<前編を読む>
心の病に対する、根強い偏見
イケダ: Light Ring.は「悩みを抱えている方」のサポートも実施していると聞いています。これまであった相談のなかで、驚いたようなエピソードはありますか?
石井: たくさんあります。例えば、病院に行ったことを友だちに伝えたら、イジメにあったという相談もありましたし、お父さんがメンタルヘルスの悩みを抱えていることから、ご父兄からの偏見が生まれたようなケースもありました。
イケダ: なるほど、むずかしい話ですね…。こういった問題の根底には無理解ということもあると思いますが、偏見についてはどう思われますか?
石井: 仕方のない面もあると思っています。もちろん、経験していないことを知ることは難しいですが、違う人間として切り離してしまうのは、人間関係という資源から自分からなくしてしまっているので、もったいないなとは思います。
実際、うつやメンタルに問題を抱えていても、社会で活躍している人もいるので、お互いに人間関係を持つことは、偏見した方された方の双方にとっていいことだと思います。
うつ病になりやすい人は、どんな人?
イケダ: こうして色々な方と触れられていて、うつ病など、メンタルに問題を抱えてしまう人には、何か共通点は感じたりするものなのでしょうか?
石井: 「真面目な人」というのは良く言われますね。あとは、完璧主義な人や何でもうまくやりたい人です。このような人は、本音の自分を誰にもに見せることができなくなる傾向にあると言われています。
イケダ: これはぼく自身、長年の疑問なんですが、何でそういう人は失敗を恐れているのでしょうね…? 失敗を恐れる人と、そうではない人の境界線って、どこにあるとお考えですか? とても抽象的な質問ですが…。
石井: うまくやらなきゃいけないというのは、幼少時代から成績で人が見られていたことも要因としてあります。また、真面目でいることとふざけることのどちらも大事なんですが、そう思える人と思えない人でわかれてきます。
具体的にこの人だけが認めてくれるという人がいれば、ふざけた一面も見せることができる一方で、そういう人がいないと、表向きにキャラクターをつくってしまい、メンタルの部分に問題が出てきてしまうんです。
イケダ: 普段は社交的な人でも、メンタルに問題を抱えている人もいるかもしれないですよね。
石井: 明るくて、”まさかこの人が”という人もなってしまっている事例もあります。自分が苦しんでいることに気付いていなかったり、隠すのがうまいかったりするんですよね。そこで、周囲の人が「苦しいって言っていいんだよ」「休んでいいんだよ」ということを教えてあげることが大事になってきます。
イケダ: そういう人には、「逃げていいよ」って言われると、救いになりそうですよね。実際にLight Ring.では、「ソーシャル・サポート力養成講座」という活動を行っていますが、具体的にどのようなスキルを育んでいるんですか?
「ソーシャル・サポート力」とは
石井: ソーシャル・サポート力養成講座で提供しているサポートは、大きく4つあります。それぞれ、共感や愛情を届ける情緒的サポート、形あるものやサービスを与える道具的サポート、問題解決に必要な情報提供をする情報的サポート、最後に効果的な自己評価を促す評価サポートです。
セルフチェック、”寄り添う”を定義すること、傾聴力を高める、専門機関につなげるということで、ソーシャル・サポート力養成講座というものを提供しています。
イケダ: ”寄り添う”を定義するとは、具体的にどんな感じなのですか?
石井: ”寄り添う”を定義すると聞くと難しいですが、利己的な寄り添うではなくて、本質的な意味で寄り添うことが本当にできていますか、ということをセルフチェックし、話し合いながら、自分なりの”寄り添う”を定義していきます。
イケダ: なるほど、寄り添うということについて、もう一度深く考える機会を与えるわけですね。もうひとつ、「傾聴力」は具体的にどのようなことなのですか?
石井: まず、傾聴力と一言で言っても、24のスキルがあります。視線、目線、姿勢、相槌、質問、繰り返しの5要素をベースとしながら、相手が聞きやすくなるような聞き方を学んでいきます。
「心の病の予防」を切り口にしたソーシャルビジネスへ
イケダ: 今は、悩んでいる人を支援する人をサポートしている活動を行っていますが、これからの展望についてもぜひ聞かせてください。
石井: いまは支える人をサポートすることを中心にしています。これはまだ民間サービスとしてスタートしたばかりで、これから自治体や企業内の同僚支援などにもつながるのではないかと考えています。環境設計に生かすモデルも展開したい。
イケダ: そうなると、企業のプログラム導入についてはお金をもらって行う、いわゆる「ソーシャルビジネス(社会的企業)」のような形になるんでしょうか?
石井: そうですね。企業の導入していただいて、社員の方のセルフケアや同僚同士のサポートができるようになるまで支援する形を考えています。現在は寄付で団体の活動が成り立っていますが、今後は事業収入が5割くらいを目標にして、企業とのコラボレーションや20代ではなくて、親世代のスキルアップなどの支援なども展開していけたらと思っています。
イケダ: 最後に、何か伝えたいことはありますか?
石井: 夜に眠れなかったり、夜中に甘いものを食べたりすることなどもメンタルヘルスの兆候になるので、周囲を見渡してみると異変に気付くことができるかもしれません。そのような中で、周囲の人としてアプローチできる人が増えていくことで、この社会問題の解決も見えてくるのではないかと思います。
石井綾華(いしい・あやか)
特別非営利活動法人Light Ring.(ライトリング)代表理事。1989年生まれ。小学5年のとき摂食障害を発症し入院するが、家族や学校の先生、友人たちの応援もあって克服。高校3年のときにアルコール依存症で父親を亡くす。「同じような辛い思いをする人を減らしたい」と、精神病患者を取り巻く社会の仕組みを学ぶため、2008年、大正大学人間学部人間福祉学科社会福祉学専攻に入学。2010年「こころの病予防プロジェクトa.light」を立ち上げ、居場所に興味のある若者が自由に過ごせる場を提供する「Co-Freetime」やメンタルヘルスを楽しみながら学ぶイベントなどを開催。2012年、『特別非営利活動法人Light Ring.』を設立する。
会場提供:講談社「現代ビジネス」
取材協力:徳瑠里香さん、佐藤慶一さん
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