20年に及んだホームレス生活から脱出した女性にインタビュー

オーストラリア中をさまよい、20年にわたるホームレス生活を経験した一人の女性。
そんな彼女が念願の住居を手にし、路上生活の厳しさ、現在のあふれる喜びを語った。


「いらっしゃい。どうぞ入ってください」

メルボルン都心部にあるダニーの自宅。木々が茂る前庭で満面の笑みを浮かべ、手を振って私たちを迎え入れてくれた。かわいいプードル犬のルビーが撫でてもらおうと、足の間を縫って歩く。草花やサボテンが植わった鉢の間には「犬の足跡のない家はホームとは呼べない」という立札が見える。

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ダニーが家の中を案内してくれた。4ヵ月前に入居して以来、いろいろと手を入れて、彼女の楽園を作り上げたのだ。手工芸品やチャリティショップの掘り出し物など、彼女にとっての宝物が飾られ、とても魅力的だ。

台所ではタイカレーが弱火にかけられている。ヘルシーな食べ物を買って保存し、料理をすることができる。そんな小さなことが大きな違いを生むとダニーは言う。洗濯をする時にも、洗濯物を盗まれないかなどと心配する必要がない。友人を家に呼べるし、自分だけの鍵の束がある。

「ドアに鍵をかければ安全だと思えるのはほっとすることです。仕事を終えて家に帰り、一杯のお茶を飲み、ルビーを抱き寄せれば、リラックスできます。『廊下にいるのは誰? 何をしているの? 今夜はどこで寝られるかしら?』。そんな心配だけでくたくたになりますから」

一流ロックバンドのコンサート設営スタッフから、ホームレス状態へ

ダニーの最初のホームレス経験は30代初めの頃だった。レッド・ホット・チリ・ペッパーズやフー・ファイターズなど、世界一流のロックバンドのコンサート設営スタッフとしてフルタイムで働いていた。けれど、躁うつ病と精神疾患に悩まされていた。「そのせいで私は『人に追いかけられている、家に人が押し入ってくる』と思いこんで、ホームレスになりました」

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建物の間で新聞を読むホームレス女性/BrianScantlebury/iStockphoto(写真はイメージです)

下宿、シェルター、路上など、ダニーはオーストラリア中をさまよった。34歳の時「モートン湾の公園のいちじくの木の下」に住んでいた時、心臓の発作に見舞われた。病院へ連れて行かれ、禁酒を強いられ、メンタルヘルスの問題があると診断された。「その後、何年もいろいろな薬を試して、有効な治療法がようやく見つかりました」

5万人を超える公営住宅入居希望者、平均待ち時間は10年

ダニーはビクトリア州の公営住宅への入居を希望する5万4945人の1人として待機リストに登録した。登録者はこの5年で55%も増え、平均待ち期間は10年とも言われていた。

「電話をかけ続けました。檻をゆすれば、気づいてもらえると思ったからです。何回も『もうすぐ空きがある』と言われました。でもその空きはいつも〝より必要とする人〟に回されました」

50歳を迎えると、ようやく優先リストに載せられた。そしてこの家に入れたことで、障害者保険も存分に利用できるようになった。

「ここに着いた最初の夜、私は気が動転して、テレビのスイッチの入れ方もわかりませんでした。私はただルビーと一緒に部屋に座り、泣き続けました。二晩続けて。私は20年間も息を殺して生きてきました。どこにも属さず、サバイバルモードでした。そしてここに着いて、ようやく息をすることができたのです」

『ただコミュニティに属したい』

近所の公園で出会った人たちは、彼女のことを「ルビーのママ」と呼ぶ。今年のバレンタイデーには散歩へ誘ってもらい、ある人は洗濯機と冷蔵庫、ノンフライヤーを彼女に贈ってくれた。

「女性保護施設にいた時、カウンセラーがよく尋ねました。『あなたの目標は何ですか』と。私はこう答えました。『ただコミュニティに属したいだけです』。私は一つの場所に長く住んで、そこに所属していると感じたかったんです」

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「私たち、とってもハッピーよね、ルビー」と言いながら彼女は愛犬を抱き上げる。
「とても気に入っています。『待った甲斐があった』とは言いたくありません。20年も待ったのですから。でも、ここに入れて、本当にラッキーです」

(Amy Hetherington, The Big Issue Australia/編集部)

※この記事は、2023-08-15 発売の『ビッグイシュー日本版』461号(SOLD OUT)をもとに加筆・修正した記事です。

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