福岡「ヒューマンハーバー」(前編)「就労・教育・宿泊」出所者の総合的な支援を目指す。

編集部より:元受刑者でブロガーのイノシシさんからの福岡の出所者支援を行っている会社へのインタビュー記事です。
(提供:けもの道をいこう ~元受刑者が実名起業するまでの記録~

「福岡に素晴らしい取り組みをしている会社がある。」

読者の方からそのメールが来たのは数か月前の春。教えてもらったリンクをクリックすると、そこには「ヒューマンハーバー」の文字が。直訳すると「人の港」。この社名に込められた想い、そして現在進行形で進んでいる挑戦の姿を取材させていただくことができました。

今回の取材は「前編」「後編」「元受刑者インタビュー①」「元受刑者インタビュー②」といった4本立ての構成です。

本日の「前編」ではヒューマンハーバーの事業概要の説明や、行っている3つの取り組みを中心にご紹介します。

ヒューマンハーバーとは「就労」「教育」「宿泊」出所者の総合的な支援をしている会社。

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[会社概要]
・社名 株式会社ヒューマンハーバー
・所在地 【本社】
・〒815-0035 福岡県福岡市南区向野1丁目3-16
・TEL:092-735-3939
・FAX:092-735-3938
・会社HP:http://www.humanharbor.net/

ヒューマンハーバーでは大きく分けて以下の3つの出所者支援が行われています。

(1)就労支援・・・就労の場の提供   (関連施設:「ある蔵」)
(2)教育支援・・・学び直しの場の提供 (関連施設:「そんとく塾」)
(3)宿泊支援・・・居住の場の提供   (関連施設:「てんしん館」)

これまでの出所者支援は「就労」だけや「宿泊」だけに限ったものがほとんどでした。ヒューマンハーバーは「就労」と「宿泊」をセットで行うだけでなく、それに加えて「教育」の支援もしているというのが大きな特徴の「総合支援型」の会社です。

ソーシャルビジネスの原則に基づいた事業モデル

また、ヒューマンハーバーはノーベル平和賞を受賞したこともあるムハマド・ユヌス氏の認可を受けている会社です。そのため、ユヌス氏が提唱するソーシャルビジネスの原則に基づき、7つの指針を打ち出しています。(以下HPより引用抜粋)

(1)経営目的は『再犯問題という社会課題の解決』。

(2)財務的・経済的な持続可能性を実現するための3つの施策。
1.就労支援部門『ある蔵』
・資源リサイクル業を展開中。
2.教育支援部門『そんとく塾』
・当面、発生する赤字に対しては『ある蔵』の収益を充当する予定。単独で黒字となる形を模索中。
3.宿泊支援部門『てんしん館』
・社員寮として雇用した支援対象者に提供。
・寮費は給与から天引きしており、赤字は発生していない。
・自立準備ホーム、更生保護施設は法務省からの委託費の範囲内での運営を計画中。

(3)投資家には投資額を回収するが、しかしそれを上回る配当は還元されない。

(4)利益の用途として『相談窓口』設置により、ヒューマンハーバーの支援が直接的に及ばない服役経験者への間接的支援による再犯防止、『犯罪被害者支援』による社会貢献を検討中。

(5)高度な技術と専門性を有する三木商事株式会社をアドバイザーとして迎えて、環境に配慮した事業運営。

(6)社員として雇用した服役経験者には月額20万円を支給。

(7)ユヌス・ソーシャル・ビジネスに関心を持つ学生さん達など、ヒューマンハーバーの活動にご理解やご協力いただいている多くの人・組織と、楽しみながら活動。

これら7つの指針に基づいてヒューマンハーバーは運営されています。ソーシャルビジネスの特徴はなんといっても「社会的に意義のあることをビジネスとして回す」という点。NPOや寄付に頼る支援策ではなく、企業のビジネスでこの取り組みを行っていることに大きな価値があります。

位置付けはあくまで中間地点。目指すのは「本人の自立」

ヒューマンハーバーのスローガン「経営者を100人輩出する。」

これには「ここは一生いる場所では無く、巣立っていくための実力を養う場所である」という意味が込められています。これから紹介していく3つの取り組みとそれぞれの施設に期間が最長でも1年に設定されているのはそのためです。「ひとつの企業が支援できる、抱えることのできる数には限界がある。だったらその支援できる企業を自ら増やしていこう」というわけです。

そういった考えのもとに取り組まれている3つの支援と関連施設をこれからご紹介していきます。

①就労支援「ある蔵」

まずは就労支援施設である「ある蔵」。

ここはいわゆる「出所者に仕事を提供する場」です。このブログでも繰り返し書いていますが、刑務所を出所した人の無職者と有職者の再犯率を比べると「無職者の方が5倍高い」というデータがあります。そのため再犯率の低下には「出所者の就職率をあげる」のがもっとも有効な手段なのです。

支援期間は1年ですが「どうしても次の雇用先がない、ここで一緒に働きたい」と思う方はそのまま働かられているケースもあるようです。

「ある蔵」ではいわゆる「産業廃棄物処理業」をおこなっており、リサイクル業務や導線の皮むき等様々な作業をされていました。

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②教育支援「そんとく塾」

ヒューマンハーバーの大きな特徴である「教育」が行なわれている場所です。

今までの出所者支援は主に「就労」がメインでその次に「宿泊」といったものが大半でした。実はここが大きな落とし穴なんです。ほとんどの刑務所では「基礎学力の向上のための教育」は行なわれていません。そのため出所してから運良く就職できても「基礎学力によるつまづきが原因」で自暴自棄になったりすぐに投げ出すして仕事を辞めてしまうケースが多々あるようです。

そこで、ヒューマンハーバーでは「就職してからの基礎学力によるつまづきを無くそう」という目的のもとに教育支援にも取り組みんでいます。

「刑務所(国)でできなかったことを民間でする」というわけです。ここに通うことができる期間は半年〜1年と決められており、その間に基礎学力をつけ卒業していく流れです。授業の内容はワードやエクセルなどのパソコンの基礎スキルや、義務教育レベルの学習など「最低限身につけておくべき知識」を繰り返し実践されています。場所はマンションの一室で、これまでに5人の卒業生がここから巣立っていったとのこと。現在は3人の在校生が授業を受けています。

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(授業の様子。この日はパソコンを使って数学の授業をしていました。)

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(ここで一緒に「家庭科」の授業を行うことも)

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(お話を聞かせていただいた部屋。学校でいえば職員室でしょうか。)

③宿泊支援「てんしん館」

ヒューマンハーバーでは「わか草寮」と「南天神ホーム」の2つの宿泊施設を運営しています。ちなみにこれらの施設に入居するには以下の諸条件をクリアしなくてはいけません。(ヒューマンハーバーHPより引用)

「わか草寮」
①保護観察中の方を対象とします
②週1回そんとく塾の教育支援を受講していただきます
③週4~5日ある蔵で就労していただきます
④入寮期間は1年間で1年後退寮していただきます

「自立準備ホーム 南天神ホーム」
(中間支援施)更生保護法に規定された緊急避難のための一時保護施設です。
①保護観察中の方を対象とします
②住居家賃及び食事費は支弁費の範囲内で助成します
③週2日間そんとく塾で学習していただきます
④週3~4日弊社外の企業でアルバイトをしていただきます

そして僕が今回見学させていただいたのは「わか草寮」。

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(綺麗なマンションでした。)

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(オートロック完備)

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(ガス・冷蔵庫・レンジつき)

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(バス・トイレで洗面台もあり。しかも洗濯機つき!)

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(お風呂も広い)

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(リビングも広いしベランダもあります)

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(入居者の入れ替わり時期で少し散らかっている寝室。かなり広め)

この「わか草寮」。なんとこのハイクオリティでなんと家賃は「4万円」。めちゃくちゃ安い‥。光熱費や水道代を合わせても破格‥。僕は今家賃3万の1DKの部屋を借りてますが、4万であれば間違いなくここにします。

就労支援施設である「ある蔵」にも近く、出所者としては本当に心強い施設だと思います。

三位一体の取り組みにかける思いと向かう先。

働ける場所に教育の授業。
さらには格安の宿舎。

このように、ヒューマンハーバーでは「就労」「教育」「宿泊」といった三位一体のこれまでになかった取り組みをされています。理念も素晴らしく、取り組みも賛同できるだけでなく、理にかなっている事業。

しかし、その裏にはもちろん課題や問題、現場の方々が抱える悩みも‥。明日の後編では創業者である副島勲さんへインタビューをし「現在の課題」「今後の展望」といった事業に関する内容や「犯罪者はすべて更生できるのか?」という支援のあり方についての考えもお伺いしてきました。

提供:けもの道をいこう