ホルモンの働きや更年期についての教育普及に力を入れているアイルランドの内分泌学者マリー・ライアン博士に、アイルランドの『ビッグイシュー』誌がインタビューした。
–ホルモンというと、女性特有の問題と考える人が多いようですが、実際にはいかがですか?
マリー・ライアン博士:私たち人間には、筋肉、臓器、免疫システムを制御するホルモンのコントロールセンターがあります。男性の主要ホルモンはテストステロン、女性の主要ホルモンはエストロゲンです。普段はあまり意識しないと思いますが、みなさんが考えられているよりもずっと重要な機能を果たしています。
iStockphoto:Pikovit44
ホルモンのバランスがくずれると、体内の調和が取れなくなるので、何よりもホルモンバランスを整えることが健康の大前提です。健康的な食生活を送り、ストレスを避け、適度に運動し、8時間睡眠を確保することの大切さを医療の専門家が強調するのはそのためです。
生理のある女性には、より慎重な対応が必要です。生理が重くてつらい人も、どうかがまんしないでください。ひと昔前まで、女性たちは重い生理、閉経前や更年期のさまざまな症状にひたすら耐えるしかありませんでしたが、いまはいろんなかたちでサポートを得られるようになっているので、どうかひとりでがまんしないでとお伝えしたいです。(ホルモン避妊薬の服用で生理を止め、子宮内膜症のような症状を和らげるなど)
–ホルモンバランスを整える大切さについて、学校カリキュラムにも取り入れるべきでしょうか?
もちろんです!男女ともにホルモンバランスを整える大切さを知っておくべきです。休息やリラックスする時間を取る、瞑想をする、8時間睡眠を確保することの大切さ、概日(24時間周期の)リズムについてもしっかり教えるべきです。糖尿病の患者さんに、インシュリンの働きや糖分の過剰摂取を控えるべきことを理解してもらい、患者さん自身が、日々正しい判断ができるようになるのと同じことです。
甲状腺ホルモン、生殖ホルモン、生理などについて学校教育に取り入れ、標準的なこととそうでないことを説明する。ひと昔前のように、女の子が重い生理で毎月つらい思いをしなくていいようにしていかなくては。いまは利用できるサポートもいろいろありますから。異常な生理痛について教育することで、子宮内膜症や子宮筋腫といったこれから直面するかもしれない問題を避けられるかもしれません。「生理が重い人は自尊心が低い」ことを示した研究もあります。女の子たちが存分に力を発揮できるよう、働きかけていくべきです。
–過剰な運動の危険性についても指摘されていますね。
常に自分の体の声を聞き、運動を始める前はエネルギー100%の状態であるべきです。なのに、20%くらいの状態で運動を始めたうえに、体を酷使し、座ってひと休みすることもなく疲れ切っている人たちをよく目にします。大切なのはからだの“充電”で、エネルギーが足りていないときに体を酷使しすぎないこと。でないと、ホルモン的にはメリットよりもデメリットの方が大きくなってしまいます。
–長い間、女性の健康はないがしろにされてきました。アイルランドでは、現在でもたびたび、ホルモン補充療法*1(hormone replacement therapy/HRT)が不足しています。ホルモン補充療法を当てにする男性が増えると、さらに不足するのでは?
いいえ、そうは思いません。そのために、私は声を上げているのです。どんな医薬品も、必要であれば入手できるべきです。すべての女性がホルモン補充療法を必要とするわけではありませんが、必要な医薬品は必要なときに確実に手に入れられるようにすべきです。これは、性別にかかわらず、どんな医薬品にもいえることです。人生は一度きり、だれしもが人生を謳歌できるよう、互いに助け合い、最善を尽くしていきましょう。
*1 エストロゲンを補うことで、更年期障害を改善する治療法。需要増加によりエストロゲンの不足が指摘されている。参照:Why is there an HRT shortage and what can you do to get it?
–「ホルモン教育」を推進されるようになったのは、クリニックの患者さんが更年期の体の変化やメンタルの不安・混乱を訴える声がもとになっているそうですね。
クリニックに来た女性たちが言うんです。「自分の母親は更年期に精神病院に入れられた。考えるだけでおそろしい」と。昔は教育が足りていなかったせいで、多くの女性が誤診されていました。そんな話をたくさん見聞きするなかで、私が前に出て、声を上げなければと思うようになりました。必要なサポートを得て、再び自分らしく過ごせるようになる女性を目にできると、うれしいです。
iStockphoto/TarikVision
「教育の大切さ」を言い続けています。情報はずいぶんと広まりつつありますが、これからも対話を続け、閉経期や更年期のつらさをひとりで経験する必要はないのだと、すべての女性たちに知ってもらいたいです。ホルモン補充療法がありますし、女性の健康問題についての研究もさかんに行われています。
–アイルランドでは2型糖尿病と診断される人が急増しています。何が原因だと思いますか?
患者さんにはいつも「すべてはショッピングカートから始まる」と話しています。多くの人は週に一度、まとめて買い物します。あなたがカートに入れるものが問題を引き起こしているのですよと。カートに入れなければ、まず口にしないのですから。
おやつを一切食べるな、というわけではありません。患者さんには、「週に1〜2回、外出して楽しむといいですよ」と言ってます。人間ですから、疲れたら、体によくないものを欲してしまいます。でも、油っこくて、炭水化物の多い、糖分の多い食べ物を自宅に常備しておくのは、おすすめしません。
必要以上に糖分を取り、膵臓に圧がかかると、2型糖尿病を引き起こし、目、腎臓、心臓、足などに不具合が出てきます。適切な体重をキープし、おなかまわりに重みがかからないようにすること。予防については、さらなる取り組みが必要です。
マリー・ライアン博士
https://drmaryryan.com/
アイルランドの『ビッグイシュー』誌
https://irelandsbigissuemagazine.com/
By Sam McMurdock
Courtesy of Ireland’s Big Issue / INSP.ngo
Courtesy of Dr. Mary Ryan
※この記事は2024年1月に公開された記事を加筆・編集して公開しています。
ビッグイシュー・オンラインのサポーターになってくださいませんか?
ビッグイシューの活動の認知・理解を広めるためのWebメディア「ビッグイシュー・オンライン」。
提携している国際ストリートペーパー(INSP)や『The Conversation』の記事を翻訳してお伝えしています。より多くの記事を翻訳してお伝えしたく、月々500円からの「オンラインサポーター」を募集しています。