千葉県船橋市で民間学童保育を運営する「NPO法人アフタースクール」。学童保育の現状や、今年から始まった“働けない若者に放課後児童支援員への道を開く研修”について聞いた。
緊急兄弟保育、お兄ちゃんと一緒
学習塾から学童保育へ
ひとり親世帯などには割引制度
現在「アフタースクール」代表理事を務める桑野秀男さんはもともと、学習塾を経営し、パソコン教室や英会話教室も開いていた。保育園にも講師を派遣していたことから、ある時、保護者たちに「保育園は夜7時半までなのに、公設の学童保育は6時半には終わってしまう。卒園後も子どもたちを学童でみてほしい」と頼まれて2002年、週2日の学童保育を始めた。
※学童保育…おおむね小学校3年生までの児童を、親が就労している場合に限り預かる制度。
桑野 秀男さん
生徒は開設後すぐに20人になり、口コミで評判が広まると希望者が増えた。04年には保育時間を週5日・午後2時~8時半(最長10時)まで拡大し、「今は船橋市内の2つの教室で、小学1~6年生まで計50人の子どもを10人以上の大人でみています」。
月2万8000円で学習指導を受けられるほか、近くの自社スタジオで英語、そろばん、書道などの「カルチャー」も格安で習える。ドアツードアの送迎付きで、ひとり親・生活保護・住民税非課税世帯には割引制度もある。また、急な残業、会議、電車の事故など緊急時に即応する「電話1本の緊急保育」、保育園と連携しての「緊急兄弟保育」も地域に提供している。
いま、公設の学童保育は「70人学級のところも珍しくなく、待機児童は全国で約1万7000人。保育士頼みだった指導員も人手不足が深刻」だという。そこで15年度から、国家資格として「放課後児童支援員」が設けられた。高卒以上で2年の実務経験を積み、都道府県が実施する合計24時間の認定資格研修を受ければ取得できる。
1日3時間、20日間のトライアル研修
子どもと触れ合う楽しさを知る
これを機に、「アフタースクール」は千葉県内の地域若者サポートステーションと協力し、ニートの若者が児童支援員を目指す中間就労の場を作りたいと考えた。今年、「中央ろうきん若者応援ファンド」の助成を受け、若者を対象に20日間のトライアル研修を実施。「1日3時間、宿題をみたり、遊び相手になることで、子どもと触れ合う楽しさを知ってもらう」というもので、研修生には交通費込みで7万円を支給。
すでに研修を受けた7人の中には「働いた経験がなく、話し始めるのに5分もかかっていたが、人と交流する楽しさを知って電話の応対もできるようになり、就職活動に前向きになった」男性や、「高校を中退、ひきこもりも経験したが、来春から定時制高校に通う約束で、ここで2年働いて放課後児童支援員を目指すことになった」男性もいる。子どもと接する経験が、若者のコミュニケーション力や自己表現力を成長させるきっかけにもなっている。
20日間の研修を終えて、資格取得のために実習中の若者(アフタースクールにて)
「研修後は、公設の学童保育で補助支援員として2年の経験を積む道もありますし、支援員の資格を取れば、たとえば千葉県市川市で就職すると初任給が月20万円になります。国の方針で正規雇用への道も開かれています」
「子どもたちが当たり前に育つ環境が脅かされている」と語る桑野さんは「誰もが利用できる質の良い保育」の必要性を訴える。
私たちは、フルタイムでは働けない有資格者の保育士や教員に子育ての現場で働いてもらうことで、安価な料金で質の高い保育をめざしてきました。この仕組みを生かして、ニートなどの若者の雇用の機会もつくっていきたい。
将来的には現状に加え「シニアのパソコン・英会話・体操教室までを一つの建物に収めた支援センターをつくり、送迎は地元のタクシー会社と提携する」構想を温めている。「学童保育の場所の提供」などの申し出もあるが、将来の担い手の育成が今後の課題で、研修生の若者たちに大きな期待がかかる。
パソコン授業
NPO法人 アフタースクール 地域の声によって開かれた会員制学童保育を運営。地域の空きスペースを活用し、安価で質の高い保育を提供。電話1本の緊急保育、タクシー会社と連携しての送迎、地域のカルチャー教室との連携など新たな社会実験も試みている。 千葉県船橋市本中山4—11—6朝日新聞ビル3F TEL 047・302・8825
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中央ろうきん社会貢献基金
ろうきんは、はたらく人のための非営利・協同組織の福祉金融機関。
「中央ろうきん若者応援ファンド」は、家庭環境や経済状況、病気や障害などの社会的不利・困難を抱え、不安定な就労や無業の状態にある若者の自立支援に取り組む団体を応援する助成制度です。
2017年は、8団体に総額1,238万円を助成しています。