福島県から首都圏への避難者は約1万8070人。迫られる、国家公務員宿舎からの退去

「ひなん生活をまもる会」(鴨下祐也代表、会員約100世帯)は、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故で、首都圏などに避難している区域外避難者(避難指示区域以外から避難している人)を中心とした団体だ。同会は3月14日、東京都に対して、かつて「みなし応急仮設住宅」として都が避難者に提供してきた避難用住宅と駐車場を、2019年も無償使用を認めるよう、集団申請書を担当課に提出した。

東京都のみなし仮設住宅の入居者は現在、120世帯を超える
福島県は3月末退去を要請

 原発事故から8年。この間、国や東電を相手取った民事裁判では、区域外避難者の避難の必要性を認める判決が次々に出されている。その一方で、応急仮設住宅とみなして無償で提供されてきた避難住宅の無償提供が次々に打ち切られてきた。しかしこの経済支援の打ち切り政策で、民間賃貸住宅に移った家庭や、無償提供が打ち切られたため不本意ながらも元の住まいに戻った家庭など、避難者は困難な決断と大きな負担を迫られ続けている。

 都内に避難した人には、震災後、災害救助法による「みなし応急仮設住宅」として国家公務員宿舎や公営住宅が無償提供された。17年3月に無償提供は打ち切られたものの、「セーフティネット契約」(※)という賃貸契約を結んで、賃料を払って住み続けられる激変緩和措置が取られてきた。13ヵ所の宿舎や公営住宅で120世帯を超す人々が避難を続けてきたが、福島県は19年3月末で退去するよう強く求めていた。

 これに対して、「ひなん生活をまもる会」の鴨下代表、避難者の笹木ゆかりさん、山川幸生弁護士(東京災害支援ネット・とすねっと)が都庁を訪問。鴨下代表が「今年も国家公務員宿舎や公営住宅などを避難用住宅として都が借り上げ、無償で提供することを継続してください」と述べ、要望書を提出した。笹木さんも「ぜひ、継続をお願いします」と頭を下げた。

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東京都に対して要望する鴨下代表(右)。3月14日、都庁にて

全国の避難者の52%が「元通りになるまで避難続けたい」

福島原発事故後には、東京都や神奈川県、埼玉県など首都圏の自治体が、震災避難者を受け入れた。現在も、福島県から県外への避難者数は全国で東京都が最も多く3755人、次いで茨城県3291人、埼玉県3148人など、関東7都県で1万8070人(2月27日復興庁調査)となっている。北海道937人、東北地方5557人、中部4969人、近畿1421人……などと比べても群を抜いて多い。この事実はまた、避難先の学校やコミュニティでいかに共生していくかという地域的な課題が大きくなっていることも示している。

山川弁護士は「東京都は国や福島県の方針を踏襲するだけ。追い出しはしないが、独自の支援もしていない。多くの避難者が都営住宅に移っているが、仮に国が母子避難者への収入要件優遇措置などの支援打ち切りを決めたら、深刻な問題になる。東京都に避難者が暮らしている現実を踏まえ、支援策を求める」と話す。

避難者の支援団体「きらきら星ネット」と東京災害支援ネットが全国の原発事故の避難者を対象に17、18年に行った調査では、「原発事故に由来する放射性物質の汚染(追加被曝線量)がゼロになり、元通りになるまで避難を続けたい」という回答が52%に上っている。国や福島県、東京都が、こうした避難者の声を聞かず、一方的に支援を打ち切る政策は、避難者の状況を悪化させ、ひいては新たな都市や地域の問題にもなっていくことが容易に予想できる。

山川弁護士は「応急仮設住宅の問題は災害救助法の制度の構成から福島県が決めることになっているが、本来の自治事務ではなく、内閣府防災担当の強い行政権限のもとに行われている。内閣府防災担当や福島県は避難者の声やニーズを無視せず、責任を持って対応すべきだ」と語った。

ところが福島県は3月28日、国家公務員宿舎の入居者約7割に対して、3月末での退去か、退去しないなら2倍の家賃を請求する文書を送付した。避難者団体は急きょ4月4日、撤回を求め県に要望した。(次回「被災地から」で続報)

(写真と文 藍原寛子)
あいはら・ひろこ
福島県福島市生まれ。ジャーナリスト。被災地の現状の取材を中心に、国内外のニュース報道・取材・リサーチ・翻訳・編集などを行う。
https://www.facebook.com/hirokoaihara

*2019年4月15日発売の『ビッグイシュー日本版』357号より「被災地から」を転載しました。

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