日本で初めて地方自治体としてICO(Initial Coin Offering、新規仮想通貨発行)に挑戦すると発表した岡山県の西粟倉村。
西粟倉村役場の地方創生特任参事の上山隆浩さん、産業観光課 課長補佐の萩原勇一さん、そして西粟倉村でローカルベンチャー育成などの事業を展開しているエーゼロ株式会社(以下エーゼロ)の代表 牧大介さん、執行役員の山田邦明さんの元へ、ビッグイシュー・オンライン共同編集長でプロブロガーのイケダハヤトが訪問。
日本初となった自治体としてのICOに挑戦している理由をお伺いしました。
—
人口1500人の村がICOをやろうと思った理由は
「より多くの人を巻き込めるから」
イケダ:
そもそもなぜ、ICOやってみようと思ったんでしょうか。
上山さん:
国からもらえる交付金や補助金といったものは、必ずしも将来的に持続可能なわけではないからです。
国に頼らない自前の資金をどうつくるかということを考えていた時に、“クラウドファンディング”や“ふるさと納税”といったこれまでの手法よりも、ICOであれば「地域に共感してくれる人」の数よりも多くの人々を巻き込める可能性を感じました。
西粟倉村役場の地方創生特任参事の上山隆浩さん
編集部補足:西粟倉村とは
西粟倉村は、過疎化や高齢化に対し国策として行われた市町村合併「平成の大合併」の動きのなかで住民が合併を拒否し自立の道を選んだ村です。 |
イケダ:
時期はいつ頃をお考えですか?
山田さん:
金融庁さんや新しく設立された協会からのOKが出しだい、です。西粟倉村と、西粟倉村トークンエコノミー協会、仮想通貨交換業者、ブロックチェーン会社のchaintopeを中心に進める想定で、技術面については、研究・開発を進めているところです。
エーゼロ株式会社の執行役員の山田邦明さん
編集部補足:西粟倉村のICOのイメージ
|
山田さん:
「地域における資金調達ならふるさと納税やクラウドファンディングでもできるでしょ?」とよく言われるのですが、それらの手法を否定するわけではなく、それらに加えてICOならではの価値もあると思っています。ICOでは、コミュニティへの貢献度が高い人ほどコミュニティの意思決定により深く参加できる仕組みにチャレンジしてます。
編集部補足:ローカルベンチャーの下地
西粟倉にあるエーゼロの牧さんが考案したコンセプト。社会的起業といわれるソーシャルベンチャーと違い、その土地に埋まっている資産を発見してビジネスを展開し、地域のつながりのなかで地域の経済を成立させることを目指しています。村の事業としてローカルベンチャーの育成に力を入れており、ここ10年で木工、エネルギー、食品、福祉、工芸、アパレル、不動産など多様なジャンルでローカルベンチャーが立ち上がっています。 |
牧さん:
ふるさと納税やクラファンだと、もういろんな人がやっているのでやろうと思いさえすればできるでしょう?
難しそうで最先端なところに首を突っ込むことに意味があると思っています。
エーゼロ株式会社の代表 牧大介さん
山田さん:
会社や個人といったプレイヤーには、株式会社とかVALUなどのストックオプション的なインセンティブってあるんですが、「地域」というプレイヤーにはそれがなかった。
今回、「地域」というものに投資する、自らの貢献で価値を上げていけるストックオプション的な機能を入れていけたらと思っています。
イケダ:
確かに…「地域」にそんな感じで投資する仕組みってなかったので、おもしろいですね。たとえば村の中で賞与をトークンにしちゃえば、頑張り次第で価値があがっていくから、みんなめっちゃ仕事頑張りますよね。
牧さん:
「西粟倉・森の学校」には、村の人が投資してやってくれたことはありますね。
その素地はあると思います。
編集部補足:西粟倉・森の学校
西粟倉の「百年の森林構想」を実現するために、牧さんが西粟倉で立ち上げた会社。 |
他の自治体の資金調達のロールモデルになること考えたら、
規制というハードルは高く厳しいほどよい
イケダ:
他にもICOを検討している自治体はいくつかあったように思いますが、コインチェックの事件後、腰が引けている感じがします。攻めていますね。
上山さん:
「コインチェックの件があったことで規制が厳しくなる」ということは、私たちがリリースするときには「その厳しい規制をもクリアしたもの」、という信頼度が高くなるということとポジティブに捉えています。
成功すればその仕組みで他の自治体にも展開できるわけなので、他の地域モデルケースとなれるように、今回できるだけハードルは高く設定して進めたいと思っています。
イケダ:
国の規制っぷりを見てると、やめてほしそうなんですけど、国に嫌われないですかね。(苦笑)
山田さん:
「地域」が自ら資金調達をするようになるということは、国が補助金などで地方に出しているお金を出さなくてよくなる話なので、国にとっても悪い話ではないと思います。
地域が頑張ったらその地域のトークンの価値が上がるのは、株式化にも近くて、健全になると思うんですよね。
イケダ:
住民たちみんなにトークン持ってもらうって難しくないですか?スマホ持ってない人もいるのでは。
山田さん:
それはこれからですね。
村民全員に配っても1500人だから、メーカーさんなどが「うちの端末使ってください!」って言って来てくれたらいいんですけど(笑)
西粟倉村は役場を含め、なぜこんなに柔軟なのか
イケダ:
役場も含めてみなさんすごい前のめりなんですけど(笑)
西粟倉の人たちや役場の人たちって元々こんなに柔軟なんですか?
上山さん:
いえいえ(苦笑)
村ではじめて「木の里工房 木薫」というベンチャーを地元の森林組合出身の國里さんという方が立ち上がることになったとき、彼が開業届を役場に出しにいったら「開業届のフォーマットなんてない」と言われたそうです。それで他所の自治体のフォーマットを流用して開業届を出したと言っていました。そんなエピソードが12年くらい前のことです。
イケダ:
そこから10年ちょっとでICOって。(笑)すごい変わりようですね。
何がみなさんを変えたんでしょう。
牧さん:
チャレンジする人を応援する空気、でしょうか。
イケダ:
そういう地域の文化は、どのようにしてできあがってきたと考えますか?企業なら採用や制度設計で「企業文化」を作る方法はありますが、地域文化はどのように作ればいいのでしょう。
地域の未来を諦めたくない「埋土種子」のような人は、本当はたくさんいる。
条件が揃えば必ず発芽する。
牧さん:
どの地域でも上山さんみたいな、殻を破る人って役場とかにも潜在的には必ずいるはずなんです。埋土種子のように。ずっと黙ってるように見えていても、光とか、ある条件でパッと芽が出てくる。
「地域の未来をあきらめるしかない」という空気に支配されてるとその芽は出ないんですけど、本当はみんな生まれ育った場所は大事にしたいという気持ちはあるでしょう?
地域に大事な人たちもたくさんいる。本当はあきらめたくない人はたくさんいるはずなので、「あきらめなくてもいいんだと思う」ことが大事なんです。
イケダ:
まさに、そこが難しいと思うんですけど、「あきらめなくていいんだ」と思える土壌はどうやって作られていくんでしょう。
ローカルベンチャーをきっかけに、移住者が増え、子どもが増えた
上山さん:
2つあると思います。
ひとつは、メディアをはじめとした外部からの評価。
もうひとつは、実績として子どもの数が増えたということです。
2017年、はじめて人口減少がストップし、微増した。他のことはいろいろ賛否両論ありますが、「子どもの数が増えた」ということに眉をひそめる人はいないでしょう?(笑)
「子どもの数が増えた」背景には、移住する人が増えた、ということ、移住してきた人ってローカルベンチャーの人たちだ、ということなると、消防団とかの維持もその人たちのお陰でできてるという面もあるから認めないわけにはいかない。
そのうえで、メディアでいろいろ取り上げられていると、村の子どもたちや若者たちが「村や村で働くって、いいことなんだ」と村人のアイデンティティを持つことができるんですよね。
それで、チャレンジする移住者と触れ合ってるうちに、地元の人たちもチャレンジを応援する空気、そして自分たち自身もチャレンジする空気が出てきます。
でも、移住者が起業するときは地域おこし協力隊とかいろんな仕組みを使って支援しやすいのですが、地元の人がいざ刺激されて起業しようと思っても、地元向けには支援がなかなかない。行政はとしてはそこも支援したい。そこを自前のお金でやるためのICOなんです。
牧さん:
10年ローカルベンチャーを支援してると、行政もお金儲けていいんじゃない?と思えてきてますよね。
上山さん:
そうですね、お金の儲け方っていろいろあって。
イケダ:
すごい行政マンだ(笑)
移住者や起業は、自治体の気持ち次第で増やせる
イケダ:
にしても、どうやったら起業者を増やせるんでしょう。
上山さん:
確かに西粟倉は牧さんのように発信力が大きい人が村に来てくれた、というのは大きいかもしれません。
牧さん:
でも、僕が来たのも、他の自治体ではたいがい却下されるような提案でも西粟倉はおもしろがってくれたということが理由です。いろんな自治体とお付き合いしてきたけれど、僕のやりたいことをやらせてくれたのが西粟倉だけだったんですよね。
たとえば西粟倉は「地域おこし協力隊」のような地方みんなが使えるツールも「地域の課題を解決してください」というふうには使わない。
村の頼みごとを依頼したいわけではなくて、自分のやりたいことを実現してもらうために、地域おこし協力隊といった「制度を利用」するんです。
西粟倉にくれば精いっぱいやっていいんだよ、失敗してもいいんだよというメッセージを出してるんですね。「公金使うからにはちゃんと言う通りやれよ」というような空気はない。
2015年のキャッチコピーなんて「定住しなくて、いいんです」ですからね(笑)
一同:
それが通っちゃうんですよね(笑)
牧さん:
本来はそういう制度ではないのかもしれないけれど、その制度を作った人の意図を超える結果を出せばいいんです。そうすれば、意図と違う使われ方だったとしても、認めざるを得なくなる。
イケダ:
もともと「人のことを応援する」というような土壌はあるんですかね。
上山:
昔から、地理的に街道筋ということもあり人の往来がけっこうあったので、わからないもの、新しいものには触れ続ける土壌というものはあったかもしれませんね。
ありがちな「よそ者への反応」は薄れて行っている
上山さん:
移住者が少なかったころは、地元の人たちも最初はゴミの出し方といったお作法が気になる…とかあったかもしれません。でも、「集落を知らない人が歩いている」ということがめったにないときにはすごく気になったことも、いろんな村に今までいなかったような雰囲気の人がいっぱいいるようになると慣れてくるみたいですね。
牧さん:
「理解できる」ようになるんじゃなくて、「わからないことに慣れてくる」感じですね。(笑)
メディアでも取り上げられてるけれど、何をしてるかは村民みんなが理解してるわけではないです。
ただ、ローカルベンチャーが10年、13年と「続いている」「成長している」ということで、じわじわと信頼されてるということだと思います。
牧さんが考える 地域コミュニティ、トークンの可能性
牧さん:
世の中の流れとして、ブロックチェーンが普及してきてることに世の中の「枠組み」ごと変わるという気配を感じるんです。変化をしてしまってからでは遅いので、どんな波が来るかはわからないなりに、いい波が来た時にさっと乗れるように準備はしておきたいと思ってるんです。
「地域に未来がない」と「思う」から予算も低くなるだけで、本当は投資する価値はあるんです。
逆に、今みんなが過疎が進むからと言って投資しないというタイミングで僕たちは、そこにちゃんと投資をしていくと、50年後の未来を作っていけることになると思ってるんです。
投資するには資金がいるので、批判されるかもしれませんが、このタイミングで村のイノベーションのためには投資することに意味があると思っています。
そして、村がどんな未来になるかは、村の内外のいろんな人とディスカッションしていきたいんです。
具体的なビジョンを描ききらいないということを大切にしています。未来を見ている人たちとICO、ブロックチェーンなどについて議論できる環境にある、そのこと自体に意味があると。そのための関係づくり、コミュニティ形成の手段でもあります。
ICOやると関係者が増え、村を訪れる人が増えます。訪れる人の数が増えるとビジネスは増えるので。
イケダ:
なるほど。ありがとうございました!
――
「地方の未来をあきらめなくてよい」ということをまさに体現している西粟倉村。皆さん本当に未来を楽しみにした様子でお話ししてくださいました。
興味のある方はローカルベンチャースクールに応募してみてはいかがでしょうか。
西粟倉ローカルベンチャースクール
http://throughme.jp/lvs-nishiawakura/
(取材企画・文:マキノスミヨ)
編集部オススメ書籍
ローカルベンチャー 地域にはビジネスの可能性があふれている/牧 大介
西粟倉で2社で5億8千万円の売り上げを達成した筆者が、2009年からの企業ストーリーと「地域でのベンチャービジネス」を初めて語った。(書籍帯より)
1ページごとに、チャレンジを応援されているような気持になる、ワクワクがあふれ出て来る本です。2018年7月2日発売。
関連サイト
ローカルベンチャーラボ
https://localventures.jp/
「自分らしい生き方をする人を100万人増やす」ことを願うメディア「through me(スルーミー)」
throughme.jp