どん底から1年。路上で実感した“つながり”の回復、自立への決意

ビッグイシューでは、ホームレス問題や、支援活動について知っていただくため、市民のみなさまを対象にさまざまな講義をしています。

3月30日には大阪市総合生涯学習センターにて「ビッグイシュートークイベント in  梅田」を開催。
 
この日登壇したのは有限会社ビッグイシュー日本・スタッフの吉田耕一と、阪急百貨店うめだ本店前でビッグイシューを販売する羽根(はね)さん。羽根さんはホームレス状態になってしまった経緯やその時の気持ち、これから目指す自立への思いを話しました。


イベントには約20名の方々が参加。中にはイベントを羽根さんから直接教えてもらって知ったという方もいらっしゃいました。

ホームレス問題に取り組むビッグイシューの姿勢とは

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イベント冒頭では、ビッグイシューの活動が取り上げられたテレビのニュース番組を全員で視聴。映像には羽根さんが実際に販売している様子や、インタビューを受けている場面もありました。
 

視聴後はスタッフの吉田がホームレス状態になってしまう方たちが抱える問題や、ホームレス状態からの自立を阻む社会構造の壁についてより詳しく話を進めていきます。

「ホームレス」という人ではなく、「ホームレス状態の人」がいるということ

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映像とスライドでビッグイシューの支援の概要をお伝え

吉田 コンビニなどではどこでもアルバイトを募集しているのに、なぜ販売者は、そういうところでアルバイトをしないのでしょうか? それはホームレス状態になってしまうと、アルバイトに就くことすら難しくなるからです。

アルバイトに就くためには、保証人や住所が必要になります。それに1ヶ月以上先の給料日まで、お金のまったくない状態で働けるかというと難しいのです。だからこそ、ホームレス状態の方の選択肢として、ビッグイシューの仕事に意義があります。

―― ホームレス状態の方の「働きたい」という気持ちを、社会構造の壁が阻んでいるとも言えるかもしれません。ではなぜホームレスになってしまうのか。その理由は倒産、ギャンブル、病気、介護離職などさまざまです。

吉田 「ホームレス」という言葉はその人の「状態」と表すのであって、その人の自身を表すものではありません。
ある人がホームレス状態であるからといって、働きたいという意志が不当に認められなかったり、社会全体がそれを阻んだりする理由にしてはならない、ということですね。

人生を前向きに考える力を与え、自己肯定感を高めていくビッグイシューの自立支援

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ビッグイシュー日本スタッフの吉田が登壇

ビッグイシューが支援の面で重視しているポイントについても解説していきます。

吉田 販売者となった方には、ビッグイシューを売る場所を自分で選んでいただき、最新号やバックナンバーの仕入れ数をどれくらいにするかも自分で決めていただきます。

――なぜ自分で決めることが大事なのでしょうか。
ホームレス状態になることで起こる問題のひとつに、将来への希望がなくなり、自分の人生を前向きに考える力が弱まる、ということがあります。これは自己肯定感の低下が原因です。

吉田 他人や会社に言われてやるのではなく、自分で決めてチャレンジしていただくことで、次第に生きる力が湧きます。そして自己肯定感も高まり、人生を前向きに考えることができ、それがホームレス状態からの脱出、自立につながります。

こうしたホームレス問題の解決や自立を応援することのほかに、スポーツ文化活動や政策提案もおこなうビッグイシュー基金の取り組みも紹介していきました。
ビッグイシュー基金:http://www.bigissue.or.jp/

販売者の羽根さんが決して忘れられない日
情報という命綱と『路上脱出・生活SOSガイド』

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販売者の羽根さん。普段は阪急百貨店うめだ本店前で販売

第2部では羽根さんが、路上に出たあの日を振り返りながら、今の心境を語りました。

羽根さんがホームレス状態になったのは1年前、仕事や家庭のストレスからパチンコにのめり込んでしまい、ワーキングプアの状態からすべてを失い、住み込みの仕事を探しますが、うまくいかず釜ヶ崎へ。

羽根 どしゃ降りの中、夜の商店街で人目を避けるようにして、野宿ができる場所を探しました。「今の自分を誰にも見られたくない。誰とも話したくない」その気持ち一心で。

――自暴自棄の気持ちで過ごした釜ヶ崎で、その後ビッグイシューと出会った羽根さん。現在はさまざまな情報に触れることができているありがたさについて話します。

羽根 『路上脱出・生活SOSガイド』という冊子があります。もしあの時これを手にしていたら、僕はつらい野宿をする必要はなかった。何日も食べずに、水とお茶だけで過ごすなんてこともなかったと思う。

――「情報の大切さを知ってほしい、1人でも2人でも多く『路上脱出・生活SOSガイド』が必要としているひとに届いてほしい」と訴えました。

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羽根 釜ヶ崎でやっとの思いで炊き出しの食べ物をいただいた時に感じた、感謝の気持ち。それと同時に自分の無力さ、情けなさが涙とともに込み上げてきました。あの日のことは一生忘れられないと思います。

――それからは「恩をくださった方たちにお返しをしないといけない、生きることをあきらめてはいけない、なんとかしないといけない」と、絶望から前向きな気持ちにだんだん変わっていったといいます。

羽根 ビッグイシューと出会い、こうしてみなさんに話を聞いていただける場を設けていただきました。ビッグイシューがあるから、みなさんにビッグイシューを手に取っていただけるからこそ、力をいただいて僕は生きていけます。1人でも多くの方に、ビッグイシューの雑誌としての面白さや目的、意義を理解していただけるよう、僕も努力していきたいと思います。

■ 羽根さんの販売場所、阪急百貨店うめだ本店前はこちら
https://www.bigissue.jp/location/osaka_hankyu/

『ビッグイシュー日本版』6分間リーディング
世界と歴史、路上からつなげて見つめる視点に驚き

参加者のみなさんに、おひとり1冊のバックナンバーを選んでいただき、特集記事を6分間集中して読み込んでいただきます。その後グループに分かれて自由に率直な感想をシェア。 
初対面の方たちではありましたが、驚きや意外だったという反応も交え積極的に感想を話し合っていました。

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「縄文時代やそれ以前の時代につながるスケールの大きな話が載っていて、路上・ホームレス問題に取り組んでいるのに、ビッグイシューのそのギャップや発想がすごいと思いました」(50代・男性)
※ 326号の特集「日本人の起源、土偶の宇宙」

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「ボランティアやホームレス問題の話ばかりかと思っていたが、意外に映画の話題や著名人が執筆している記事・インタビューもあり面白い」(20代・男性)

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「雑誌としてとても読みやすく、ハードルは高くなく共感できて、記事に入っていきやすい印象。子育てについての特集などをもっと読んでみたいです」(30代・女性)

販売者への質疑応答。ビッグイシューがくれた、ひと・社会とのつながり

次に参加者の皆さんから、羽根さんへ率直な質問をいただきました。

Q:私もホームレス状態だったときがあります。ビッグイシューをやっていて気持ちが折れそうになりませんか?

しょっちゅう折れます(笑)。始めた頃は1日1ケタしか売れなかったり。食事をして在庫を仕入れて手一杯ですよね。くじけずやってこられたのは同じような境遇の販売者の方に励まされたこと。ビッグイシューをやるんだと、苦しくても腹を決めてなんとかやっています。

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Q:これから先、羽根さんはどういうビジョンを持っていますか?

ビッグイシューを始めて4月で1年になります。僕は3年でビッグイシューを卒業できるようにしたいとがんばっています。だからあと2年で自立を果たせるように、今を精一杯生きるしかないと思っています。

Q:羽根さんにとって嬉しいことってなんですか?

ビッグイシューが縁で、こうしてイベントでみなさんと出会えること。本当にありがたいです。ビッグイシューの事務所で、同じつらい境遇の販売者の方たちと他愛もない話をするのも楽しいです。ビッグイシューは決して「逃げ」でやっているのではなく、自立を目指してみんながんばっているので、偏見や先入観を持たずに支援していただけたら嬉しいです。

Q:生活保護を受けて、その後就職活動をするのは無理なんですか?

生活保護の給付手続きをすると自分の家族に連絡が行くんです。これまでの自分の経緯もあって、生活保護を受けるのは難しいんです。

編集部注:現在の生活保護の制度で支給される額は約12万円で、販売者1人あたりの平均売り上げ冊数と比較すると、残念ながら生活保護レベルまでの支援となっていないのが現状です。生活保護と同じくらいのレベルの収入が得られるようにしたいと考えており、どう支援を強化していくかが課題です。
この記事を読んでいただいている皆様にもお願いがございます。
皆さまへのお願い:https://www.bigissue.jp/how_to_support/

新たな支援・仕事づくりに向けて

吉田から最後に、これからのビッグイシューについて、印刷や発送にかかるコストなど、ビッグイシューが直面する問題をどう乗り越え、支援を増やしていけるか、今後のテーマについて提言いたしました。特に教育の分野で、ビッグイシューが受け持つ役割があるのではないかと考えています。

吉田 トークイベント・講義のような知識伝達としての教育と広報活動、またビッグイシュースタッフとともにホームレス状態の方に登壇していただければ、その方に謝礼もお渡しできるので支援になります。ビッグイシューとボランティア、ホームレス当事者、市民のみなさん、三方よしの取り組みを拡大していきたいです。
ビッグイシューの出張講義:https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/


羽根
 ホームレス問題だけではなく、さまざまな社会問題を解決するのがビッグイシューの存在意義。ビッグイシュー基金が主催する、野武士ジャパンというフットサルチームも、社会のなかにある問題をみなさんに知っていただくための活動です。

野武士ジャパン:https://www.nobushijapan.org/

イベント参加者からの声

イベント当日、参加者のみなさんからいただいたアンケートでは、羽根さんへの応援メッセージを多数いただきました。その一部をご紹介いたします。

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「羽根さんという方を知れてよかった。全面協力するので一緒にがんばりましょう」

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「羽根さんのトークが素晴らしかった。気持ちや内容がとても伝わってきた」

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「話が上手でとても内容が濃かった。これからどんどん暑い日がやってきますが、がんばってください。毎号買います」

羽根さんが経験したつらい路上生活も、本人がときに笑いを交えながら、最後までエネルギッシュに明るく話したことから、参加者にとって「路上に立っている“いち販売者”」という顔の見えない存在から、「自分たちと同じように、様々なことを感じ、話したいこともたくさんある“羽根さん”」という存在に変わっていく様子が見受けられました。

ビッグイシューの出張講義、承ります

ビッグイシューでは、高校・大学、団体に向けてトークイベント、講義を提供しています。
 日本の貧困問題や社会的排除の問題、包摂の必要性、社会的企業、セルフヘルプ、若者の自己肯定感、ホームレス問題についてなど、さまざまなテーマに合わせてアレンジが可能です。

高校生には50分、大学生には90分講義、また連続講義やアクティブ・ラーニング、ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。

ビッグイシューの講義

https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/

取材協力:都築 義明

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THE BIG ISSUE JAPAN 322号
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「今月の人」にトークイベントに登壇した羽根さんが登場しています。
https://www.bigissue.jp/backnumber/322/