5歳未満の子どもの約半数が栄養失調で死亡する恐れ:ケニアが破壊的干ばつで「国家災害」を宣言

近年で最も深刻な干ばつが襲うケニアでは、政府が「国家災害」を宣言する事態となっている。最も危険な状態にあるのは子どもたちで、最新の数字では、5歳未満の子どものほぼ半数が栄養失調で死亡する恐れがあるとのこと。河川が干上がってしまった地域では、野生の果物や痩せた植物の根を汚い水と混ぜ合わせた有毒の食べものだけで空腹をしのぐしかない状況だ。

食料不足、家畜の餓死、急激に広がる深刻な影響

ケニアは近年で最も深刻な干ばつに見舞われ、政府推定によると、深刻な食糧不足に陥る人々の数は、1月の200万人からすでに270万人に増えている。(2017年2月現在)国土の大半が破壊的な干ばつに襲われ、政府は「国家災害」を宣言するに至った。

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(c)photo-ac

「国家干ばつ管理機関(National Drought Management Authority)」によると、水や牧草の不足により、少なくとも1万1千頭もの家畜が餓死の危機にあり、4月までに家畜の90%が死滅する危険性があるという。

しかし、最も深刻な影響を受けるのは子どもたちだ。政府の公式報告によると、ケニアにある47郡のうち23郡、およそ100万人が緊急食糧支援を必要とする状況にある。

保健省の小児科看護師メアリー・ナリアカは言う。

干ばつの影響が深刻なケニア北部(バリンゴ、マンデラ、マルサビット、トゥルカナ郡など)では、急性栄養失調の罹患率が25%に及びます。5歳未満で死亡した子どもの少なくとも45%は栄養不良が原因。実に深刻な状況です。

慢性的な空腹状態にある子どもたち、口にできるのは毒性の食べ物

バリンゴ郡ティアティ地区では、空腹のため外で遊ぶ元気のない数百人もの子どもたちが、火のそばに座り、もうすぐごはんが食べられることだけを願いながら、ひたすら鍋が煮えるのを見つめている。しかし、鍋の中身はよくある食べ物ではない。周辺の河川が干上がってしまったため、野生の果物と痩せた植物の根を汚い水で煮詰めた毒性のある食べ物だ。

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少なくとも100万人の子どもたちが干ばつの影響を受け、食糧支援を必要としている。

Credit: Miriam Gathigah/IPS

ティアティ地区は首都ナイロビから297キロ離れたところに位置するが、干ばつの被害に見舞われているのはここだけではない。食糧安全保障に関する報告書によると、近隣のエレゲヨ・マラクエット郡やトゥルカナ郡でも、数千もの人々が、砂漠化、気候変動、雨不足の影響下にある。

農業および土壌保全の専門家ヒルダ・ムクイは説明する。

このあたりの地域では、母親が野生の果物や痩せた植物の根を子どもに食べさせています。12時間煮詰めれば毒素を取り除けると信じているのです。

ティアティ地区に住むテレサ・ロクウィーは、12才未満の子ども8人を抱える母親だ。「煮え立つ鍋」は子どもたちにとって希望の象徴なのだと言う。「鍋が煮えているのを見て、もうすぐ何か食べられると思えるだけで前向きになれるのです。」

20年以上にわたり農業省の農業部門責任者として被害地域の活動に従事してきたムクイは言う。「ケニア国内47郡のうち23郡で発生しているのは、雨不足、水不足、異常な高温だ。」事態はかなり悲惨で、バリンゴ郡だけでも、10の小学校と19の幼稚園に子どもの姿が見られない。家族と一緒に水を探しに行かなければならないからだ。ロクウィーによると、朝に家を出て夜まで帰れないこともあるという。

被害を受けた他の郡、特にケニア西部では、これまでタブーとされてきたシロアリなどの昆虫を口にしているという。このような食生活は一時しのぎにすぎないのだろうが、昆虫に関する法律や規制手段がないこの国では、このままだと大変危険な事態に陥りかねないと専門家は警鐘を鳴らす。物品・サービスの品質および安全性を査定する「ケニア基準局*(Kenya Bureau of Standards)」は、昆虫は「不潔」「避けるべき」と分類している。

農地の劣化、不毛地帯、最悪の危機事態はこれから

しかし、「水・灌漑省(Ministry of Water and Irrigation)」の予測からすると、最悪の事態が起こるのはこれからだ。長雨・短い雨ともに不足していることで、専門家が「危機」とよぶ状況が始まろうとしているのだ。

「砂漠化の深刻な影響を受けているのは、植樹するよりも多くの木を伐採しているから」とムクリは言う。ケニアの開発計画「ビジョン2030」では、気候変動の影響と闘うべく、2030年までに10億本の植樹をおこなうことを目標に掲げたが、達成の目処は立っていない。「少なくとも1千万人が食糧不足にあり、うち200万人が飢餓に直面しているのも無理はない。」

干ばつ被害を受けているのはケニアだけではない。 2月10日、 国際赤十字赤新月社連盟は、この干ばつにより、ケニア、ソマリア、エチオピアにおいて合計1,100万人が緊急支援を必要としていると発表した。

国連砂漠化対処条約(UNCCD)* によると、劣化した農地に暮らす人々の数が増加している。ケニアにおいて、農業は政府歳入の45%を占めるほど経済の中心である。「ケニアの人口約4,400万人のうち1,000万人、つまり農村地域の約40%に相当する人が劣化した農地に暮らしている憂慮すべき事態」とムクイは言う。

UNCCDの他のデータからも、ケニア国土の約80%が乾燥および半乾燥地であり、そこに人口の少なくとも35%が居住していることや、かつては農業に適した肥沃な土壌も徐々に乾燥し不毛地帯となっていることが分かる。

ケニア森林局の調査によると、ケニアの森林被覆率は7%と国際基準の10%を下回るだけでなく、国内最大の水源地「マウ森林地域」の推定25%は人間の営みによって失われた。

*国連砂漠化対処条約(UNCCD):深刻な干ばつ又は砂漠化に直面する国(特にアフリカ諸国)や地域が砂漠化に対処するために行動計画を作成・実施すること、また、そのような取り組みを先進締約国が支援すること等について規定した条約。1996年発効、締約国は194ヶ国+EU。

優先して取り組むべきは土壌劣化および森林被覆率の回復

そうした中、UNCCDはケニア国内のさまざまな関係者と協力し、土壌劣化の少なくとも500万ヘクタールを回復させる活動をすすめている。事務局長のモニーク・バルビューは言う。「ケニアは今後10年間、回復する土地よりも多くの土地を失うことはない。土地は未開拓のチャンスにあふれた資産なのだから、優先順位を上げて取り組むべきです。」

土地の状態が、貧困や飢餓に関する政策の有効性に大きく影響することも研究によって明らかになっている。

今後は森林被覆率の回復が国家を立て直す決め手となる。公式の政府統計によると、1975年以降に干ばつがケニアを襲ったのは11回、今回の干ばつが12回目だ。干ばつによる経済損失も無視できない。UNCCDの試算によると、ケニアの土壌劣化の年間コストは、GDPの少なくとも5%を占める。土壌劣化問題に取り組めば、土地の回復にかかる1ドルごとに4ドルを獲得できることになる。

その一方、人間の無作為な活動と気候変動の弊害によって進行する砂漠化に対し、実践的かつ持続的な法律によって取り組んでいるケニア政府の姿勢をUNCCD事務局長バルビューは高く評価する。

UNCCDは各国ごとの国家行動プログラムに取り組んでおり、ケニア版もすでに作成されている。

今後は、政府、地域社会、援助国、市民社会など多くの関係者間でさらに協調し、一丸となって努力することが必要だ。

UNCCDは、ケニア政府の砂漠化問題に対処する力を向上させるべく、自然資源の管理を推進するための財政的・技術的資源の提供、食料安全保障の改善、地域コミュニティと連携した持続的な土地利用計画の立案などの取り組みを展開する。

Courtesy of Inter Press Service / INSP.ngo
文:ミリアム・ガティガー

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