「ソーシャル」×「話芸」の異色のコラボで“知るきっかけ”に。上方講談師の奇才・四代目 玉田玉秀斎さんによる「ビッグイシュー講談会」第一回レポート

「話をするプロ」というと、皆さんは何を思い浮かべるだろうか。漫才師や落語家、司会業などが思い浮かぶかもしれないが、日本には「講談師」という職業もある。

日本の伝統芸能のひとつで、歴史は落語より古く、独特のリズムでテンポよく繰り広げられる話芸。「その出来事が目の前にあるかのように感じさせる」ことができるというものだ。現在、講談師は全国でも100人を切っており、「講談」を見たことのある人の数も減少傾向にある。そんななか、ある講談師とビッグイシューがコラボレーションすることになった。


2019年1月27日の夜、講談師・四代目 玉田玉秀斎さんによる講談会「ビッグイシュー講談会」の第1回が大阪市中央区のカフェ「周(amane)」で開催された。初回は佐野章二(ビッグイシュー日本共同代表)との特別対談、そして、玉田さんによるビッグイシュー講談「ジョン・バード編」が披露された。

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会場のカフェ「周(amane)」。開演の19時には約30の客席がほぼ埋まった。

寄付型クラフトビール「DRINK BEER. DO GOOD」にヒントを得た
講談をつうじて、ちょっといいこと「Watch KOUDAN, Do good」

「Watch KOUDAN, Do good」。これが、玉田さんが掲げるこの講談会のキャッチフレーズだ。「講談でちょっといいこと」という思いを込めたものだが、そもそもどうして、講談とビッグイシューのコラボレーションが実現したのだろうか。

玉田さんは、高校時代にスウェーデンへの留学経験があり、講談師になったのちも多言語による講談に取り組んできた。さらには、ジャズバンドとコラボした「ジャズ講談」、小説家とともに即興の創作に取り組む「カクカタル(書く語る)」講談など、ユニークかつ独創的な講談を繰り広げてきた、上方講談会でも異色の存在だと言える。

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「ジャズ」×「講談」のセッション


そんな玉田さんはある日、大阪のデパートで行われた催事「ポートランドフェア」で、米国ポートランドにあるNPOによるクラフトビール醸造所「ExNovo」のことを知る。「ExNovo」は、クオリティの高いクラフトビールを作り、さらにその純利益を社会貢献事業に寄付するという活動を続けている。

そこへ集う客は「ここではおいしいビールを飲める。さらには支払った代金が社会貢献事業に使われる。おいしいビールを飲める満足感とそれが社会貢献にもつながる喜びの両方を同時に味わえる」と、ここでグラスを傾けるのだ。そして、その「ExNovo」のキャッチフレーズが「DRINK BEER. DO GOOD」。その発想と響きが玉田さんの脳裏に焼き付いた。「僕も『講談を聴いて、ちょっといいことしちゃう?』というような、講談会を創りたいと思いました」

その頃、同時に気になっていたのは、大阪の街角で見かけるビッグイシュー販売者のことだ。そこで、ビッグイシューとのコラボ企画「Watch KOUDAN, Do good」の企画を練り始める。ビッグイシューとは何なのか、どんな内容なのか、どんなシステムなのか、販売者さんやスタッフ、お客さんたちの思いはどんなものなのだろうか。それを講談というかたちで、多くの人に楽しんでもらいながら知ってもらえたら―。

玉田さんはビッグイシューの事務所に足を運んで代表やスタッフから話を聞き、誌面を読み深め、時には販売者サロンにも出席。販売者たちの声も直接聞いてきた。

「ホームレスの方をなんと呼べばいいのでしょう?」
「個人がホームレスの人のためにできることは?」
率直な質問をぶつけた代表・佐野章二との特別対談

そうして迎えた第1回。鮮やかな黄色い着物をまとい、にこやかに登場した玉田さんは、満席のお客さんを前に、まずは「ビッグイシューとはどんな雑誌なのか」「どうしてこの講談会を開いたのか」を笑いを織り交ぜながら語りかけた。続いて、佐野章二を迎え入れての特別対談が始まった。

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「佐野さん、どうしてビッグイシューを立ち上げたんですか? 61歳の時ですよね」と立ち上げ時の秘話を聞き出す玉田さんに、「周囲からは狂気の沙汰だと言われましたね(笑)。でも当時の僕には怖いものがなかったんですよねえ」と冗談めかして答える佐野。

編集部補足:立ち上げの秘話はこちらの書籍に詳しい。(Kindle Unlimited会員の方は無料でお読みいただけます)
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続いて、「僕ね、ホームレスの方をなんとお呼びしたらいいのかわからないんですが、どういう呼び方をするのがいいんでしょう?」「個人ができることって、服や食品の差し入れのほかに、どういったことがあるんでしょう?」と素朴な疑問を佐野に次々と率直にぶつけていく。佐野の回答はそれぞれ「ホームレスというのはその人自身ではなく状態を表す言葉なので、“ホームレス”というひと言で人を差し示すのはおかしいかなと感じますね。“ホームレス状態にある方々”もしくは“ホームレスの方々”というのはどうでしょうか」、「目の前の人への直接的な支援のほかに、ホームレス支援の団体をボランティア参加や寄付などで応援するというかたちもあります」だったのだが、真面目な質問でありながらも、時にユーモアをはさみながらテンポよく展開して観客の関心を引き続ける話術はさすが講談師。

「誌面には世界各地のニュースが載っていてわくわくするのですが、ビッグイシュー日本版は、世界約40ヵ国100誌以上が参加するネットワークに加盟しているとお聞きしました。僕ね、販売者さんが雑誌を持って立っている姿を拝見すると、この路上が40ヵ国とつながっているように思えて、その手のひらに壮大なスケールを感じるんです」。

また、佐野が「いつかホームレス問題が解決し、ビッグイシュー販売者がいなくなり、ビッグイシュー日本版がなくなることが我々のゴールなんです」と話すと、「ということは、このビッグイシュー講談会のゴールも、この講談会がなくなることですね!」と続け、会場には大きな笑いが巻き起こった。

少年院、ホームレスを経て、経営者へ。
英国『ビッグイシュー』創設者、ジョン・バードの物語

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休憩を挟んだ後半は、いよいよお待ちかねのビッグイシュー講談だ。講釈台に現れた玉田さんがゆっくりと語り始めたのは、1991年に英国ロンドンで『ビッグイシュー』を創刊した、英国人のジョン・バードのヒストリーだ。貧しかった子ども時代、罪を犯して入所した少年院時代、そしてホームレス状態を経てビッグイシューを創刊するまでの物語。英国での物語だが、語りのベースは関西弁。「なんで僕はこんな生活なんや」と一時は絶望を感じたジョン・バードが自分の可能性を信じて歩みだすストーリーが情感豊かに語られ、聴衆は最初から最後までその世界の中へと引き込まれていった。

「寒い日、ホームレスの方々を思い出してもらえたら講談会をやってよかったと思える」

約45分の「ビッグイシュー物語/ジョン・バード編~その一」を話し終わると、玉田さんは、会場の人たちにこう語りかけた。

「僕がビッグイシュー講談会の企画を考えていたある日のこと。その日はとても寒かったんです。ふと『ホームレスの方々はとても寒い思いをされているのでは』と初めてそんなふうに思いが至ったのですね。

ビッグイシュー講談会の役割は?と問われたならば、たとえば寒い日にふとホームレスの方々のことを思い出して心を寄せる、そんな方を増やしていくことなのかもしれません。もしそういう方が一人でも増えたならば、僕はこの講談会をやってよかったと思えるような気がしています」

(ビッグイシュー編集部 松岡理絵)

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玉田玉秀斎さんの「興味がある方には、ぜひ楽しんでいただきたい」とのご厚意により、この講談会へはビッグイシュー販売者を無料招待。さらに、講談会の収益の一部をビッグイシュー日本に寄付という、まさに「WATCH KODAN. DO GOOD」の会となった。

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会場内では販売者によるビッグイシュー誌の販売も


第3回「ビッグイシュー講談会」は2019年3月26日

講談師・四代目 玉田玉秀斎さんがビッグイシュー創刊から今に至る物語を講談にして語る、「ビッグイシュー講談会」の第3回が開催されます。
今回は特別対談として、前半はビッグイシュー日本版』販売サポートスタッフの吉田耕一がゲストとして登場します。
後半は、玉田玉秀斎さんが創作講談「ビッグイシュー物語 」を披露。
ビッグイシューの成り立ちや仕組みなどが講談の節に乗る、ちょっとソーシャルな講談会です。
(収益の一部がビッグイシューに寄付されます)

日時:3月26日(火) 19:00~(開場18:30)
場所:周amane(大阪市中央区平野町4-5-8-井上ビル3階※エレベーターがありません)
入場料:1500円 + 別途1ドリンクオーダー
要予約:amusie.nao@joy.ocn.ne.jp
電話:090-4308-7368(アムジー稲本)