「食品ロス」と「ホームレス」は別々の社会問題と見られがちだが、米国には両課題に一度にアプローチする団体が数多くある。コロナ禍の困難に見舞われながらも、廃棄処分になっていた大量の食品を“レスキュー”し、食料が必要な大勢の人々の支援に取り組んでいる。
米国では食品供給の約30〜40%が廃棄されているとの推定がある*1。年間の総廃棄量は約1,330億ポンド(約6千万トン)以上、毎日一人あたり約450グラムの食品を廃棄していることになる*2。自治体のごみ廃棄場に運びこまれるものの中で最も多いのが食品で、この処理により、温室効果の原因であるメタンガスを大量に排出している。
*1 Why should we care about food waste?(US Department of Agriculture)
*2 日本の食品ロス量は一日一人あたり“お茶碗約1杯分(約132g)”と推定されている。
参照:食品ロスの現状を知る(農林水産省)
米国の食料廃棄率はパンデミック以前から高かったが、コロナ禍で飲食店が休業を余儀なくされ、生産者と流通業者は食料の販売先を失った。少しは店頭に並んだものの、全体からするとほんの一部である。かと思えば、パニックによる買い占めで姿を消した商品もあった。また、家畜の安楽死、農場での牛乳廃棄など、食品流通の現場で起きている生々しい実態も報じられ、あらためて「食料廃棄」の問題が可視化されている。
再びロックダウン、店舗の営業停止もありうる現在の状況では、食にまつわる仕組みを大きく見直す必要があるのは明白だが、食料廃棄の悪化は消費者側にも問題がある。飲食店の休業により浮き彫りになったのは、人々の食の消費方法だ。新型コロナウイルスの影響で、2020年3月、飲食店やホテルでの個人消費は60%以上落ち込んだ一方、食料品店の消費は70%増となり、4月から6月にかけてさらに10%伸びた。
パンデミックによって購入する食品に何らかの変化を感じている家庭は多く*3、食習慣に「全く変化なし」と回答したのは19%のみだった。米国農務省(USDA)による2020年度のデータ収集はまだ完了していないが、失業率の上昇や食料支援プログラムの利用者増を踏まえると、コロナ禍で食料の安定確保に苦しんだ家庭は増えていると予測される*4。
*3 参照:The Impact of COVID‐19 on Consumer Food Waste
米国では長期保存できるアイテムの購入が増え、生鮮食品の購入が減少。英国では冷凍食品の増加はそこまでではなく、生鮮食品の消費が増加。米国とは異なるパターンがみられた。
*4 参照:Food Insecurity during COVID‐19
米国で食べものが満足に手に入らない人は全人口約3億3千人のうち約5,400万人と18年度より約1,700万人増、満足に食べられない子どもの数も1,800万人と18年度より約700万人増との推定。
寄付を待つだけでなく積極的に回収する「フードレスキュー」
“食料支援団体”と聞くと、住民や食料品店から寄付された食品を困窮者に直接配給するフードパントリー*5を思い浮かべる人が多いだろうが、多くの団体ではそれだけでなく、積極的に回収していく「フードレスキュー」を実施しているところも多い。消費期限が近い、かたちが悪い、過剰在庫などで売り物にならないがまだ食べられる食料をレストランや小売店などから集め、必要とする人に配布している。
*5 困窮者に直接食料を配給する場所でスープキッチンともいう。一方、フードバンクは各フードパントリーに配給する食料貯蔵庫を指し、困窮者への直接配給はおこなわない。
デンバーの「We Don’t Waste*6」
コロラド州デンバーのNPO団体「We Don’t Waste(食品を無駄にしない)」は、コロナ禍以前からフードレスキューに取り組んできた。2009年の組織立ち上げについて、アドボカシー責任者のアリー・ホフマンはこう語る。「食のニーズは大きく、フードレスキューにも実に大きなニーズがあります。食料品はたくさんあるのに、米国ではその多くがごみ埋立地に直行です」
「We Don’t Waste」/Courtesy of We Don’t Waste
現在は、大型冷蔵車4台を所有し、広さ約1千平方メートルの配送センターにはウォークイン型の冷蔵庫があり、まもなく冷凍庫も設置予定だ。「食料を貯め込みたいわけではないので、倉庫とは呼びたくありません。あくまでもここは大量の食料を配布するための施設。地域住民に必要とされる分を提供するまでです」とホフマン。
「We Don’t Waste」/Courtesy of We Don’t Waste
コロナ禍での運用では「非接触」を徹底している。移動マーケットも月2回から8回に増やし、ファーマーズマーケット形式からドライブスルー形式に変更した。
「We Don’t Waste」で食料在庫や配布準備をすすめるボランティアたち/Courtesy of We Don’t Waste
*6 https://www.wedontwaste.org
テキサス州ダラスの「ステューポット*7」
大規模な生産者、流通業者、大型施設との連携を主とする「We Don’t Waste」に対し、テキサス州ダラスでフードレスキューに取り組む団体「ステューポット(The Stewpot)」では、飲食店や地元事業者から届く廃棄食品をカフェテリア形式で提供するとともに、地域社会への配布を行なっている。
ステューポットではストリートペーパー『Street Zine*8』の発行の他、メンタルヘルスの相談、移住サポート、ID取得、住居支援、住所がない人のための郵便物受け取り代行サービス、各種教室やワークショップの運営など、社会課題の解決を目指した「ソーシャルグッド」なプロジェクトを多数実施しており、その一環でフードレスキューも実施している。
オンライン登録すると無料で食品を受け取れる「食品配給ウィーク」を月に3回開催し、毎週130〜150人に食品を配布している(コロナ禍以前は月に1回、利用者は約100人だった)。ホームレス状態にありダラス・コンベンションセンターで寝泊まりしている500人分の食事を一晩で提供したこともある。
コロナ禍ではドライブスルー方式で配布している。トレイやカップ、ナイフやフォークなども使い捨てタイプを使い、ソーシャルディスタンスが確保できるようテーブルごとの椅子の数を減らすなどの対策を取っている。
「小さすぎる寄付なんてない」フードレスキュー・プログラム責任者のロブ・ギルドは常々そう感じている。
*7 https://thestewpot.org
*8 2003年から発行。コロナ禍の現在はPDF版。
https://thestewpot.org/streetzine
米農務省による生産者支援「フードボックス配布プログラム」
ここまでは流通済み食品の回収・配布を実施している団体を紹介したが、コロナ禍では生産者たちも大きな打撃を受けている。そこで米国農務省では「ファミリー・ファースト新型コロナウイルス対策法(FFCRA)」に基づく食料支援として「フードボックス配布プログラム*9」を導入。生産者や流通業者から農産物などを買い上げ、フードバンクはじめ地域密着型のNPO団体などを通じて、食料支援が必要な人々に届けている。さまざまな規模の流通業者と提携し、購入した農産物、乳製品、肉類は45億ドル(約4,660億円)規模になっている。
パンデミックで通常の食料品店やレストランに卸せなくなった生産者は、「フードボックス配布プログラム」のおかげで収益を生み出せた/Courtesy of MontCo Anti-Hunger Network
提携先の一つとなったのがペンシルベニア州モンゴメリー郡の「反飢餓ネットワーク(MAHN)」。ポーラ・シェーファー事務局長は語る。「このプログラムは、突如として食品の販売先を失った事業者を経済的に支援するもの。通常の販売ルートに乗せるのではなく、各家庭で利用できるよう箱詰めにする。そして我々が持つネットワークで、困っている人々に届けるのです」
「フードボックス配布プログラム」に参加したペンシルベニア州モンゴメリー郡の「反飢餓ネットワーク」。
2020年5月-6月で計2万5,500箱を配布。
フードボックス配布を進めるプロジェクトを2回に分けて実施した。5~6月に行われた第一弾プロジェクトではイベントを5回開催し、計2万5,500箱を配布。重量にすると37万8,750ポンド(約172トン)、金額で70万6,965ドル(約7,300万円)に相当する規模となった。7〜8月の第二弾プロジェクトではランズデール・ウェアハウス社と提携し、フードパントリーに直接届けた。合計2万2,424箱、重量にすると27万2,296ポンド(約124トン)、金額で39万3,328ドル(約4,070万円)相当だった。
「フードボックス配布プログラム」に参加したペンシルベニア州モンゴメリー郡の「反飢餓ネットワーク」。
2020年7月-8月で計2万2,424箱を配布。
「コロナ禍では、フードパントリーの場所や利用方法を知らない人々が、一夜にして食料援助を必要とするようになりました。このフードボックス配布プログラムにより、フードパントリーに行かずとも食料を入手できるようになりました」とシェーファー事務局長。
MAHNでは、フードバンクやフードパントリーなど43団体の活動を支援しているが、どこの団体も、ボランティアの多くが新型コロナウイルスの感染リスクが高い年齢層だったため、人員確保に苦労しているという。またMAHNでは、企業(ハットフィールド社、乳製品企業チョバーニ社など)からの大口寄付も取りまとめ、補足的に活用している。
*9 参照:USDA Farmers to Families Food Box
コロナ禍における希望の兆し
コロナ禍により食品流通はひどく停滞した。しかし、人々はソリューションを見出そうと努力している。
食料支援団体の地域社会とのかかわり方も変わった。MAHNのシェーファー事務局長いわく、管轄下にある43団体のうち3団体はコロナ禍で「オンライン注文」の対応を始め、支援の輪を広げている。ステューポットのギルドは、感染予防のためには十分過ぎるほどの対策が必要で、コロナ終息後も今と同じレベルの対策を続けてスタッフや利用者を守りたいと考えている。
人々の意識も変わった、とも感じている。世の中に大量の食べ物が余っていることを知りながら自分にはどうすることもできないと感じていた人たちが、キッチンに残っている食べ物を何かに役立てたいと考えるようになった。余った食品を寄付する価値を理解する人も増えた。飲食店や小売店側も、未調理の食材だけでなく、調理済みの食べ物でも寄付できることを学んだ。
「今まで付き合いのなかった飲食店などともやり取りするようになり、”食材を捨てるのもビジネスのうち”くらいに思っていた飲食店もそうではないと知ったのです」
シェーファー事務局長は関係者の取り組みをたたえ、「フードパントリーの運営者の皆さんは困難にもめげず臨機応変に対処し、食料を必要としている人たちの手に確実に届けようと、素晴らしい活躍を見せています」
パンデミックによる日常生活への影響は人それぞれ異なるだろうが、今まで遠い存在だったフードパントリーに列をなす人、仕事や家を失った人たちを身近に感じ、心を寄せられるようになった人も多いのではないだろうか。
「(困窮者は)怠惰なのでも、単に“施してほしい”というわけでもありません。病気の人もいれば、心身が傷ついている人もいる。支援を必要としている人をサポートする、これは人としてあたりまえのことです。もし私が痛手を被るようなことがあれば、誰かに助けてもらいたいですから。どこにも行く場所がない、居場所がない、途方に暮れてる人たちがいるかぎり、手を差し出すまでです」とギルド。
時には、“助けなどなくてもやっていけそうな人”が混ざっていることもあるが、支援の手を止めることはない。パンデミックにより、支援を必要とする人を見分けるのがより難しくなっているからだ。
また、一見して「ホームレス」に見える人々であっても、その背後には話してみないとわからないさまざまな事情があるものだ。「“ホームレス”であることに着目し、“どうせいつまでもホームレスだろう”とその人自身を見なくなるのはよくあること。でもそんな姿勢では何も見えてきません」
コロナ禍は悲惨な状況をもたらしているが、“支援を必要とする人”につきまといがちな偏見がいくぶん軽減された面もあるのでは、とギルドは感じている。
By Katherine Haines
Courtesy of INSP.ngo
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