世界で最も多いギャンブル依存症者、536万人(有病率4.8%/2014年発表)を抱える日本。これへの何の対策もないまま、昨年12月、国会は「IR推進法」を成立させました。ビッグイシュー日本版309号では、帚木蓬生さん(精神科医/作家)をゲスト編集長に迎え、ギャンブル依存症について特集を組んでいます。
ホームレス状態にいたるきっかけであり、そこからの脱出を阻む足かせでもある、ギャンブル依存症の問題。

認定NPO法人ビッグイシュー基金より2016年8月15日に発行された『ギャンブル依存症からの生還 回復者12人の記録』(無料配布)から、309号のゲスト編集長の帚木蓬生さんによる前書きを転載します。

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「ギャンブル依存症からの生還」はじめに―人とギャンブル

1. ギャンブルの起源

 ギャンブルの歴史的先駆けは、おそらく占いや神判でしょう。亀の甲羅を焼いて、その割れ方で吉兆を占ったり、色の違う小石を投げて散らばり具合いで神託を想像する行為がそれです。しかしこの段階では、まだギャンブルとは言えません。ギャンブルが成り立つには、そこに財貨の所有がからむ必要があります。

 つまり、偶然による勝ち負け、賭けられる財貨、そして実施のルールという3要素が揃ってこそ、ギャンブルは成立します。わずかこの3要素でこと足りるのですから、ギャンブルは人間社会の始まりとともにあったと考えられます。
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 事実、紀元前のギリシアの壷絵には、神話上の英雄アキレスとアイアスがさいころ賭博している光景が描かれています。同時に、さいころに興じる美神アフロディアと牧神パンを描く青銅製鏡も出土しています。イエス・キリストが磔刑に架けられたとき、その衣服を誰が取るか賭けていたローマの兵士たちもいたほどです。

 これくらい、人とギャンブルは切っても切り離せない関係なのです。その結果、ギャンブルに溺れた例もこと欠きません。古代ローマ帝国の暴君ネロ皇帝は、さいころ賭博に今日の金額にして毎回500万円相当を賭けたといいます。古代エジプトでは、ギャンブルでこさえた負債を返すために、石切場の労働者になった貴族もいました。古代インドの叙事詩マハーバーラタの中には、さいころ賭博にのめり込み、まずは宝石やお金を賭けることからはじまり、家畜や領土も賭けて失い、最後には妻と自分までをも賭けてしまった王子の話が載っています。

 先の大戦でシベリヤに抑留された軍医の手記の中に、手製の花札賭博にのめり込んだ兵士が登場します。お互い賭ける物はないので、なけなしの食事を賭けるのです。とうとう最後の食事までも賭けて負け、その兵士は餓死したそうです。ギャンブルの魅力は、餓死をも選んでしまうほど強力なのです。

2.どういう人がギャンブルにはまるのか

 初めてギャンブルをした人が、その後みんなギャンブルにのめり込むわけではありません。あくまで一部の人がギャンブル症者になります。その結果、人がギャンブルにはまる特定の性格、生育史、家庭環境があるはずだと思われがちです。

 多くの場合、そうした要素はこじつけにすぎず、条件と環境次第で誰もが、たとえお釈迦様でも、ギャンブルにのめり込む可能性をもっています。2010年の相撲界の野球賭博、2015年の巨人軍選手の同じく野球賭博、そして今は2016年、バドミントン選手の裏カジノ出入りが、良い証拠です。はまったアスリートに特有の性格や生育史があったとは思われません。たまたま暴力団の毒牙にかかったというのが真相でしょう。

 ギャンブルにのめり込みやすい性格傾向として、よく取沙汰される3要素があります。新奇なものにひかれる(novelty seeking)、興奮を求める(sensation seeking)、危険志向(risk taking)がそれです。この3傾向は、言うならば若者の性向でもあり、ギャンブルが始まるのが20歳前という事実もそれに呼応していると考えられます。若い世代に、ギャンブルの危険性についての予防教育が大切なのも、そのためです。

3.借金

 18歳、19歳で開始されたギャンブルが習慣化すると、20代の半ばには借金が始まります。そして30代後半、精神科を受診するまでには、1300万円ほどがギャンブルにつぎ込まれています。
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 このお金の出所は、自分の収入以外は2つしかありません。家族による借金の肩代わりと、消費者金融や銀行、ヤミ金融からの借金です。借金の尻ぬぐいでギャンブルはやむことは万が一にもなく、逆に病気は重症化していきます。

 ふくらんだ借金の行きつく先は多重債務です。にっちもさっちも行かなくなると、債務整理をするしか道はありません。精神科を受診する前に、ギャンブル症者の4分の1から2分の1の人が、任意整理、個人再生、特定調停、自己破産をしています。中には債務整理を2回する破目になった人もいます。債務整理でギャンブルがやむのはほんの短期間で、早晩ギャンブルは再開されます。

4.嘘と言いわけ

ギャンブルに費やす時間とお金を工面するために、ギャンブル症者は嘘をつきはじめます。嘘をつき、言いわけをします。嘘に至っては、家の中や身内に振り込め詐欺がいるのと同じ状況になります。家族や親族、友人、同僚、知人、近所の人はころりとだまされて、お金を与えたり貸したりします。ギャンブル症者はこの金の工面のため、朝起きて夜眠るまで嘘を考えているので、嘘八百どころか嘘80万の状態になります。言いわけもつきもので、不実な態度を注意されても、ノラリクラリと言いわけですりぬけ続けます。

 この嘘と言いわけが人間を変えます。その終着点が3ザル状態と3だけ主義です。自分の病気が見えない(見ザル)、人の忠告を聞かない(聞かザル)、自分の気持ちを言わない(言わザル)で、何を考えているのかさっぱりわからない人間になってしまいます。親友などできるはずはありません。

 3だけ主義は、大切なのは今だけ(将来などどうでもいい)、大切なのは自分だけ(妻子や親兄弟などどうでもいい)、大切なのは金だけ(愛情や友情など知ったことか)です。

 事ここに至ると、人間らしい振舞いは期待できません。ギャンブル症者が次に走るのは、家庭内窃盗や万引き、横領、保険金詐欺です。マスメディアを賑わす窃盗や横領の背景には、往々にしてギャンブル障害が潜んでいます。

5.のめり込むギャンブルの種類

 日本には6つの公営ギャンブルと、法的にはギャンブルと見なされていない摩訶不思議な隠れギャンブルがあります。公営ギャンブルは、年商の多い順に列挙すると、競馬(3兆円弱)、宝くじ(9500億円)、競艇(9000億円)、競輪(6000億円)、スポーツ振興くじ(1000億円)、オートレース(700億円)です。そして隠れギャンブルであるパチンコとスロットの年商はおよそ20兆円です。
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 ギャンブル症者のはまるギャンブルは、5割~6割が、パチンコ/スロットです。パチンコ/スロットがらみでないのは、5%以下でしかありません。しかも女性では、ほぼ全例がパチンコ/スロットです。

 日本のギャンブルの一大問題は、このパチンコ/スロットがギャンブルと見なされていない点にあるのです。  違法ギャンブルとしては、賭け麻雀や野球賭博、裏カジノがあるものの、あくまで少数派にとどまっています。

6.ギャンブル障害の日本的な特徴

 ギャンブル障害には誰でも陥る可能性があると、前のほうで言いました。陥るか陥らないかの差は、ほぼ環境要因で決まると言っても過言ではありません。

a) ギャンブルへのアクセスのよさ

環境そのものにギャンブルしやすさが整っていると、ギャンブル症者は確実に増えます。

これを決定するのが、ギャンブル場の場所や立地条件、開催時期、年齢制限の有無、ギャンブルの害への無知などです。公営ギャンブルの競馬や競艇、競輪、オートレースでは、開催場所や開催日時は制限されているとはいえ、場外売場やネットでもギャンブルができる至便性があります。宝くじやスポーツ振興くじの売場は、人の集まる所には必ずあり、1年中売り出されています。年齢制限などないに等しいのです。

そして、ギャンブルとされていないパチンコ/スロットのホールは、コンビニのローソ ンよりも多く、全国に1万2000館あります。ギャンブルの機器の台数では、世界720万台の3分の2が日本に集中しています。朝は10時から夜も10時まで開店していて、冷蔵庫つきのロッカーや託児所を備えているホールも珍しくありません。ATMの設置もほぼいきわたっています。窮極の至便性と安楽性が実現されているのが、パチンコ/スロットなのです。

b) ギャンブル機器の射倖性

 パチンコやスロットなどの機器は、Electronic Gambling Machine(EGM)と言います。このEGM は、人をギャンブルにのめり込ませるために、あらゆる技術改良と工夫が可能です。古来からあるさいころゲームや花札、闘鶏などの比ではありません。もう少しで当たる錯覚を生み出すnear miss(near gain)の細工や、大当たり前振れを知らせるリーチ表示だけでなく、画像に馴染みのアニメや映画を登場させて物語性を付加します。これらの脳刺激は、派手な映像と音響によって何倍にも増強されます。危険ドラッグ同様、数回これらの脳刺激を受けると、もう脱け出せなくなるのです。

c) 借金のしやすさ

パチンコ/スロットホールにATMがあるくらいですから、銀行もギャンブルに費消さ れるお金を虎視眈々と狙っているのは確かです。ひと昔までは、消費者金融が大流行で、無人の貸金所まであったほどです。当人に返済能力があるかなどの調査は、爪の垢ほどもなされませんでした。しかもその金利は年率2割を超えていたのですから、高利貸と大差ありません。
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 しかし消費者金融からの借金が膨らんで、自殺者と自己破産者が増えたため、2006年に賃金業法が改正されます。過剰融資を防止するべく、総量規制が定められ、年収の3分の1を超える融資は禁止されました。ところが銀行は、この過剰貸し付けの規制からは対象外にされています。銀行のカードローン広告にも、「総量規制なし、年収の3分の1以上借入可」と謳っているほどです。

 しかも、この銀行の融資に、消費者金融が返済保証しています。今では大手消費者金融は、大手銀行グループの子会社です(アコムは三菱東京UFJフィナンシャルグループの子会社、プロミスは三井住友フィナンシャルグループの子会社)。これでは賃金業法の総量規制の脱法行為と非難されても当然です。

d) 尻ぬぐいの常套化

 ギャンブル症者がこしらえる借金の多くは、ほぼ例外なく、家族や親族が返済の肩代わりをしています。それも1回ではなく数回にまで至り、そのたびに尻ぬぐい額が増えるのが通常です。しかも尻ぬぐいのたびに病気は重症化するので、事は重大です。

 わが息子や娘の将来のために、借金をチャラにして身を軽くしてやりたいという親の意向はよく理解できます。しかし子どもがこしらえた借金を親が支払う必要はありません。返済能力がないのに、なぜ消費者金融や銀行が貸したのか疑念を抱いたほうが賢明です。そして、あくまでも本人の借金は本人が返済する、返済不可能であれば迷わず債務整理をする、という原則を守るべきです。欧米では、この認識が徹底しているので、たとえギャンブルにはまっても、家族や親族の金銭的被害は少ないのです。

e) 制限のないギャンブル広告

 ギャンブル障害は嗜癖の一種ですから、アルコール依存症やニコチン依存と同列に扱うべきです。喫煙はもはや新聞やテレビの広告には登場せず、煙草のパッケージにはその害さえも記載しています。アルコールのテレビCMにも、放映時間帯の自己規制がされています。しかしギャンブルには全く規制がありません。公営ギャンブルの宣伝は、タレントを使い、テレビや新聞にのべつまくなしに登場します。
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 パチンコ/スロットに至っては、文字どおりやりたい放題です。テレビのCMは朝から晩まで垂れ流され、新聞のチラシの半分はホールの宣伝です。液品の屋外広告、宣伝の旗の他、夜間に光線を空に放ったり、電車の車輌全体をラッピング広告にしたりと、あの手この手を使っています。社会全体がそれを容認しているのですから、まったく日本的現象以外の何ものでもありません。

f) 予防教育のなさ

 ギャンブルには必ず影の部分である、ギャンブル障害が付随します。この影の部分の予防教育が必要なのは、アルコールや麻薬、シンナーや危険ドラッグでは当然とされ、未成年者に対する教育が行き届きつつあります。飲酒運転に関しては、大人よりも子どもたちにむけて、「飲酒運転は犯罪です」と教えているNPO法人もあるくらいです。子どもにアルコール教育をしておけば、大人にも良い影響があると見越しての運動です。

 ところがギャンブルに関しては、こうした教育はまったくされていません。それどころか、子どもたちを呼び込むゲームセンターは花盛りです。ゲームとギャンブルはひと続きであり、そのなし崩し的な危険性(slippery slope)も無視されています。

 前述したように、ギャンブルが開始される年齢は20歳前ですから、予防教育は必須でしょう。若いバトミントン選手が裏カジノにはまったのも、ギャンブルの危険性に無知だったからと考えられます。

7.治療に不可欠な自助グループ

 ギャンブル障害の治療には多様な個人療法があります。しかし最も有効なのは自助グループへの参加です。これにはギャンブラーズ・アノニマス(GA)の他、入院や入所、通所施設があり、選択肢は選ぶに困るほどです。欠点は入院治療をする病院や施設、通所する場所が少ない点でしょう。GAを例にとっても、全国45都道府県に162グループが存在します。つまりGAのない県が2つあるのです。ちなみに私が住む福岡県には19のグループがひしめきあっています。全国の1割以上のグループが福岡県に集中しているのも、10数年以上前からの患者さんたちの努力の賜物です。患者さんは、居住地や勤務地近くのGAに、都合のいい曜日に自由に通えばいいのです。

 前に述べたように、ギャンブル症者は3ザル状態に陥っています。自助グループは周囲のみんなが当事者ですから、他の仲間を見て自分の病気を自覚し、聞く耳ができ、自分の気持ちを吐露できるようになります。個人療法だと、これが難しいのです。

 GAに関して言えば、ギャンブルをやめ続けている人は、月に8回GAに参加しています。つまり週に2回であり、GAのワクチン効果は1週間弱なのです。ひと月も参加をやめると、またギャンブルが再開されます。というのも、「ギャンブルでいったんタクアンになった脳は、二度と大根には戻らない」からです。ギャンブル障害は生活習慣病であり、治療は生涯教育なのです。

 自助グループ参加の目標は、単にギャンブルをやめることではなく、思いやり、寛容、正直、謙虚といった人間としての徳目の獲得です。事実、自助グループに通ってギャンブルをやめ続けた患者さんに接すると、その四つの徳目をひしひしと感じ、頭が下がります。



 この冊子には、以上述べたような過程でギャンブル地獄に墜ち、無事生還した12人の当事者の記録が掲載されています。その血と汗のにじむ回復の道筋を読んで、読者は心の底から感銘を受けるはずです。

 日本のギャンブル障害の有病率は、厚生労働省助成の研究班による調査で明らかにされました。2008年の調査で5.6%(男性9.6%、女性1.6%)、2013年の再調査で4.8%(男性8.7%、女性1.8%)です。この結果から厚労省は2014年8月、国内の有病者数は536万人と発表しました。ちょうど北海道の人口と同じです。

 この有病率は、イギリスの0.5%、スペインの0.3%、スイスの0.8%、スウェーデンの0.6%、カナダの0.5%、米国の0.42%と比較すると桁違いの高さです。アジアでもマカオが1.8%、シンガポールが2.2%にとどまっています。

 この有病率の異常な高さは、前に述べた日本のギャンブル促進政策が関与しているからだと言うことができます。

 上述した厚労省の研究班も、有病率を算出しただけで、実例の当事者の体験まではすくいとっていません。以下の12人の方々の体験は、ギャンブル障害の実情を知るために、この上ない知見を提供しています。

 自己の経験を卒直に話して下さった12人の方々の勇気に拍手をおくります。

帚木蓬生
ギャンブル依存症問題研究会代表、精神科医、作家。
著作に「やめられない ギャンブル地獄からの生還」「ギャンブル依存国家・日本 パチンコからはじまる精神疾患」など。

※(写真はすべてPhoto-Acからのイメージ写真です)

※2016/12/10追記
2016年12月8日の参議院・内閣委員会の山本太郎議員が「カジノ法案」に関する国会質問でビッグイシューの『ギャンブル依存症からの生還』を引用してくださいました。
当事者の声を聞いていただきたいと思います。

 
▼ビッグイシューのギャンブル関連ナンバー

309号特集:こわされる人間ーギャンブル障害(帚木蓬生 ゲスト編集長)
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https://www.bigissue.jp/backnumber/


261号特集:ギャンブル障害 ― 人間破壊に至る病

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https://www.bigissue.jp/backnumber/bn261.html


「ギャンブル依存症からの生還」を無料で配布しています

_cid_cfd341dfc60946d1a268683e77dbadf1_bo0120_720上記の「はじめに」が収録された「ギャンブル依存症からの生還 回復者12人の記録」をご希望の方に無料で送付いたします(着払い送料のみご負担ください)。

当事者12名へのヒアリングのほか、ギャンブル依存症者への回復支援についての座談会や全国の相談先一覧が収録されています。

詳細はビッグイシュー基金のサイトでご確認のうえ、お申し込みをお願いいたします。


 
















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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。