遺したいもの。アーティストとしての着地に向けて作品をつくる



映像と音楽を自在に組み合わせてつくる独自の世界。
この秋は初のピアノソロコンサートに挑む。






MG 6833
( 高木正勝さん)





すべてを越え共感できる普遍性、世界で10人のクリエーターに



非常に現代的、いや未来的にさえ感じる一方で、とても根源的で本質的な世界に誘われてしまう不思議。高木正勝さんの手から生まれる映像や音楽は、電子的なのに温かく、先端を行くのに懐かしい。ビデオカメラを片手に世界各地の風景を写した映像は、光や風、空気などその風景の中に感じ取った「色」が加工によって再現され、その「色」を補完する音楽と組み合わされていく。




「家の周辺には緑が多いんですよ。制作がはかどらなくて気分転換したい時には、本を読んだり、外に出て昆虫採集をしたり、山の中を歩いたり。ヒントを探そうと思ってそうしているわけではないんだけど、得たインスピレーションは曲をつくっている時に知らぬ間につながって、自然と組み込まれていたりしますね」





06年には世界最大級の映像フェスティバル「RESFEST」が選ぶ「世界の10人のクリエイター」に、09年には『NEWS WEEK』の特集「世界が尊敬する日本人100人」にも選ばれた。時代も国も言語も越えて、観る人、聴く人が共感、共有できる普遍性が、高木さんの作品にはある。

「ピアノを習い始めた中学生の頃に観た映画『ピアノ・レッスン』の中で、主人公がほんの10秒ほどスコットランドの民謡を元にした曲を弾くシーンがあるんです。民俗音楽とピアノが組み合わさった、なんともいえない魅力に驚いて……。日本の民謡もピアノの音に乗せたらどんなふうになるだろう、聴いてみたい、つくりたいとずっと思ってきたんですよ」





音楽、その始まりは自然や宇宙と話す方法だった




TakagiM HK


この秋、初のピアノソロコンサートツアーが幕を開ける。取材日の時点では「まだ曲が1曲も決まっていなくて」ということだったが、「イメージは、お母さんの子宮の中にいる時の感じかな。胎内で聞こえる音、見えるもの、そういうものを表現できれば」と思っている。

さかのぼって、08年の公演「Tai Rei Tei Rio(タイ・レイ・タイ・リオ)」は、そもそも音楽とは何だろうというところから、太古に生きた人々が初めて奏でた音を探り、今へと受け継がれている「大いなる流れ」に触れようと挑んだものだった。

「山とか海とか、自然や宇宙、人間ではないものとのかかわり、圧倒的な強さをもったものを表現したいと思って取り組んだプロジェクト。今の時点で思うのは、そういった人間でないもの、絶対に話すことのできない対象と話すためのコミュニケーション方法が音楽の始まりだったのかな、と。そう考えるようになってから、僕自身のピアノの弾き方や音楽の聴き方も変わりました」


この公演では9人のミュージシャンと共演。バイオリニストには「どう演奏してもいい。でも、想像してほしい。そこで焚火を囲んでおばあちゃんが子どもたちに昔話をしている。そのおばあちゃんの声が、バイオリンの音だとしたらどんな感じやろう?」と話し、イメージを共有した。




そして、今回のピアノソロコンサートでは「Tai Rei Tei Rio」ではできなかったことに挑戦したいという。

「ピアノ1台で、お母さんと子どもという小さくて身近な関係性を表現したい。たとえば、子守唄や鼻歌のように、穏やかで静かで、何でもないところにあるもの。子守唄って、メロディーや歌詞を単純に奏でるのと、子どもに対して歌うのとでは異なるものですよね。胎内で聞く、母が子のために歌う子守唄。それをどう表現するか。極端に言えば、ドレミファソラシドだけを弾いて、それが伝わるピアノを弾きたいし、僕も聴きたい(笑)」





そんな高木さんにとって、舞台のイメージとは?

「フィギュアスケートの浅田真央さんに、とっても共感するんです。リンク上ですることは決まっているんだけれど、この1試合はジャンプにこだわるのか、演技で魅せるのか、何に挑戦して何を達成したいのか。僕にとっての舞台も、それと同じ」





デビューから10年。今後について尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。

「アーティストとしての着地のことを考えています。着地って跳ぶことよりも難しいし、その年齢も人それぞれでいいと思う。僕は今、着地に向けて遺作に取り組んでいるような感覚かな。これまでのようにつくりたいものをつくるのではなく、遺したいものをつくるという、そんな心境なんです」



(松岡理絵)




高木正勝(たかぎ・まさかつ)
1979年、京都府生まれ。中学・高校時代にピアノを習い、学生時代に映像を撮り始める。01年にCD『pia』を米国でリリース後、国内外のレーベルからもCDやDVDをリリース。アートスペースでのインスタレーション、ライブも多数。デヴィッド・シルヴィアンのワールドツアーの参加、UAのミュージックビデオ制作ほか活動は多岐にわたる。
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