ケガ・病気の発生率と、医療へのハードルの両方ともが高い路上生活者たち

路上生活者に思いを馳せることがある人も、暑さ・寒さの厳しさは想像できるかもしれないが、実際はもっと過酷だ。コロラド州デンバーのストリートペーパー『デンバーボイス』が、路上生活の当事者と、健康相談や依存症治療を専門とし、路上生活者の支援に取り組んでいる医師に取材した。

小さな傷が致命傷になりうる路上生活

公園のそばで目を覚ましたとき、テアヤ・レクサの親指は大きく腫れ上がっていた。「外で寝ていたら、親指がヒリヒリして目が覚めたんだ。ムカデかヤスデに噛まれたのか…指がなくなるかと思うくらいのひどい痛みだった」。傷口を手近なもので消毒しようとしたが、所持品もお金もほとんどなかった。親指はどんどん腫れて上がり、痛みでうずくまるほどだった。家のない生活では、こんな小さな傷が命を脅かしうる。まさか自分がそんな目に遭うとは思ってもみなかったレクサは、「とても怖かった」と振り返る。

路上生活では、小さな負傷が命を脅かす事態に発展することもある Photos by Giles Clasen.

レクサは10代の頃から家のない暮らしを続けている。ADHDといじめに悩まされ、学校でも問題行動が目立ち、父親から家を追い出された。今は、寝られる場所を見つけては、そこで夜を明かしている。

ケガ・病気の発生率が高いうえに医療にかかりづらい

非営利団体「コロラド・コアリション・フォー・ザ・ホームレス(Colorado Coalition for the Homeless)」所属で、デンバー市内の路上生活者の診療にあたっているサラ・アクセルラス医師いわく、路上で暮らす人々の現実は非常に複雑かつ危険で、彼らが直面している医療的・環境的・社会的リスクが複雑に絡み合った状況は、家のある人々には想像がつきにくいものだという。「急性疾患も慢性疾患も発症率が非常に高く、急性外傷、感染症、インフルエンザや肺炎、高血圧、糖尿病、心疾患、がんなど、思いつく限りすべての慢性疾患も高い割合で見られます」

そこに環境リスクが重なることで、苦しみがより大きくなり、治療を受けることが難しくなる。治療を望んでいようとも、簡単には医療を受けられない。「路上生活者は気軽に病院に行けません。外出するとなると、生活に必要な道具一式が入ったテントを無人にしなければならない。これは、玄関の鍵を開けっぱなしで出かけるようなもので、貴重な所持品をいつ盗まれてもおかしくありません」

その上、移動手段もままならず、予約を取るのも予約日時どおり病院に行くことも難しい。また、過去の診療経験に大きなトラウマがあり、医療機関に不信感を募らせていることも多い。その恐れや不信には根拠がある、とアクセルラス医師は語る。救急外来やクリニックで差別を受けたり、ないがしろにされた経験をした人も多く、かなり追い詰められていたとしても医療に頼ることをためらわせる。

路上生活者が日々経験している苦痛は、外傷に限らない Photos by Giles Clasen.

長期的に路上生活を続けている者たちには、厳しい天候が命取りになることもある。「冬には、重度の凍傷から指を切断し、障害が残る人もたくさん見てきました。夏には、熱中症や脱水症状が命を脅かします」。車やバイクに轢かれる、公害や環境汚染から体調を崩す危険も高い。「衛生状態もよくないため、皮膚軟部組織の感染症(皮膚やその下にある脂肪・筋肉などに最近が入り込み、炎症を起こす病気)になる人もとても多いです。軽い感染症でも、あっという間に深刻化するんです」。呼吸器系疾患も繰り返し起きやすい問題だ。「人目につきにくいからと工業地域で生活する人も多く、煙や粉じん、化学物質にさらされやすいのです」とアクセルラス医師はいう。レクサも、厳寒の夜に仮設トイレの中で凍死した男性を目にしたことがあるという。「それでようやく、緊急時にシェルターに入れるようになったんだ。人が凍えて死ぬまで、誰も動こうとしなかった」

長年、トランスジェンダー女性として路上生活を続けるテアヤ・レクサ Photos by Giles Clasen.

薬物使用はホームレス状態の結果であって原因ではない

こうした身の危険が心のトラウマとなって、いっそうホームレス状態から抜け出しにくくなる。そんな状況が薬物使用に走らせる、ということが理解されていないとアクセルラス医師は指摘する。「ホームレス状態に陥る主要因は、失職や家賃高騰により安定して暮らせる住まいをあきらめざるを得なくなることであって、薬物使用ではありません」。ところが、いったん路上に出ると、厳しい状況を紛らわすために薬物に手を出してしまうのだ。「それまでは手を出したことがない人も、路上生活になると薬物を使ってしまうのです」

こうした生存手段を取ることで、人はたちまちのうちに疲弊と依存の悪循環へと引きずり込まれる。「日中でも安全に眠れる場所がない彼らは、鎮痛剤を使って精神を落ち着かせ、少しでも眠ろうとします。かと思えば、メタンフェタミンを使って、夜も襲われないように起きていようとすることもあります。こうして、深刻な睡眠不足と増えゆく薬物使用の悪循環に陥っていくのです」。ただし、従来の医療制度は、こうした現実に対応できるようには設計されていないため、多くの路上生活者が救急外来に送られるが、そこで受けられるのは一時的な処置に過ぎない。

しかし近年、既存の医療に求められてきた範囲を超えて人助けをしたい若手医療従事者たちの意欲に押されて、路上診療や統合的なアウトリーチモデルが増えていて、アクセルラス医師も希望を感じている。「他にも働ける場所はあるのに、この活動に意義を感じて、選択する人たちがいる。そのことが私の日々の力になっています」。
人びとが制度からすっかり見放されてしまう前に、彼らの居場所に足を運び、身体と心のケアをする。アクセルラス医師が目指すのは、シンプルだが切実なものだ。

By Giles Clasen
Courtesy of Denver VOICE / INSP.ngo

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