復興庁配布の冊子『放射能のホント』のウソー放射線被曝のリスク問題なし、本当に正しい?

復興庁は『放射線のホント』(A5判30ページ)というパンフレットを作成し、関係省庁や福島県内外のイベントなどで配布している。これまでに2万2000部を配布したという(2018年11月現在)。

福島県内、青少年の甲状腺がん
発症率は全国の数十倍なのに因果関係考えられるが認めない

福島県内では、避難指示が解除された地域への若者の帰還率は非常に少ない。また、福島県産品の売れ行きが戻らないなどの状況が続いて、復興は思うように進んでいない。復興庁は、その原因が放射線被曝に対する不安にあると考え、その不安を払拭しようとパンフを作成した。

パンフは、不安の原因が「知識不足からくる思い込みや誤解」にあるとの認識から、「正しい情報を知り、自分の頭で考え、そして行動する」ことを訴えている。パンフが訴える「正しい情報」をいくつか拾うと、「放射線の影響は遺伝しない」「100~200ミリシーベルトの被曝での発がんリスクの増加は野菜不足や塩分の摂りすぎと同じくらい」「福島県での被曝線量で健康に影響が出たとは証明されていません」「放射線による多数の甲状腺がんの発生を福島県では考える必要はない」などが並ぶ。これらは本当に“正しい”のだろうか? 

被曝の遺伝的な影響については、広島・長崎の被曝2世への追跡調査の途中段階では「影響あり」との結論は得られていないが、「影響なし」とも断定できない。他の疫学調査などから「影響あり」との考えが基本だ。

野菜不足による発がんリスクは、復興庁が根拠とした国立がん研究センター自体が、08年に「因果関係が認められなかった」と発表している。検証することもなく、都合のよいデータだけを拾い集めたのだろう。そもそも、リスクは同程度だから問題なしとするのは乱暴な考えだ。

福島県の17年度の主な死因別の死亡率を見ると、すべての死因において全国平均を上回っている。ただ、これだけで被曝の影響とは言えない。因果関係が調査されていないからだ。しかし、それを調査をせずに健康影響が「証明されていない」とは決して言えない。むしろ現地ではがんや心臓発作が増えたという話をよく聞く。

福島県が事故当時18歳以下の青少年に対して実施している県民健康影響調査で、甲状腺がんの発症率が全国平均の数十倍も高いことを認めている。被曝との因果関係は「考えられる」としながらも、最終的には認めない政治的な判断をしている。
こう見てくると『放射線のホント』が訴える内容は、事実と異なっていると言わざるを得ない。これでは不安は増すばかりだろう。

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被曝線量、平常時の制限は1ミリシーベルト。
現在20ミリシーベルトで、避難指示解除

国際放射線防護委員会(ICRP)は原子力施設からの一般人の被曝線量を年間1ミリシーベルトに制限することを勧告しており、日本もこれを法律に取り入れている。そのリスクは、1億3000万人の日本人がみな年間1ミリシーベルトずつ被曝したとすれば、それによる発がん死亡は7150人/年と評価している。これは放射線被曝の専門家の間で常識だ。また、放射線被曝には、これ以下なら安全であるという線量(しきい値)がないことも同様だ。

 ICRPはしかし、重大事故状況の中では20~100ミリシーベルト/年の間で管理すること、また事故が収束した「現存被曝状況」では1~20ミリシーベルト/年の間で管理することを勧告。被曝影響がないからではなく、被曝が避けられない状況だから容認するとの考えだ。ところが福島原発事故が起きるや、「専門家」たちは前言を翻して、100ミリシーベルト以下の被曝では健康影響はないとか、事故収束宣言の後では20ミリシーベルト以下ではまったく健康影響がないと主張。政府は20ミリシーベルト/年を採用しているが、1ミリシーベルト/年へ戻す計画は示さずに避難指示を解除した。

 ところで、ICRPはがん発症の半数が死亡すると仮定しているので、前述の死亡者数からは発症数では1万4300人/年と評価される。さらに、ICRPは低線量被曝の影響を半分に減らしている(米国の圧力か?)。これを考慮しなければ、2万8600人となる。こうした低線量被曝の影響を「ない」ことにするのは間違いだ。

(伴 英幸)

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(2019年6月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 360号より)

伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
http://cnic.jp/