2023年12月、オーストラリアの北クイーンズランドは記録的な洪水に見舞われた。洪水が引いた後、住民の関心は後始末と復旧作業に向いた。寄付物資の仕分け、近隣住民の安否確認、家の清掃など、互いに支え合いながら危機に対処していった。大規模災害時に緊急支援だけを頼りにするのが賢明でないことは、これまでの調査からも明らかとなっている。緊急救援隊は支援を必要とするすべての地域に即座に到達できるわけではないのだから。
災害対策として強化したいのが「地域レジリエンス」の力だ。気候変動が進み、極端な気象現象が頻発している昨今、地域社会でいかに災害に備えられるかの重要性はかつてないほど高まっている。災害が起きたとき、その直後からそのしばらく先に至るまで、地域社会に必要な支援について調査を進めてきたシドニー大学研究員レベッカ・マクノウらが『The Conversation』に寄稿した記事を紹介する。
活発化する地域社会主導型の取り組み
筆者たちは、ニューサウスウェールズ州の三つの地域(ノーザンリバーズ、ブルーマウンテンズ、ホークスベリー)における地域社会主導型の災害対応を調査した。ブラックサマーの森林火災(2019〜20年)および大規模洪水(2020〜22年)が発生した際に、地域ネットワークとしてどのように災害対応および復旧にあたったのかを検証した。
近年、オーストラリア全域ではボランティアの数が減少傾向にあるのだが、災害発生時には人々は即断で行動を起こし、警報の伝達、道路寸断時の食料配布、復旧作業を互いに助け合っていたことが分かった。心のケアを行なっていたケースもある。自身の体験談を語ることで心を落ち着かせようとしている人たちに耳を傾けるのだ。在宅ケアを長期間受けられなくなった高齢者を地域住民で支援したケースもあった。
被災地となった農村地域に関する別の研究では、地域社会主導型の計画・行動によって帰属意識や社会的つながりが強まること、また、気候変動がもたらす広範な影響への備えにもなることが示された。
ノーザンリバーズ地域では、度重なる災害を受け、レジリエンス向上を掲げた地域社会主導型イニシアチブが次々と生まれていた。
- レジリエント・リズモー
https://resilientlismore.org.au/ - レジリエント・ウキ
https://resilientuki.org/ - ワーデル・コア
https://www.wardellcore.community/ - トゥギャザー・ポッツビル
https://togetherpottsville.org/ - サウス・ゴールデンビーチ・コミュニティ・レジリエンス・チーム
https://www.facebook.com/groups/431100262102216 - メインアーム・ディザスター・リカバリー
https://www.madr.org.au/
こうした団体が、地産農作物の交換、地域の集まり(フェスティバル、バーベキュー、森林火災への意識向上を目的とした講演会など)、地域コミュニティグループの新設、地域レジリエンス強化計画の策定、森林再生プロジェクト、緊急時のコミュニケーション改善、災害時の動物救出計画の作成などの活動を展開しているのだ。
専門知識、心のケアの事前訓練を受けられる機会の拡大
ニューサウスウェールズ州北部では、「プランC」という団体による地域支援プログラムも実施されている。6つの地域で、270人以上の住民が、災害時における消防隊・警察・州緊急サービスの役割に関する専門的知識を学ぶとともに、災害リスク(森林火災、洪水、津波、地滑りなど)に関する訓練を受けた。参加者の約8割は2022年に起きた洪水の被災者で、約3割は2019〜20年に発生した森林火災の被災者だった。
- PLAN C(本記事の執筆者の一人が創設、代表を務める)
https://www.planc.org.au/
心の健康に深刻なダメージを与えうる災害を視野に入れ、いざという時に自身や他者のケアができるよう訓練を受けておくことは非常に重要である。当プログラムでは、各人の被災体験を共有し合うことのメリットや、心的外傷(トラウマ)を受けた人の心をサポートする方法なども伝え、傾聴、思いやりのあるコミュニケーション、支援者と被支援者のセルフケアについても取り扱っている。近年の洪水や火災からの復旧に際し、地域支援を実施してきた人たちのネットワークともつながり、指導を受けた。
地域のリーダー同士がうまく連携を取れることも非常に重要である。SNSグループ機能を活用すれば、リーダーたちが協力し合って互いのスキルやリソースを共有し、地域社会として直面しうる課題解決に向けて助け合うことができるはずだ。
災害への備えと復旧において、地域社会は重要な役割を果たす。また、その役割を十分に果たせるよう、支援がなされるべきである。どういった活動が効果的で、大きなメリットをもたらしうるのか、「地域レジリエンス」向上についてのさらなる研究も必要であろう。地域社会に立ちはだかる課題に耐え抜いていけるよう、次の大災害が襲ってくる前に、今すぐに取り組みを進めていく必要がある。
著者
Rebecca McNaught
Research Fellow, University of Sydney
Amanda Howard
Associate Professor, University of Sydney
Jean S. Renouf
Lecturer in Politics and International Relations, Southern Cross University
Jo Longman
Senior Research Fellow, The University Centre for Rural Health, University of Sydney
※本記事は『The Conversation』掲載記事(2023年12月20日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
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