【連載第7回】元ホームレスとごみ屋敷 岩田 太郎

家を失うトラウマは、ホームレスになった人を、一生苦しめる。

また、強制退去させられるのではないか。路上生活者になって、子どもの親権を再び失ってしまうのではないか。いつ、またすべてを失うのか。

最近、米国で注目されているのは、ホームレス生活から脱した人が、新居を「ごみ屋敷」にしたり、現在ホームレスの人が、倉庫を借りてまで、持ち物を手放せない現象だ。

英語では、「ホーディング(hoarding)」と呼ばれている。

シアトル市の元ホームレス、サラ・ウォルフさん(29歳)は、生活を再建してアパート住まいだが、すべてを再び失う恐怖から、モノが捨てられない。だんだん、掃除が手に負えなくなり、部屋はごみ屋敷と化した。

こうした元ホームレスが、全米で増えていることが報告されている。近所などからの苦情で、問題になることが多いそうだ。

同市でホームレス女性の援助活動をするメアリー・トレイシー氏は、「彼女たちは、再び人生の大惨事が起こることに備えているのです。

『準備しておかねば。過去に起こったことが、きっとまた起こるに違いない』と考えているのです」と言う。

シアトル市の別の路上生活者ヘルパーであるシェリル・セスノン氏も、

「もし(住居に加えて)モノまで失えば、彼女たちは(モノで維持している)安心感まで失ってしまうのです。そうなれば、すべてが崩壊したように感じてしまうのです」と説明する。

こうした、日本で言うところの「断捨離ができない現象」が米国でも増加しているのは、不思議ではない。

ホームレス生活を脱したとしても、いつでも人を解雇できる企業文化の下、雇用は不安定で、従業員をとっかえひっかえする力をもつ企業が、賃金を安く抑制する。

おまけに行政や世間は冷たく自己責任を強調する。安心感や安定感は、いつまでも得られない。

「ごみ屋敷」なるものの大半は、そうした不安定性によって必然的に生まれるのではないか。人の価値が正当に認められ、賃金が上がり、互助の精神が戻れば、自然と消散していくように思えてならない。