<前編を読む>
自宅でできる品種改良の方法
タネといえば、品種改良、メンデルの法則を思い出す人も多いだろう。
江戸時代、日本人が夢中になったのが朝顔の品種改良だ。変わり咲きの「変化朝顔」を競って咲かせた人々がいた。そんな「変化朝顔」をつくる暮らしにあこがれる藤田さんだが、すでに自宅のベランダは「変化朝顔」庭園と化している。
「朝顔の交配で、新しい品種をつくろうといろいろとやってみています。去年植えたのはプランターで5〜6個、鉢で20個。ベランダ中、朝顔だらけでしたよ。つれあいから、『ベランダで物干しができない』って文句を言われてます」
交配はどのように? 「朝顔の花の真ん中にめしべがあって、その回りにおしべが5つあって、ほっとけばその花の中で自家受粉するんです。交配したいときは、朝、花が咲く前のつぼみを開いて、あらかじめおしべだけ取ってしまい、めしべに別の花のおしべの花粉をつける。すると、そのタネ(子ども)は両親の特徴が混じった花を咲かせます」
ところで、タネ屋で売られているタネは、完成された品種(F1)である。
「そのタネをまけば必ずその品種になります。が、その子どもは両親の性質を持ったさまざまなものが出てくる。だからおなじ品種を収穫したければ、F1のタネを買い続けなければならないんです」
自分の食べたフルーツのタネにも、同じことがいえる。
「食べたフルーツのタネを育てた場合も、十中八九、もとのフルーツよりはまずい。万に一つ、宝くじみたいなものですが、親よりおいしい実がなることもありますが。果樹の試験所の品種改良は日々そういうことをしているんですよ」
世界に誇れる日本の品種改良には、朝顔のほかに、稲や菊などがある。江戸時代には、タンポポも実はマニアックな日本人がつくった園芸品種もあったが、残念なことにそれはもう絶えたそうである。
アボカド、ブドウ、ビワ…。あのとき食った、あのタネが
藤田さんが1年前に植えたアボカドは、1年で人の背くらいに育った。
「アボカドは一気に伸びますね。一昨年まいたブドウ(巨峰)も、1メートルくらいになりました。ビワはすぐ芽が出ます。失敗があまりなく初心者におすすめです」
ブドウ、アボカド、ビワは観葉植物として大きめの鉢植えにして、大きくなりすぎるようだったら剪定すればいい。
盆栽にして楽しむ方法もある。
「小さい鉢に植えておけば鉢相応の大きさに育ちます。ギンナンをまけばイチョウの盆栽に。サクランボやカキも盆栽にでき、サクランボはうまくすると桜の花が見られますよ」
果樹は時間がかかりそうで待てないというせっかちな人には、「家の台所をごそごそすれば出てきそうな、大豆やとうもろこしがおすすめ」。豆もやしや枝豆もできる。
自給自足に興味のある人には、「お米はいかがでしょう。玄米は芽の出る胚という部分が残っているので、発芽します。バケツに植えて『バケツ稲』にすれば、お茶碗いっぱいのお米ぐらいは採れます」
園芸店で買ったタネなら、必ず発芽する。食べたタネだと発芽の確率はかなり低くなる。しかし、どうせ捨てようと思っていたタネ。あまり期待せずに、「芽が出たら、うれしいな」というくらいの気持ちで始めるのがいい。お金もかからないし、自分が食ったタネなら、より愛着がある。あのとき食ったあのタネが!ということで」と、藤田さんは笑う。
しかも、「種まきは自由への一歩」なのだ。
「何でも買えば手に入る今の時代。買ってくるのではなくて、タネをまき自分で収穫して食べるという、ほんの部分的な自給自足の実践が、あらゆる世界から自分自身を自由にすることに結びつくような感じがします」
藤田さんに影響された友人も増えているそうだ。
「ひとつ芽が出ると、何でもまいてみたくなると言っていますね。一度、芽が出ると、これもこれもと。調子に乗って家中が緑でいっぱいになったら、誰かにあげていただければ」。
そう言って、藤田さんはもう一度にっこりと笑った。
(編集部)
写真提供:藤田雅矢
イラスト:Chise Park
ふじた・まさや
1961年、京都府生まれ。
京都大学農学部卒。農学博士。
某研究所に勤務し、植物の品種改良を行うかたわら、執筆活動を行う。第7回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。日本SF作家クラブ会員。著書に『つきとうば人』教方画劇、『星の綿毛』早川書房、『ひみつの植物』『まいにち植物』ともにWAVE出版、などがある。