米国オレゴン州の農家の古い納屋/kristaweber/iStockphoto
食料システム(生産、流通、消費を含む)はすでに、一部の人々にとって高額で手が出ないものになっており、同州マルトノマ郡のデータによると、食料を安定して得にくい状態にあるのは、黒人、ネイティブアメリカン、ヒスパニック系の人々だ。企業の農地買収が進むなか、社会的に疎外されてきた人々の食料システムを安定させる取り組みが始まっている。
*1 オレゴンの農場や牧場の96.7%は家族経営だった。
参照:https://www.oregonfb.org/oregon-agriculture
黒人の食料主権を取り戻すコミュニティ農園
2019年に創設されたコミュニティ農園「ブラック・フューチャーズ・ファーム」では、食料システムにおける格差を是正し、ポートランドに暮らす黒人が新鮮な食料を入手しやすくなるよう、黒人、先住民、有色人種の人々たちが力を合わせて活動している。運営する「黒人食料主権連合(Black Food Sovereignty Coalition)」は、黒人コミュニティが食料システムの所有者やリーダーとなり、さまざまな制度問題に対処できるようになることを目指す団体だ。
ブラック・フューチャーズ・ファームに掲げられた看板。「ブラックライブズマター、今こそ正義を!」と書かれている。 Photo by Kimberly Cortez
ポートランド市南東部に位置するブレントウッド・ダーリントン地区に広がる1.5エーカーの農場には、バラエティに富む果物や野菜、花が栽培されている(農薬を使用しない有機栽培だ)。農作業はすべて、黒人の農業従事者と、ポートランドの黒人コミュニティを支援するボランティアたちで行っている。大切なのはコミュニティ意識だという。
食料システムを安定させるには黒人が最前線に立つことが重要と話すのは、コミュニティプログラムとアウトリーチコーディネーターを務めるニア・ハリスだ。「自分たちが地域の食料システムの一翼を担っていると認識しています。コミュニティ意識を大切にすることで、今起きていることに、より意図的かつ目的意識を持つことができ、行動を起こす力につながります」
ブラック・フューチャーズ・ファームのバーチャルツアー
https://app.cloudpano.com/tours/emjT8k5TP5ux?sceneId=AXQnKStuWl
オレゴン州における黒人排斥の歴史
米国農務省による2022年度農業センサス(統計)によると、オレゴン州の全農業者68,564人のうち、黒人またはアフリカ系アメリカ人はわずか74人(0.1%)だった。黒人農業者の少なさは資源配分の不均等を如実に現している、とハリスは指摘する。「黒人農業者は土地の利用だけでなく、資金および技術支援を受けるうえでも差別され続けてきました。それは、今かれらが新鮮で栄養価の高い食料を入手しにくいことと直接関係しています」
その背景にあるのは、オレゴン州における人種差別の歴史だ。1844年にオレゴン州暫定政府が最初の黒人排除法を可決して以降、黒人の居住を阻止する一連の反黒人法が制定されていった。それまでの奴隷廃止条項を認めながらも、実質的には黒人が州内に住むことを禁じるもので、州内に残る者は半年ごとにむち打ちの刑にさらされ、公共事業での強制労働に従事させられ、立ち去らざるをえない状況に追い込まれた。1840〜50年代に制定された排斥法はその後廃止されたものの、白人主流の州にするという意図により、黒人の土地所有はほぼ不可能となった。
オレゴン州の黒人の歴史を守る非営利組織「オレゴン・ブラック・パイオニアーズ(Oregon Black Pioneers)」の事務局長を務めるザカリー・ストックスは、過去の排斥法が黒人が共同体として富を築く力を大きく削ぎ落とし、それが今日の農地所有の少なさにつながっていると語る。「黒人人口が少ないオレゴン州のようなところでは、土地利用が妨げられ、その状況が次の世代へと引き継がれるという、黒人コミュニティに不利な状況があります。この国の富の大半は、土地の所有と結びついています。富を築く力は、土地や住宅といった資産を世代間で引き継ぐことができる力によってもたらされるのです」
食のあり方を決める「食料主権」を手にするために
ブラック・フューチャーズ・ファームの活動範囲は農業生産だけにとどまらない。食料システムに自分たちの居場所を作るには、食料システム自体に主権を持つ必要がある、とハリスはいう。「主権とは根本的な自由や解放を意味します。植民地支配的な管理ではなく、自分たちが主体性を持って管理できるということです。自分たちの尊厳を守り、しっかりと目的意識を持てる状態だと理解しています。これがブラック・フューチャーズ・ファームが大切にしている価値観です」
黒人と土地のつながりを回復させることも重要な取り組みのひとつで、その関係性はある種の緊張をはらんでいると語るのは、オレゴン州の黒人支援団体「イマジン・ブラック(Imagine Black)」のジョイ・アリーズ・デイヴィス代表だ。環境正義と人種間の平等のどちらをも実現するには、土地とのつながりを回復することが重要との考えだ。「当初は環境正義の実現を目指した施策を考えていたのですが、その過程で土地とのつながりを取り戻す必要性があると痛感したのです。小作人として働き続けた今は亡き祖父のことが思い出されます。土地管理にまつわる心の傷は、その人の人生に大きな影響をもたらします」。すべての黒人にとって、とりわけ奴隷として酷使されていた者の子孫にとって、土地とのつながりを回復させることは、ただならぬ意味を持つ。
ハリスも、ブラック・フューチャーズ・ファームのような場があることで、黒人たちが抱えてきたさまざまな思いや感情を包摂できるのではと考えている。「こうした場があることが癒しになればと願っています。人にとってはそれは必ずしも休息や喜びではなく、怒りや不満や悲しみといった感情かもしれません。ですが、私たちはそのすべてを、人々のいろんな側面を受け入れられたらと思っています」
環境正義、食の正義、食料主権と、ブラック・フューチャーズ・ファームが推進している人種間の平等推進、これらはすべて関連し合っているとハリスはいう。「こういう場が存在し、実践することが重要で、そこから活動を持続させるさまざまな方法を見出していけるのです。農業だけに限らず、他のことをやってもよいのです。一見、別問題に思えることも、最終的にはつながっているのですから。すべては、黒人と環境や土地との関係性見直しを目指すムーブメント、 “アフロ・エコロジー”の一環です」
ブラック・フューチャーズ・ファームの活動から得られた知見を次の世代に伝えていくことで、目指している変化が現実となっていく。黒人による農業の未来が若い世代に託されている。「未来を創造するのは若者です。ムーブメントを継続させるため、知識、生産、学習プロセスに若者に関わってもらう必要があります。私たちは今を生きると同時に、未来への足がかりをつくり出しているのです」
Black Futures Farm
https://blackfutures.farm/
By Kimberly Cortez
Courtesy of Street Roots / INSP.ngo
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