「危険、ゼロにはできない」 福島事故が変えた米国の原発政策 [原発ウォッチ!]

Genpatsu

(2013年10月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 225号より)

「危険、ゼロにはできない」 福島事故が変えた米国の原発政策

9月23日に「福島原発事故の米国への影響」と題する講演会を主催した。講師は、米国から都市計画が専門のトーガン・ジョンソンさんと、米国原子力規制委員会・前委員長のグレゴリー・ヤツコさん。

トーガンさんは、カリフォルニア州内の多くの自治体から同州のサンオノフレ原発の再稼働を認めない自治体決定を引き出すのに貢献した人だ。福島原発事故で放出されたヨウ素が米国西海岸にまで達したことに大きな衝撃を受け、地元にある原発のことを調べるようになったという。さらにいろいろな人たちと情報を交換し議論するサンディエゴフォーラムを立ち上げた。

福島事故を見ながら、仮に、地元の原発で事故が起きたら、どのような被害がもたらされるのか?

土地の汚染によって、長期にわたる避難や健康影響への対応が必要になり、住めない町では住宅価格がゼロになる。農漁業のみならず、商工業も成立しなくなる。そういったさまざまな損失を、それぞれの分野の専門家に算出してもらった。

たとえば、住宅の損害だけでも43兆円に達するのに対して、米国の法律による賠償上限額は1兆2600億円しかない。そして、万が一の事故によるそれらの損害は誰が払うか? 結局は消費者である私たちだと訴えたという。

原発の安全を強化して福島のような事故が起きなければ、それらの試算は杞憂に終わるのだが、果たして二度と起きないと言えるのだろうか? 

事故当時、米国原子力規制委員会の委員長だったグレゴリー・ヤツコさんは、福島事故後に地震や津波を含む12項目の安全強化策を米国原発に導入した。それは重要なことではあるが、しかし、彼はそれでも「大事故の危険をゼロにはできない」と明言した。

サンディエゴフォーラムには、福島原発事故の時に総理だった菅直人氏も参加した。結局、大事故が起きた時の損害は物心両面にわたって甚大だ。このことを考えると原発から撤退して、新しい発電方法を考えた方がよいというのがフォーラムの結論だった。そして、サンオノフレ原発は廃炉となった。

翻って、安倍政権は、動かせない福島第一原発2基の廃止要請をしつつ、原発の再稼働を目指している。大事故時の多方面に及ぶ災害の大きさを、今いちど考えてみたい。

伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)