ようやく、国は子どもの健康診断や医療費の減免、家族と離れて暮らす子どもへの支援などを責任をもって行うことを定めた。
「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」(原発事故子ども・被災者支援法)が6月21日に成立。与野党の法案一本化による超党派の議員立法と全会派賛成で、予算面で法制定を渋る政府を、国会が押し切り可決したかたちとなった。
低線量被曝のリスクを前提に、「健康被害の未然防止」の観点から健康診断や医療費の減免を盛り込んだほか、一定の放射線被曝が考えられる「支援対象地域」での居住や他地域への移動、他地域からの帰還も被災者が自らの意思で行えるよう国が責任をもって支援することも規定された。
制定に向けて活動してきた市民団体や法律家などは、「避難の権利を正面から肯定した」「低線量被曝のリスクを前提に、区域分けではなく個人に着目した立法」と評価する一方、残された課題も指摘。同法は大きな支援の枠組みを決めた「理念法」の色合いが濃いため、「支援対象地域」の範囲や、具体的な個別支援政策が条文には具体的に規定されていないという点だ。
それについては、第5条で策定を定めた基本方針や、政省令・ガイドラインなどで規定されることになったが、具体的な内容がいつ、誰により決定されるのか、被災者や支援者の声は十分に反映されるのかなどは不透明だ。
被災者の意見を集約して政策に反映させようと、7月には国際環境NGOの「FoE ジャパン」や「福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク(SAFLAN)」などの支援団体が「市民会議」を設立。日弁連も支援法推進のフォーラム開催を予定している。
7月24日、郡山市では被災者や支援団体などを対象にした同法の学習会が開かれ、被災者の間で議論が始められた。SAFLANの井桁大介弁護士が講師となり、法律の概要や制定過程、今後の課題について参加者が理解を深めた。井桁弁護士は「今後、数ヵ月のうちに基本方針が決まっていく可能性がある。ぜひみなさんのご意見を寄せてほしい」と呼びかけた。
(文と写真 藍原寛子)
(2012年9月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第198号より)