脱法ハウス、賃貸独居老人、上昇する家賃負担…日本の住宅政策はどうあるべきか?(2/4)

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第1部に続いて、第2部前半の内容をレポートしていきます。

第2部「これからの住宅政策のあり方」 検討委員会の各委員からの提案

<住宅政策提案・検討委員会>
・平山洋介委員長 (神戸大学大学院 人間発達環境学研究科教授)
・稲葉剛委員 (NPO法人もやい代表理事)
・川田菜穂子委員 (大分大学 教育福祉科学部講師)
・佐藤由美委員  (大阪市立大学 都市研究プラザ特任講師)
・藤田孝典委員 (NPO法人ほっとプラス代表理事)

不安定居住の歴史と現状

稲葉さん:
私の方から「不安定居住の変遷と広がり、というお話をさせていただきました。不安定居住の問題は古くて新しい問題です。1960年頃から「寄せ場」と言われる場所がありました。日雇いで仕事をして、「ドヤ」で寝泊まりしている人たちがいました。」

現在は福祉の町として、生活保護を受けている人たちが多い地区になっています。日本の不安定居住、不安定労働のひな形がここにあったのではないかと考えます。周りからの差別・偏見もあり、社会全体で取り組むべき問題として捉えられてこなかった。

これが変わってきたのが1990年代です。バブルが崩壊し、1993年頃から路上生活者が溢れ出しました。この写真は新宿の段ボール村です。東京、大阪、地方都市含めて、ホームレス問題が急速に拡大した。

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日本ではホームレスというのがイコール路上生活者、という限定されて定義されているが、その背後にはネットカフェ難民、ドヤやサウナを転々としている方々、さらには派遣会社の住み込みで暮らしている人たちがいる。

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不安定居住全体の問題として捉えないといけないが、狭い定義がされてしまい、そこだけの問題として語られてきてしまった。ところが、2000年代に入って、若年層にも貧困問題が広がってきた。

路上生活者は減少傾向にあります。支援者や法律家による生活保護の申請同行が進み、統計的に見ても減少しています。一方で、路上一歩手前の人たちは増えつつあるのではないか、と感じています。そもそも調査がなされていないが、実感としてはそういう人たちが増えてきている。

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2007年に流行語になった「ネットカフェ難民」。非正規が増えて住む場所を確保できない若者が増えていることが広く知られてきた。東京ではネットカフェ規制条例ができて、ネットカフェにすら寝泊まりできない人たちが出てきた。

そこにつけ込むようなかたちで新しいビジネスが生まれてきたのが、最近の状況。当初私たちはコンビニハウス、押し入れハウスと呼んでいました。貸し倉庫やオフィスビルを細分化して一部屋3万、4万円で貸し出す。

これが新たな不安定居住の形態として広がっているなぁ、と感じていたところ、今年毎日新聞の「脱法ハウス」報道によって社会問題化しました。国土交通省は「違法貸しルーム」と呼び、規制に乗り出しています。

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脱法ハウス規制自体には賛成だが、その内容に問題があると考えています。支援策が伴わないまま規制が行われています。建築基準法の「寄宿舎」の定義を当てはめて、仕切りをきちんとしなさい、という話にしている。

良質なシェアハウスやゲストハウスまで規制が掛かりそう、という新たな問題にもなっている。若者が自衛策としてシェアハウスを始めていたりするが、ひっくるめて全部規制されるという事態に。

そうなると、そもそも貧乏人が暮らせない町になってしまう懸念がある。一律に規制するのではなく、支援策を行うこと、若者で広がるシェア居住を制度的に位置づけて線引きを行うべきではないか、という提言を行っています。

日本の住宅市場の知られざる現状

平山さん:
私からは住宅事情全体の話をしたいと思います。不安定居住を生み出す母体はどうなっているのか。これを10分間でざっとご覧頂きます。

最初のグラフです。右は年齢別で持家率を見せて、左は借家率を見せています。よく分かるとおり、若い世代で持家率の下がり方がはっきり出ている。家を買うことによって住まいを安定させることが難しくなっている、ということです。

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持家率は6割で一定だが、中身を見ると、若い人が下がっている。高齢者の持家率が高くなっています。若い世代では民間の借家に住む人が増えている。

賃貸住宅高いし狭いし…でもいずれ家を買おう、と昔は考えていた。しかし、今は家を買えなくなっている。国際的に見ても、持家と借家の差が大きいのが日本です。日本では、家を買うしかちゃんとした家に住む方法がありません。

次は家族類型の変化です。「夫婦と子」が減り「単身者」が3割になっている。父子・母子も増えており、こちらは8.7%です。「結婚して子どもを産んで家を買う」という人たちだけではなくなっている現状があります。

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単身世帯の内訳でいうと、これから高齢単身者が増えていくわけです。日本では9割の高齢者が家を持っています。残り1割が賃貸。家を買ってください、という政策によって持家率が高くなったわけです。

しかし、この残り1割が問題。今後、絶対数が増えていきます。国民年金では民間の賃貸住宅ではまず住めません(*注:国民年金は満額でも月6万円程度)。単身、賃貸の高齢者をどうするか、これを考えないと大変なことになります。

続いて、持家セクターの変化を見ていきます。可処分所得が減っているのに、住居費が上がっています。返済額が増えている現状があります。政府は家を買ってくれ、銀行はローン借りてくれ、という圧力をかけている。返済負担率がじりじりあがっている。

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ご存知のとおり、ここ15年くらいデフレです。デフレということは、借金が重くなるということです。そういう観点から考えると、デフレが続いているのに、住宅ローン借りてくれ、一本槍という政策は、これでいいのでしょうか。

住宅の資産価値がダーッと下がり、負債額は上がっています。家を買って資産になる、という考え方はもう現実的ではありません。

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賃貸セクターでも、所得が下がり、住居費が上がっています。不景気で所得が下がれば家賃が下がるはずだが、なぜか家賃が上がっている。

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低家賃の家がどんどん減っていて、平均値が上がっている、というのがひとつの理由です。公営住宅や寮や社宅、民間の安いアパートが急激に減っています。都市の中から、安く住める場所が少なくなっているということです。

そして家賃負担率が20年で5%も上がっています。確実に住居費の負担は重くなっているのに、なぜか問題になっていない。賃金や失業率が数%変わると大問題になるが、住居はなぜか注目されません。

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世帯内単身者の比率が上がってきている。これは1990年代に初めて指摘されたことです。バブル直後ということもあって、当初は、いつまでも親元から離れていない、自立できない人々といったように、ひどい言い方をされていた。時間が経って研究が進むにつれ、むしろ非正規雇用で低賃金であることがわかってきた。

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家を出たいのに、お金がなくて出れない、という人が多いと見られる。30代の世帯内単身者の比率がどんどん上がっています。親元に住みつづける人の年齢が上がっている、ということです。生活が安定していていいじゃないか、と思われがちだが、親が定年退職したらどうなるか、本人も低所得です。老朽化した自宅の改修が難しいのではないか、と懸念されています。

最後に住宅の分類の図です。ややこしい図ですが、要するに、日本では公営住宅が4%しかない。こんなに公営住宅が少ないのになんでやってこれたのか。社宅、寮、親の家がある。それをひっくるめて、住宅を確保してきたという歴史があります。

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ところが現在、公営住宅も減り、社宅も減り、低家賃住宅も減っている。唯一増えているのは親の家。社会が壊れずに持っているひとつの理由は、親の家の存在があると考えられるでしょう。

しかし、そういうやり方で社会を維持していくのは健全なのでしょうか。独立して世帯を作りたい人向けに、低家賃の住宅を用意すべきだと考えます。駆け足になりましたが、私からは以上です。

part3に続く