがち。そのため、障害のある少女たちは、社会の要求に対応するのはとても難しいと感じてしまうのです」とミリンコヴィッチ。”美しい見た目“が理想とされがちな社会では、障害のある少女の中には、どう頑張ってもダメだと感じてしまう子もいます。障害のない子でも同じですが、当然プレッシャーは蓄積し、自信の形成に大きな影響を与えます。障害のある少女たちはただでさえ、物理的なアクセスの悪さ、あるいはコミュニケーション上の障壁、仲間はずれ、偏見、貧困などの理由から、人付き合いの機会を得にくいのですから」

障害のある多くの女性は、自分のセクシュアリティの探求に時間を要する。ポジティブな表現が増えてきたとはいえ、まだまだメディアにはネガティブな表現、差別的な言葉があふれている。「表現」は、それが制度的変化や社会的変化を伴わないかぎり、差別の特効薬にはならない。メディアは大衆の考えに影響を与えるのだから、社会的責任を持ってその力を行使すべきだ。

By Ana Stanković
Translated from Croatian via Translators without Borders
Courtesy of Liceulice / INSP.ngo








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