10月のある土曜日。『ビッグイシュー』のスタッフと高槻の販売者の長内(おさない)浩さんは、大阪の高槻市のNPO法人SEANに向かいました。
SEANのスタッフの皆さん、中央が事務局長の遠矢家永子さん
参加者の中には、岡山県倉敷から参加した人も。「たまたま岡山で販売している人を見かけて、どんなものか知りたい、と思って、ネットを検索していたら、今回の場に行きついた」とのこと。その行動力に会場から「すごい!」という声が聞こえました。
ホームレス状態は複雑な要因が絡み合う
最初は『ビッグイシュー』についてのスタッフの話。『ビッグイシュー』のDVDを見たあと、雑誌一冊の350円の売り上げから、180円が販売者の収入になるということなど基本的なことを含めて、どうしてホームレス状態に陥ってしまうのか。これには複雑な要因がからみあっていることなどをスタッフが説明し、問いかけていきます。
ホームレス状態になるのはさまざまな原因があり、依存症にかかっている人もいます。その中でも多いのがギャンブル依存症。これは気合いの問題ではなく病気として治療を受ける必要があります。それでも「自己責任」なのでしょうか。
酒乱の父にビンタされていた子ども時代。
児童養護施設を出た後、様々な仕事につくもホームレスに
続いて長内さんの自己紹介。
少年時代は「電車が好きで、あちこち行ってしまう放浪癖があった」と楽しそうに語りましたが、両親の話になると、少し表情を曇らせます。
「父は、電気技師でしたが、酒乱で…。お酒を飲むと暴れました。父親は酔うと母親にも暴力を振るい、口答えをするとビンタをされました。もともと自分に放浪癖があった上に、そういった事情もあって、私は児童養護施設に入れられて、中学校3年生までそこにいました」
母親も厳しかったそうで、長い間両親には会っていないそう。
その後、工場やパチンコ屋、新聞の営業などの仕事を転々とし、最後はサンドイッチマン(街角で看板をもって立つ仕事)を10年くらいしていましたが、2008年にその会社が潰れ、とうとう野宿をせざるを得ない状況に。
スタッフの「それまでに自分がホームレスになると思ったことはありますか?」の問いには、「いえ、まさか自分がホームレス状態になるなんて、思ってもみませんでした」と回答。
その後、炊き出しなどに通い、建築現場などの単発に仕事をして大阪に来た時に、ビッグイシューと出合い、今に至ります。
J-Popやローリングストーンズが好きなこと、また、年月日をあげると、すぐにその日の曜日を当てることができる、という特技を持っている長内さん。ビッグイシューの雑誌販売の仕事については
「雑誌が売れた時が一番嬉しい。楽しいことはいろんな人に会えるし、売っていると色んなことが見えてくる」と答えます。
販売で辛いことがあるかを尋ねると、「雑誌が売れない時です。夜どうしようか、考えています。あと、お客さんにセクハラされた時があります。お客さんに触られたのですが、その時はどうしようか、と思いました。やんわり注意しました。それ以来は来ていません」と路上販売の厳しさを伺わせるエピソード。
販売で工夫していることについては「言葉遣いには常に注意しています。来てくれると『いらっしゃいませ』と言うし、買っていただけたら『ありがとうございます』とはっきり言います。あと売る時に、お客さんが重複して買わないように、『これは今販売の号ですが、こちらは〇〇号です』というように、念をおしながら販売します。あと、清潔感を保とうと、お風呂にはいったり、身なりをきちんとするように心がけています」とのこと。
今後の目標は「きちんとアパートに入って生活すること」と力強く答えました。
今はカラオケボックスに宿泊しているけれど、「ステップハウス」に入りたい
スタッフと長内さんの質疑応答形式のお話のあと、今度は会場からの質問との質疑応答にはいりました。皆さん、聞きたかったことが多かったのが、多くの質問がされました。
Q: 今までの仕事でどれが一番、性に合っていましたか?
A: 『ビッグイシュー』です。サンドイッチマンもいいんですが、自由がないんですね。立つ時間を指定されるんです。『ビッグイシュー』は自営業みたいなもの。自分の好きな時間に売ることができるので、気に入っています。
Q: 今はどんな所で寝泊まりしていますか?
A: カラオケボックスです。ただ泊まる時は歌も歌います(笑)その時に歌うのは演歌やJ-Popです。ローリングストーンズは歌いません(笑)あと漫画喫茶も利用します。
Q: 今の目標はなんですか?
A: お金を貯めたいですね。茨木市にあるステップハウス(『ビッグイシュー』が借りているアパート)に入りたいです。一か月1万5000円で入れるます。
自己責任で済ませてよい問題か?
参加者からの長内さんへの質問のあと、参加者をふたつのグループに分けて、ビッグイシューを6分間読み込むワークショップが行われました。長内さんもひとつのグループに参加。
参加者から、「長内さんのおすすめの記事はありますか?」の質問に対して、長内さんは、「この記事は知っておいた方がいいことが書いてあるよ。あと341号には、災害に役立つことが書いてあるから、それも役立つから読んでおいたほうがいいですね」とアドバイス。
この場で盛り上がった課題に「自己責任」があり、振り返り言葉としてSEANの事務局長、遠矢家永子さんは「最近、特に自己責任論を振りかざす人が多くなり、性犯罪の被害者などにも、『お前も悪かった』という物言いをする人が多くいます。そういった背景を踏まえて、一度、「自己責任」ということをもう一度考えたい」と話しました。
シビアな課題も出たものの、笑いにつつまれることが多くなごやかな雰囲気の中で行われた今回の講義。
参加者のアンケートの回答では「(長内さんの)笑顔が素敵です」とか「(買いに来た人たちの)相談にのってあげるのもいいのでは?」ということも書かれており、長内さんの笑顔とユーモアのセンスで、心がほのぼのとした参加者が多かったようでした。
写真・取材協力:中尾まり
▼他の販売者の講義でのメッセージもチェック!
・「ホームレスになったのは誰のせいだと思いますか?」という高校生からの質問に、販売者が答えた内容とは/大阪府立豊島高校の道徳の授業
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