(2012年8月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第196号より)
ついに10万人を超えた!“大飯原発再稼働”反対の首相官邸前抗議デモ
関西電力大飯原発再稼動に反対する6月29日の抗議デモの参加者はついに10万人を大きく上回った。従来のデモとは一味違う、“親しみやすい”デモの参加者にインタビュー。
毎週金曜に集う母親や若いカップル
午後5時過ぎ、首相官邸前の道路にはすでに列がつくられはじめていた。強い西日が照りつけるなか、1歳6ヵ月の子を抱いた女性はこう話す。「デモに参加したのは今日がはじめて。ドキドキしたけど、『今、声を上げなければ』と思って」
その後ろに並んでいた男性は、「子どもが誕生した、と友人から今朝連絡があり、デモの参加を思い立ちました」と言う。
続々と集まってくる人たちは、ツイッターやフェイスブックだけでなく、会社や保育園での口コミで情報を得ていた。ベビーカーを押す女性や子ども連れの若いカップルも目立つ。従来のデモとは趣が異なり、さながら、夏の花火大会のような雰囲気だ。
3月末に始まった、関西電力大飯原発再稼働に反対する首相官邸前抗議行動。複数の市民グループの有志でつくる「首都圏反原発連合」が呼びかけ、〝普段着で参加できるデモ〟が毎週金曜日に行われている。「怖いイメージを払拭し、デモを当たり前にしていきたい」というのが彼らの意向だ。
「再稼働を阻止」を何とか訴えたい。そう模索していた人たちがこの運動に共鳴し、賛同者は回を追うごとに増えていった。当初の参加者は300人。2回目の4月6日には1000人になり、野田首相が最終的に再稼動を決めた後の6月22日は4万5000人に膨れ上がった。
そして29日。大飯原発3号機の再起働を2日後にひかえ、国民の憤りは最高潮に達していた。午後6時、官邸周辺は人であふれ、身動きもできないほど。車道が一部開放され、「前回より多いですよ」との声が耳に入ってきた。沿道を埋め尽くす人々は、思い思いのプラカードを掲げ、「再稼働反対」「原発いらない」と叫びながら、ゆっくり歩を進める。
福島からも、女性たちがこの場に駆けつけた。
「なによりも命が大事です」「どんなに毎日毎日心配のなかで暮らしているか。福島の母親たちの声を聴いてください」「子どもたちを守りたいんです。福島の子どもを見捨てないで」
ごったがえす道路からはずれたところで、子どもを遊ばせている二人の女性に会った。立川市に住む、それぞれ4歳と1歳の子どもを持つママ友だち。
「山本太郎さんが、『10万人集めたい』とツイッターでつぶやいていたので来ました。デモに対する抵抗はありましたが、みんなやさしく声をかけてくれて……。原発や放射能の話は、保育園でもなかなか言えません。同じ気持ちの人がたくさんいるのを知り、心強くなりました」「親に、『そんなこと気にして』と言われてしまうのですが、国分寺の放射能測定所で、粉ミルクを調べてもらったんです」
会社帰りに立ち寄ったという女性二人組は、「前回来ることができなかったので、今日は友人を誘って来ました。デモに行きたい、と親に話したら、『え?』と言われましたけどね」「若い人が多いので驚きました。原発は心配です、かなり」とにこやかに答えた。
この〝親しみやすいデモ〟は、原発が日常に密着した問題であり、憤慨している生活者が大勢存在する現実を映し出す鏡だ。
この夜のデモ参加者数は、目標の10万人を大きく上回った。しかし、国民の声は無視され、大飯原発3号機は予定通り再稼働した。7月6日の抗議デモは、あいにくの雨にもかかわらず、前週と同程度の規模になった。
この怒りは鎮まるはずがない。民意が反映され、脱原発が達成されるまで。
(木村嘉代子)
Photos:横関一浩