イギリスの街角では愛犬と一緒に仕事をするビッグ・イシュー販売者たちがいる。そんな彼らに話を聞いた。犬が一緒だと世話の大変さはもちろん、寝泊まりする場所も見つけにくいのではと懸念されるが、片時も離れずそばにいてくれる愛犬の存在は、それを補って余りあるものがあるようだ。
「ジョージは僕の救世主だ。」 3本足のジョニーと支えあってきたホームレス生活
販売者:クリス 愛犬:ジョージ 都市:ハンリー (Photo: Jason Lock)
そもそもジョージは僕の恋人の娘が飼ってた犬だった。彼女が飼えなくなったので、新しい飼い主を探していた。そんなある日、散歩に連れ出したら、ジョージが岩から飛び降りたのか滑ったのか、足を骨折してしまってね。恋人が着ていたコートでジョージをくるみ、かなり離れたところに停めていた車まで運んだ。その間、ジョージは一声もあげなかった。
後部座席に乗せ、獣医に連れて行った。翌日の夜、ジョージの足は切断された。 明くる日、家に連れて帰ったのだが、2日もするとジョージは再び元気を取り戻した。不滅の前向きさと生きることへの熱意があったからだと思う。何はともあれ、足を切断してしまった今、新しい飼い主は見つからないだろうということになり僕が飼うことになったのさ。
今やジョージは僕のすべてだ。ホームレスだった頃もジョージがいたから頑張ろうと思えた。テント生活でいつまでも寝続けていられた頃でも、ジョージにごはんと水をあげるためにちゃんと起きようと思えたもんな。
僕がホームレスになったのは、恋人との関係が破綻してやっていけなくなったから。何もかもが手に負えなくなり、れっきとしたアルコール依存症だったと思う。でも本当のところ、家を失ったその日からアルコールは止めたんだ。ジョージの世話をしなくちゃいけなかったからね。そう、ジョージが僕を救ってくれたのさ。僕の救世主だ。
家を失い、現状から逃れなければと思った僕は、3本足のジョージと一緒に歩き始めた。当時暮らしていたダービーを離れ、ペンザンスあたりまで歩こうかと思ってね。どうせ野宿するなら、もっと暖かいところがいいと思ったのさ。運良く、2〜3日経った頃、ある男がトラックに乗せてくれた。恐らく、僕らのことを何度か見かけていたのだろうね。ブリストルまで乗せて行ってくれ、そこで僕はビッグ・イシューの販売を始めることになった。
ジョージと一緒に寝泊まりできる場所が見つからず、野宿したことも何度かある。ホームレスになったばかりの頃は、何度も自責の念にかられたよ。ジョージの「生活の質」を考えると、こんなことをしていていいのかってね。ジョージは僕なんかよりも家のある生活ができるチャンスがあったのだから。ほら、見て。こんな愛らしい顔にノーなんて言えないよ。でも、僕が間違っている、ジョージを手放さなければと何度も思ったさ。でも、できなかった。ジョージが他でどんな扱いを受けるのか心配だったし、いろんな思いが頭をよぎってね。
今ではどこへ行くにもジョージと一緒。ひとりにさせておくのは長くても10分かそこらだ。路上で雑誌を売っていると、ジョージは注目の的だ。ちゃんと世話してやってるのかと人は疑うみたいだけど、しばらくすると、僕とジョージがいかに特別な関係にあるのかってことをちゃんと理解してくれる。
どんな時もそばにいてくれる愛犬は、ホームレスのかけがえのない存在
愛犬タズは僕らの誇り、そして喜び
販売者:クリス 愛犬:タズ 都市:マンチェスター中心部(Photo: Jason Lock)
タズは9歳になるスタッフォードシャー・ブル・テリア。僕と友達のアンディで飼っていて、毎日、僕らと一緒に出掛ける。タズは僕らの誇り、そして喜びでもあるんだ。いろんな人が肉・チキン・ソーセージなんかをくれる。タズはこの辺りでは誰もが知る存在だ。ずうずうしいところもあって、ソーセージ売りのトラックの方へ行きたがったり、行き先はタズが決めるのさ。すっかり甘やかされて、僕らよりずっといい生活しているよ。子犬の頃から一緒だから、もう仲間だね。どんな時でもそばにいてくれるから。
ジャックは僕にとってかけがえのない存在
販売者:ケビン 愛犬:ジャック 都市:リバプール中心部(Photo: Jason Lock)
ジャックは小型のジャック・ラッセル・テリア。何かにつけ完璧な子だ。9年前、まだハムスターくらいの大きさの頃にある人からもらった。虐待されていたらしく、僕の彼女のところに「犬を飼わないか」って話しがきたのだ。今ではジャックは僕にとってかけがえのない存在だよ。忠実で、反抗せず、とにかくよくできた犬だ。毎週日曜日に、娘と釣りに行く時も、路上で販売活動する時も、僕らはいつも一緒さ。通りがかりの人たちもジャックを可愛がってくれるよ。
デイヴが生後4ヶ月の頃からずっと一緒
販売者:ヒューイ 愛犬:デイヴ 都市: ブロムバラ (Photo: Jason Lock)
デイヴが僕のところに来たのは生後4ヶ月の頃。そりゃ最初は面倒を見るのが大変だったよ。しつけるのに数年かかったけど、今では不思議なくらい立派な犬になった。水たまりには入っていかないくせに、風呂の中には飛び込み、仰向けになって「洗ってくれ」と催促してくる。おバカなところや子供っぽいところもあってね。ビスケットをあげても、僕が近づいて「おいで、デイヴ!」って言ってやらなくちゃならないのだから。
キアは僕よりよっぽどいいものを食べてる
販売者:マーク 愛犬:キア 都市:マンチェスター
犬を飼うつもりは、これっぽっちもなかったんだけどね。キアは昔の彼女からもらったのさ。彼女、いつもキアをうちに連れてきて、週末は交互で面倒を見ようよって言ってた。結局、キアは僕の家で飼うことになった。今じゃ、自分のベッドもあるというのに僕のベッドの隅っこで寝てるよ。ベッドに頭をのせて、横目で僕のことを見てくるんだ。「キア、おいで!」って言うと、喜んでベッドに飛び上がってくる。キアは僕よりよっぽどいいものを食べてる。家にごはんが一食分しかない時はキアが食べ、僕は食事を抜く。それは当然のことさ。
偶然、飼うことになった愛犬が、前向きに生きる力を与えてくれる
アイスにもしものことがあったら、途方に暮れちまう
販売者:マッカ 愛犬:アイス 都市:ハル
ある日、娘がもらってきた一匹の犬が、その直後に7匹の子犬を産んだ。俺はその一匹をもらい、ウィスキーって名前をつけた。毛がブリンドル模様(注:虎のしま模様のようなパターン)だったからね。ウィスキーは僕の後をどこまでも追っかけてきた。その4週間後、僕の娘のもとに返された別の子犬を僕の彼女がもらうことになってね。娘がこの真っ白いふわふわの子犬を連れてきた瞬間、名前は「アイス」しか思い浮かばなかった。ウィスキーとアイスでぴったりだろ!だがその後、2匹はパルボウイルス感染症にかかり、ウィスキーは命を落としてしまった。手元に残ったのはアイスだけ。俺はウイスキー抜きのノンアルコール派ってことだな!俺はいつもアイスと一緒。アイスにもしものことがあったら、途方に暮れちまうだろうよ。
ロニーのおかげでいつも冷静でいられるし、ものごとに集中できる。
販売者:ショーン 愛犬:ロニー 都市:ハル
ロニーは秋田犬。子供の頃に母さんが飼っていたようなゴールデン・レトリバーを探していたのだが、ロニーを一目見て「いや、こいつにしよう」って思ったんだ。ロニーのおかげでいつも冷静でいられるし、ものごとに集中できる。できるだけ自分には厳しくありたいと思っているから、毎朝ベッドから起き上がろうとも思える。努力はすればするほど状況を変えられるのだから。ロニーのためにも僕自身のためにも最善を尽くすのみ。ただそれだけだよ。
ニーシュは俺の大切な仲間、お互いに支え合っている
販売者:ギャビン 愛犬:ニーシュ 都市:シェフィールド
ニーシュは5年ほど前から飼っている。前の飼い主が殴ってばかりだったから、助けてやろうと俺が引き取ったのさ。犬がいると寝泊まりする場所を見つけるのは難しくなる。自分のことよりニーシュの世話ばかりだなって人は言うけど、やはりニーシュのことが一番なんだ。こいつのためと思えなかったら、俺は屋根から飛び降りていただろうよ。ニーシュは俺の大切な仲間、お互いに支え合っている。
インタビュー: クリスチャン・リッセマン
INSPのご厚意による / The Big Issue North
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