就労支援だけで若者は自立できない。 生活を含めた複合的な支援が必要!


『若者政策提案書』
より、「若者が生きていく生活基盤づくり」についての政策提案です。

 

現状の問題と課題

日本の現状では親の保護や援助なしで若者が自立することは非常に厳しい。家庭の経済的事情、 DV、児童虐待、親の精神疾患など、さまざまな事情のある家庭環境に置かれている全ての若者に、できるだけ均等な機会を保障していくことが若者政策の重要な柱である。そのためには、若者が自立していけるよう、教育、医療、生活などの面で支援をすることで、若者が働き、社会に参加し、生活基盤を築けるよう保障することが必要不可欠である。

なお、日本では社会保障制度が家族単位となっているため、例えば親権者等が適切な対応をしないと健康保険証が使えずに事実上受診できないというようなことが起こる。また、生活保護費が適切に使われなかったり、親権者等が若者の収入を搾取したりといった問題も発生している。若者の自立を促進するために、若者自身が社会保障の権利を個人として受けられるように、制度を家族単位から個人単位に変えていくことが必要である。

(1)若者のニーズに応じた支援

若者は学校卒業後、一足飛びに親から自立できるわけではない。多くの若者はその後も、親からのさまざまな援助を得ることによってようやく自立できる段階に達する。ところが、親に頼ることができない若者は、アドバイス、日常生活費、住まい、臨時的な支出を工面できないことがめずらしくない。失業、転職、職業訓練、学び直しなど、避けることのできない要件に直面したとき、危機を乗り切ることができ、さらにキャリアを形成していくことができるために支援を充実させることが必要である。 

(2)教育や職業訓練の保障

教育・訓練は若者の成長に不可欠の条件である。いつでも誰でもその機会を享受できるためには、経済的バリアを取り除く必要がある。とくに、家庭の経済事情から進学をあきらめ職業訓練を受ける機会もない若者を放置してはならない。日本は学費が高い上に、給付型の奨学金制度は一部の民間が行っているものだけであり、貧困家庭や社会的養護下にある若者が高等教育を受けるには、学費ローンを組む以外に方法がない。多額の借金を組み、卒業後にローンの返済に追われ、就職できなかった場合は生活困窮に追い込まれている。所得に応じた給付型の奨学金制度を公的な制度として確立する必要がある。

(3)安心して生活できる場所の確保――若者向けの社会的、公的住宅の整備

 18歳以前の子どもの保護は、児童福祉法に基づく児童養護施設や里親(住まい)と一時保護所(緊急避難先)が担っているが、18歳を超えた若者向けの公的な施設(住まい)はない。また、さまざまな理由で所得が少ない若者の大半は親の家を出ることができず、時には深刻な葛藤状態に置かれている。若者向けの社会的、公的住宅の整備が必要である。 

(4)生活困窮・社会的養護下にあった若者への生活支援

経済支援をもっとも必要としているのは養護施設で育った若者たちである。現在、18歳を超えた若者が親や祖父母などの養育者を離れて生活していくことを目的とした制度は、児童自立生活援助事業(自立援助ホーム)のみである。ほとんどの自立援助ホームは就労自立を前提とする子どもが対象であって、国の制度設計(措置費)も就労自立を前提としており、教育や職業訓練を受けたい若者をサポートする住まいや生活費などの生活支援を目的とする制度はまったくない。現在、自立援助ホームの一類型として認められている子どもシェルターを、自立援助ホームとは別個の独立した制度として位置づけ、各都道府県に少なくとも1ヵ所を設置することが必要である。また、暮らしが成り立つようになるまでの期間、緊急時には経済支援を受けられる体制をつくる必要がある。

(5)経済支援とならぶ多様な継続支援

貧困や虐待などを受けた子ども達が、高校に進学できず、あるいは高校を中退している割合は、そうでない子と比べて明らかに高い(※1)。また、虐待や十分な養育をされてこなかったことで、精神的疾患をもつ子どもは少なくない(※2)。彼らには、就労や教育より前に療養が必要である。こうした子どもを対象とする療養型の児童自立生活援助事業に基づく施設も必要である。 また、社会的養護や生活困窮で育ってきた若者は、本来、得られるべき自立に向けた家族のサポートを受けられない実態がある(※3)。そして、こうしたサポートがないことで、ちょっとした躓きから立ち直れずに、仕事や家を失ったり、健康を害したり、犯罪の加害や被害に巻き込まれることがある。このような若者に対しては、訪問支援や、相談・交流する場の確保などの継続的な支援が必要である。 社会的養護を経てきたか否かに関わらず、家族からのサポートが受けられないすべての若者を支援の対象とする制度が必要である。

※1 「児童相談所一時保護所・女性相談所・自立援助ホーム・子どものシェルターを対象とした10代後半の利用者実態アンケート報告書」 122 人のうち、高校等在学中 40 人、中卒 45 人、高校等中退 37 人の合計は 82 人となっている(2011 年 3 月 20 日 NPO法人子 どもセンターてんぽ、神奈川県保健福祉局福祉・次世代育成部子ども家庭課、神奈川県立女性相談所)。
※2 「子どもシェルター利用者の実態調査報告書」によれば、入所前までの時期に「精神的疾患(または障害)/症状」に関する記載があっ たものが 57 人(35.2%)、入所中に精神科を受診した者は 36 人(18.8%)である。(2012 年3月 社会福祉法人カリヨン子どもセンター)
※3 ※1のアンケートによれば、退所時に親や親族から1~4のそれぞれの支援を得られたのは、1金銭的支援(29.4%)、2精神的支 え(25.3%)、3帰省先・宿所の提供(20.5%)、4アパートや就労先、携帯電話等の保証人(8.2%)であり、多くの若者が家族か らの支援を頼れず自立していかなければならない状況にあることがうかがえる。

(6)福祉と就労の一体化、家族支援との一体化

若者支援施策は就労支援に偏りがちだが、複合的な課題を抱える若者には効果的ではない。若者のニーズに添って、福祉と就労、保健医療と就労など一体化した支援が必要である。そのためには、若者を包括的に理解し必要とされる社会資源へとつなぐソーシャルワーカーが有効であり、そのような人材を養成するべきである。 

 

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「子ども向け緊急避難シェルター」を運営する高橋温さんが語る。「帰る家がない子どもたち」が抱えている困難のリアル : BIG ISSUE ONLINE