究極の家、ツリーハウスの系譜



子供の頃、木登りをしたときの気分を覚えていますか? 上空から世界を見下ろす爽快さ。ちょっと孤高の気分と優越感が混ざった感じ。それが人目につかないところであれば、とっておきの秘密の隠れ処にもなる。

手を回したって抱えられないような大きな木。かおるくんも、そんな木の上にツリーハウスをつくる空想をふくらませる。長くまがりくねったはしごを登りきったところにある自分の部屋。ホットケーキも焼ける台所! 夏には小屋の中でセミがなき、冬にはストーブが燃える暖かい部屋にクルミを持ってリスが遊びにくる…。(『おおきなきがほしい』文・佐藤さとる/絵・村上勉/偕成社)








空想だけでは飽き足らず、実際にツリーハウスを作ったのは『スタンド・バイ・ミー』(スティーヴン・キング/新潮文庫)のクリス、テディ、バーン、ゴーティの4人組だ。楡の木の上に廃材でつくった小屋で、タバコを吹かしあったり、くだらない冗談を言い合ったり。木の上の秘密基地という非日常の空間が、かけがえのない時間をくれる。







一方、都会のマンション暮らしに飽き飽きして、木の上で暮らし始めたのはアグライアとビアンカ(『木の上の家』ビアンカ・ピッツォルノ/汐文社)。コウノトリに運んでいた赤ん坊を押しつけられてしまった二人。セントバーナード犬のドロテアを乳母として雇い、赤ん坊4人の世話をさせたり、電気はシビレエイから取ったり…とマンション暮らしでは味わえないスリリングな日々が展開される。






ツリーハウスの歴史は古い。紀元1世紀頃の『博物誌』に記されているのは、ローマ帝国3代皇帝カリギュラが庭園に作った、15人ほどの招待客らが上がれる樹上宴会ホールだ。『ツリーハウスをつくる』(ピーター・ネルソン/二見書房)を見れば、世界には遊び心あふれるツリーハウスが数多く存在していることがわかる。





『スター・ウォーズ/ジェダイの帰還』のイウォーク族の森をイメージしたもの、まるで船が緑の海を悠然と進んでいるようなボート型のもの、ハワイのマウイ島ハレヤカラ山などには、ツリーハウスを気軽に楽しめるホテルもある。




ごつごつと温かみのある幹、しなやかな枝。木々の肩を借りてつくられたツリーハウスは、人類揺籃の場所、セルフビルドの原型といえるかもしれない。


(八鍬加容子)