Genpatsu

(2012年7月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 194号より)




福島第一原発では大きなトラブルは報告されていないが、小さなトラブルが多発している。そんな中で、夏を直前にして行っている工事がある。冷凍機の設置だ。気温の高い夏場の冷却不足を懸念してのことだ。冷却不足には注水を増やせばよさそうに思うが、それは地下水の汚染につながりかねない。建物から漏れ出ることのないようにギリギリの水位を保っているのだ。注水を増やせないので、水を冷やそうというわけだ。爆発した福島原発の後始末はまだまだ紆余曲折しそうだ。

増える一方の後始末費用を、果たして東電は負担しきれるのか。今回の家庭用電気料金の10パーセントを少し超える値上げ申請に対して、もっと利益を減らすべき、人件費が高すぎるなど、批判が相次いでいる。了解できる値上げか、二つの委員会で激論が続いている。一つは経済産業省の電気料金審議専門委員会で、もう一つは内閣府の消費者委員会である。

先に企業向けの料金を17パーセント値上げすることにも大反対が続いている。東京都病院協会は値上げ分を払わない方針を表明、参加病院のうちの大半の260病院が賛同している。診療報酬が決められており、電気料金の値上げ分を上乗せできないからだ。

企業向け電力は自由化された分野で、値上げは企業の合意が得られればそれでよい。他の電力会社との契約も自由だ。立川市や世田谷区など脱東電が進んでいる。他方、家庭用電力の自由化は検討されている最中だ。電力の自由化が進めば、私たちは自分たちの望む電力会社と契約できるようになり、風力発電会社などが設立されるようになるだろう。今は、値上げには政府の許可が必要だ。

値上げ申請では、東電は福島第一原発と第二原発を資産から除外した。しかし、10基のうち6基分の減価償却費と維持費の合計900億円を経費に加えている。資産から外したのなら減価償却は必要ないはずだ。おかしなことをしている。また、柏崎刈羽原発の運転再開も前提としている。

このような小ざかしいことをするよりも、5兆円といわれる送電部門を売却して、その費用で住民への損害賠償などに充てるべきではないか。






伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)