避難で人口減の福島県楢葉町 街のにぎわい作る“かかし制作”の女性グループ

東京電力福島第一原発から約15〜30キロ南の福島県楢葉町。約8千人の住民がいたこの町は、原発事故とともに多くの住民が避難した。2015年9月に避難指示区域が解除されたが、18年3月現在、約7千人の住民登録があるが実際の居住者は約3千人。多くの人々が今もいわき市をはじめとする県内外で避難生活を送り、自宅を新築して生活の中心を避難先に移した人も少なくない。

タウンミーティングで提案
かかし制作のエキスパート
婚礼衣装着せ、伝統伝える

「今、このかかしが着ているのは、実際に私が結婚式で着た白無垢の婚礼衣装。地域で花嫁行列をして、地域の人たちや親戚がたくさん自宅に集った、楢葉町の昔ながらのやりかたで最後に挙げた結婚式だったんですよ」

335hisaichikara3

忙しく手を動かし、等身大の「かかし」の着付けをしながら、地元の女性グループ「なにかし隊」の高原カネ子さんが和やかに話す。

「なにかし隊」は、早い段階で楢葉町に戻った女性たちが結成したグループだ。住民や地域コミュニティのために何かをやりたいという思いで名称を「なにかし隊」とし、毎月1回、定期的に町の「楢葉まなび館」に集まって、かかしを作っている。現在活動しているのは代表の高原さんら女性たち。

かかし制作のきっかけは、地元に戻った人々の支援活動をしている「一般社団法人ならはみらい」などが中心となって開いたタウンミーティングだった。楢葉町を活性化するにはどうしたらいいかをテーマに話し合う中で、子どもが少ない、町が寂しくなっていることなどの問題があがり、参加者の中から「かかしを作って、人間の代わりに置いてみては」というユニークな提案が出された。事例を調べてみると、高齢化に伴い町が寂しくなったという徳島県三好市で、等身大のかかしを作って地域振興を図っているグループがあることがわかった。

335hisaichikara2
楽しい会話のなかでかかしを作る「なにかし隊」のメンバー

そこで「なにかし隊」は、そのグループに教えを請い、子どもをモデルにするなど等身大のかかしを作り、公共施設などに設置し始めた。最初は、かかし1体を作るのに約1週間から10日かかっていたというが、現在は会員全員がエキスパートで、1体あたり1日で完成することも可能になった。かかし制作活動で、寂しくなった町は内外の注目を集め、にぎわいや元気を取り戻そうとしている。

昨年は大会で金賞
全国から届く着物や洋服
かかしが町内各地に

4月9日、まなび館で「なにかし隊」のメンバーが集まり、制作作業が行われた。この日は、4月29日から福島県平田村で開催される「第2回市町村対抗かかしコンクール」に出展する作品の仕上げ作業。実は「なにかし隊」は、昨年の第1回コンクールで見事、市町村の部で第1位の金賞に輝いた。

「ちょっとそっちを持って」「着物の襟が曲がっていないかな」。女性たちの声が飛び交う。等身大のため、着物を着せるにも最低二人が必要だ。呼吸を合わせて一体一体丁寧に整えていく。

335hisaichikara1
完成したかかし

地元の住民をはじめ、国内外のメディアでの報道で活動を知った全国の人々から、「使ってほしい」と、着物や洋服などが寄付された。それらを活用しながら完成したかかしは、町内の「あおぞらこども園」や、郵便局、銀行などの公共施設に置かれている。これらのかかしは、ごみのステーションで正しい分別の仕方を呼びかけたり、路上で安全運転をPRするなど、地域の人たちのための「活動」をしている。17年には、町内で開催されたイベント「歩こう会」の期間に、多数のかかしが町内各地に展示され、参加者や来訪者の話題を集めた。

「名前はどうしようか」「もう一人子どもがいて、にぎやかなほうがいいかな」。メンバーは、わいわい相談しながら、かかし一体一体の名前を決めていく。「名前を決めていくのも楽しいんですよ。それぞれのかかしには、家庭での出来事や結婚に至るまでのエピソードなどもあるんです」と高原さん。会話の途切れないにぎやかな作業が続いた。

(文と写真 藍原寛子)

あいはら・ひろこ
福島県福島市生まれ。ジャーナリスト。被災地の現状の取材を中心に、国内外のニュース報道・取材・リサーチ・翻訳・編集などを行う。
ブログhttp://ameblo.jp/mydearsupermoon/

*2018年5月15日発売の335号より「被災地から」を転載しました。

ビッグイシューは最新号・バックナンバーを全国の路上で販売しています。販売場所はこちら
バックナンバー3冊以上で通信販売もご利用いただけます。