長谷川:それではパネルトークの方に入りたいと思います。あらためてみなさんよろしくお願いします。星野さんの方から、まずご自身の自己紹介と今の蛭間さんの話を聞いての感想をいただきたいと思います。
星野:星野智幸と申します。このホームレスサッカーに関わるようになったのは、ちょうど蛭間さんが関わったのと同じ頃です。参加してみると、自分はまずとにかく「サッカーがしたくて、ここに来ているんだな」と思いました。そういう風通しのよい場であることがすごく心地よかったです。
蛭間さんのお話を聴きながら、やっぱり、思い出すのはパリ大会の前後、それから日韓戦のことですね。僕はちょうど、日韓戦がソウル市で行われる直前に韓国に住んでいて、その頃、韓国のビッグイシューの練習に毎週参加していたんです。なので日韓戦にはすごい思い入れを持っていて、終わったら、そのあと燃え尽きた感があるんですけども……。
会場:(笑)
星野:最近は練習に参加できていないんですけども、蛭間さんのお話を聴きながら、当時の色々なことを思い出していました。こういう大切な思い出が心の中にあるということはすごく重要ですね。
長谷川:星野さんについて少しだけ補足させていただくと、「野武士ジャパン実行委員」に加えて「路上文学賞」という、ホームレスの方だけが出せる路上の文学賞の選者もしてもらっており、当事者の表現活動の場を様々な面から応援頂いています。では、続いて米倉先生ご紹介をお願いします。
米倉:日本元気塾塾長の米倉誠一郎です。兼務で一橋大学のイノベーション研究センターの教授もしております。最近はアフリカの日本研究センターもやっております。この本の中に書いてあるんですが、まず、蛭間君がよくこの塾に来たと思いますよね。「日本元気塾」なんて。絶対、右翼の団体か、新興宗教かと思うものを……。
会場:(笑)
米倉:よく門をたたいたと思います。ビッグイシューとの関わりですが、詳細はよく覚えていないんですが、20年くらい前にアメリカで教えている時に、ワシントンDCのホームレスシェルターに教師と学生が共に奉仕にいくというプログラムがあって、その時の衝撃が大きかったのです。そこで、こうした体験学習を教育現場に取り入れようと、大学や社会人教育で取り上げてきました。
ビッグイシューのことはずっと気になっていたので、彼らの路上販売=「道端留学」という制度をぜひ日本元気塾のカリキュラムに入れたいと思いました。
ワシントンでびっくりしたのは、僕は「たまたま」こっちにいるんだなと思ったことでした。だからちょっと運が悪かったら、向こう側にいるんだろうなと。今も相当危ない橋を渡っているんですけどね。
会場:(笑)
米倉:いつクビになったり、いつ事故が起こってですね、僕は非常に品行が方正なものですから、急に大学をクビになって、それまでの住宅ローンがどっと来たら……。あっ、たまたまラッキーだなと思ったんです、こっち側にいるのが。
ホームレスや社会の問題は他人事ではなく、構造的なものだということを知らないと行けないですね。僕はビジネスとかイノベーション教えているので資本主義の手先といえば手先なんですけれども、その資本主義の素晴らしいところは、多様性の上に成立している事なんです。今我々が本当に目指したいと思うのは、さらなる多様性を許容できる社会を作ることなんですよね。
僕、今日の午後3時に成田空港に帰ってきました。今回はブータンの近くまで行って、素晴らしい日本の下水道技術を広めている、これも教え子の1人の木村弘子さんという68歳の女性がやっているベンチャーを支援しに行ってきたんです。インドのシッキム州には沢山の瞳の綺麗な子たちもいっぱいいます。そこに我々を文明と称して近代化を押し付けているのですが、一方で文明の素晴らしいところも分かち合わなければならない。
貧しい国の問題点は、お金がないことではなく、生活環境が不必要に悪い事です。とくに衛生状態が悪い。それに対してやっぱり少しでも衛生状態を良くしようというのは、近代化を担うものの責任です。彼らは本当にわずかな金額で、衛生状態を格段に改善する下水技術を広めに行っているのです。
ところで、若い人はみんな日本は初めからこんな近代的な社会だと思っているかもしれないですが、そんなことないんですよね。僕たちが小さい時だって、トイレは水洗じゃなかった。みんな水洗だと思ってるでしょ?そんなことないんですよ。
そういう時代を経て日本も豊かになったのですが、果たしてインドの子供たちと比べて、日本は豊かなのかなと思います。僕は、本当の豊かさとは、まさに多様性の許容だと思うのです。なにしろ、色々な人たちが色々いるから面白い、豊かじゃないかと。ホームレスのワールドカップなんてもう馬鹿ですよね? こんなの。
会場:(笑)
米倉:いったい誰がやるんだと思いますよね。そんな暇だったら仕事しろ、と言いたいけど、でもそれ面白いじゃない。そういう多様性を認めるというのが、実は本当の社会の力なんだろうなと思うんですよ。
そういうことをみんなで、ああいいじゃないか、そういうこともあるよね、と認めることができる社会が実は豊かで強い社会だということですよね。うちの学生なんて本当にかわいそうですよ。3つのことしか思ってないんです。まず、第1に大企業に入りたい、第2に大企業に入りたい、第3に大企業に入りたい。
会場:(笑)
米倉:何のために豊かになったのかなと思いますよね。ペンギンみたいな格好をして就活とかやっている。我々はもっといろいろなチョイスがある社会を一生懸命作ってきたのに、これは何なんだろうと思います。
だからこのホームレス・ワールドカップなんかは、今、日本はここまで豊かになったっていうことに加えて、多様性を許容するという点から言っても、いいなぁと思っているんです。そのうち僕も参加しますから、チームのメンバーとしてよろしくお願いします(笑)。
(会場拍手)