有限会社ビッグイシュー日本では、ビッグイシューの活動やホームレス問題への理解を深めるため、高校や大学へ出張講義をさせていただくことがあります。
自分の力だけではどうにもできない、社会的な壁がある
はじめに吉田より、ホームレス問題や雑誌『ビッグイシュー日本版』の仕組みについて説明。ホームレスという言葉は人格ではなく「状態」をあらわす言葉であることや、一度ホームレス状態になってしまうと、1人では立ち直りにくい社会的な構造について解説していきます。
「ホームレスの人、なんで仕事せえへんねん?って、思う人もいるかもしれません。でも、経営者は『何かトラブルがあったとき、誰が保証してくれるねん?』と考えます。保証人がいると安心して雇用できますが、ホームレス状態の人には保証人がいないことが多い。なので、やる気があって仕事ができても、保証人や携帯電話がないことで、コンビニのアルバイトも採用になりにくい。そういった現状があります。」
また、仕事を始めても、会社によっては給与の支払いが締日から1ヶ月後であったりと、給与後払い制であることで、生活が回っていかない場合も多いことを伝えていきました。
「一度ホームレス状態になってしまうと、自分の力だけではどうにもできない『社会的な壁』がドーンとあって、仕事をしたくてもできない。だからこそ、ホームレス状態や貧困状態の人ならだれでもできる『ビッグイシュー日本版』の販売という仕事を提供しています。」
「頼れる人がいなくなって、健康がなくなって、仕事ができなくなったら収入が減ってしまいますよね。そうすると家賃が払えなくなって、ホームレス状態になってしまう。誰でも、ホームレス状態になる可能性があるんです。もしそうなった時に大事なことがあります。『助けて』と伝えることです。私たちは『路上脱出・生活SOSガイド』*という冊子もつくっています。これには困った時にどこに相談したらよいか、という情報がまとまっていて、こうした支援団体さんにアクセスできたら、助けてくれると思います。逆に、何も困ってないという時には、自分にできることで誰かを助ける行動をしてくれたら、助けあえる世の中になるのではないかと思います。」
*NPO法人ビッグイシュー基金が発行・配布している困窮者のための情報冊子。
https://bigissue.or.jp/action/guide/
販売者の体験談「路上生活になる前になんとかすることが大切」
続いて、新大阪駅周辺でビッグイシューを販売している進藤さんの半生を語るコーナー。
進藤さんは福岡県の厳格な家庭で育ちました。「早く実家を出たい」との思いから高校を自主退学。事業を始めようと、夜はスナック、昼はボウリング場の仕事をしながら経験を積み、人脈を広げたそう。念願のバーを開くことができましたが、うまくいかず廃業。借金を抱え、紆余曲折を経て派遣社員となりますが、リーマン・ショックで派遣切りに遭ってしまいます。どんどん生活費がなくなっていき、路上生活に至ってしまいました。
(参考:進藤さんの体験談)
吉田から進藤さんに、ホームレス状態だった当時の様子を聞きました。
吉田「路上生活ってどんな感じだったんでしょう?」
進藤さん「寒くなりかけた時期で、寝られなくて、いろんな人が通るので怖かったですね。寝られなかったら座って、何も考えられずボーっとしていました。大阪に行くとあいりん地区など、ホームレス状態の方が多いので支援団体も多くて、ちょうど中之島地区でサポートしてくれている人からビッグイシューを教えてもらって、販売の仕事につながりました。」
吉田「販売を始めてよかったことはどんなことですか?」
進藤さん「はじめは全然、売れると思ってなかった。お客さん来ないだろうと思ってたのが、お客さんが来てくれて、「いつもがんばってるね」って声をかけてもらえるのがありがたいです、うれしいですね。」
吉田「辛かったことはありますか?」
進藤さん「冷たい目で見られると感じることもあって。周りの理解がないと続けられないなと思います。」
吉田「ビッグイシューを販売する上で工夫していることはありますか?」
進藤さん「雑誌の、3〜4倍あるポスターを作って、キャリーバックの上の方に貼っています。雑誌の内容を書いて見えるようにしたり。あと、お客さんが近づきやすいように少し離れて立つように、立ち位置を考えたり。あとは、なるべく綺麗に、身なりを清潔にするようにしています。」
吉田「路上で寝るのと、家で寝るのとは違いますか?」
進藤さん「路上で寝ると、何も考えられなくなってしまうので、そうなる前に何とかすることが一番大切だと思います。一度路上に出てしまうと、何とか這い上がろうと思っても、衛生面も整えにくいですし、どこかへ行きたくても交通費もないですし。1人ではどうしようもなくなってしまうので。」
経験者が語る路上生活の様子について、皆さん、真剣に聞き入っているようでした。
高校生からの質問
「お金がなくて辛かった時、罪を犯して刑務所に入ろうと思わなかったのですか?」
生徒の皆さんからの質問コーナーでは、事前に寄せられた質問も含め、一つひとつ回答していきました。
Q.路上で雑誌を販売するのは勇気がいりますか?
進藤さん「自分はもう、全然恥ずかしくないです。若い頃、いろんな経験をしたので。
お客さんが近づきやすいようになるべく笑顔で対応しています。長時間立てば、必ず来てくださいますのでそれで助かっていますね。」
Q.お金がなくて辛かった時、罪を犯して刑務所に入ろうと思わなかったのですか?
進藤さん「刑務所に入ってしまったら、出てから仕事に就くのが大変です。高齢だとさらに大変だと聞きます。」
Q.ホームレス同士の助け合いはありますか?
進藤さん「ホームレス同士の助け合いは、あります。年配の方が多くて、その方々は食べ物どこにあるとか、炊き出しはどこでやってるとか、どこで寝るのがいいとか教えてくれるんですね。大阪は、いろんなところで支援してくれるところがあるので、そういう情報をもらえるのがありがたかったですね。」
Q.販売者になって変わったことは?
進藤さん「日本人も、捨てたものじゃないなと思います。雑誌の売り上げは多くなくても、食べものを差し入れしてくれたり、声をかけてくれたりするのがありがたいことです。それまでは、声もかけてもらえないし、助けてもらえないことが多かったので。声かけてもらうのが一番嬉しいですね。自分がホームレスになると、いろんな見方が変わりますし、学ぶというのは、いいことからだけでなくて、悪いことも学んだので『誰かが困っていたら助けよう』と今は思えますね。昔は、人のことなんか気にもしなかったです。」
最後に進藤さんから、「自分がメッセージというのもおかしいんですが、自分の得意なことを見つけてください。僕は好きなことしかしなかったので、辛い経験も多かったのかなと思っています。いい経験も悪い経験も吸収して、生き抜くための知恵をつけてください。どんな状況でも思考を放棄しないで、諦めないでほしいと思います。」と、力強いエールを送りました。
「多様な仕事観やサポートを知ってもらいたい」
今回の講演を企画してくださった1年生の担任・末谷先生に、企画に至った背景をお聞きしました。
「総合的な探究の時間で、社会課題をテーマにした授業を考えていました。さまざまな社会課題があるなか、将来、生徒たち自身が貧困に陥る可能性もありますし、それを解決する側になれる可能性もある。そのため、貧困問題がもっとも身近に感じられるテーマなのではないかと思いました。
卒業後の進路は、大学や専門学校への進学だけではなく、就職を選ぶ生徒もいます。一般的に就職のイメージが湧かないまま就職し、短期で退職するパターンも多いんです。それもあり、キャリアの視点からも、働くことについてお話を聞いてもらいたいと思いました。逆に、仕事を辞めた場合のサポートについて知ってもらいたいという思いもあります。」
取材・記事:屋富祖ひかる
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小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
参考:灘中学への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」
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