(2006年11月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第60号 [特集 ナチュラルに美しく 生き方大転換]より)
樹木は“CO2の固まり” 樹木に従属してこそ生きられる人間
日本が輸入している石油の約5分の1は、私たちの身の回りのさまざまな製品を作るために使われています。あなたは信じますか? 石油を使わず、植物や森林資源からもそれと同じものが作れることを。石油も元は樹木などの生物でした。石油から作れる物は樹木から作れるはず。植物を深く知り、その生き方に学ぶことさえできれば、それが可能になるのです。
では、早速、お話をすすめていきましょう。
地球上のすべての物質は何もしないとバラバラになる方向に動いていきます。(注1)CO2も地球全体に拡散しています。緑の樹木は、太陽光エネルギーの力を借り、そんなCO2を集め、地中から吸い上げた水(H2O)とで、糖類(炭水化物)を作りながら、酸素をはき出します。そして、でき上がった糖類は樹木の身体になります。これが「光合成」です。
もし、あなたが床のじゅうたんの上にコップの水をこぼして、それをもう一度コップに集めなければならないとしたらどうしますか? じゅうたんに染みこんだ水を100%回収するのは不可能です。この不可能を可能にするのと同じくらい、樹木の「光合成」は奇跡的なことをしているのです。
それは、大気という果てしない天空から、太陽エネルギーを使ってCO2を取り出して濃縮し、樹木という固体に形を変え閉じ込めるという仕事です。地球上で、このように地球外の太陽エネルギーを使える生物は、植物のほかには存在しません。
しかし、やがて樹木にも朽ちる時が訪れます。樹木は土壌の中で微生物によって徐々に解体され、水とCO2になり、再び大気中へCO2として放たれ散っていきます。この解体にかかる時間は数百年から数千年ほど。CO2は今日も、大気、樹木、土壌の中を長い年月をかけてゆっくりと巡る旅を続けています。
しかもCO2の旅は必ず一方通行です。
真っ赤なトマトと腐ったトマトがあるとしたら、腐ったトマトは絶対に真っ赤なトマトに戻りません。腐ったトマトは解体されてCO2になり、もう1度「光合成」によって真っ赤なトマトになって戻ってきます。地球上の生態系のシステムは全部この方向に流れ、持続的な循環ループ(注2)をつくっています。
CO2の循環の旅のバランスが崩れ、地球をおおう大気中に存在するCO2の量が急増して、循環ループがゆがんでいる状態が、温暖化したといわれる今の地球の姿です。
一見、宇宙の中で独立しているかのように見える地球ですが、太陽という電源がなければ植物による光合成は不可能になり、たちまち地球のモーターは停止。宇宙と地球の接点には森林があって、人間はそれに従属してこそ生きていける存在なのです。
注1/エントロピーと呼ばれる。物理学のエントロピーは「乱雑さ」とも訳され、物質やエネルギーの局在(偏り)の度合いをあらわす。
注2/CO2があるバランスを持って持続的に樹木と大気の間を循環する輪のこと。持続的な循環に対して、今のリサイクルは持続的な循環のループとは逆向きで、真の循環とはいえない。例えばバージンパルプに使い古しの紙を混ぜこんで紙を漉くのは、腐ったトマトと真っ赤なトマトでサラダを作るようなもの。
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イラスト:トム・ワトソン