ビッグイシューでは、ホームレス問題や活動の理解を深めるため、高校や大学などに出張して授業をさせていただくことがあります。
販売者の西岡さん、ビッグイシュースタッフの吉田とともに会場に足を踏み入れると、1年生122名の皆さんが既に集まっていました。
大阪教育大学附属高等学校平野校舎の皆さん
人がホームレス状態になる理由-少しずつ階段を落ち、這い上がれない
「人は、なぜホームレス状態に陥るのでしょうか」。早速、吉田の講演が始まります。「仕事、家族、住む家、お金を失って野宿状態へ。そして、最終的には将来への希望を失って、『自分なんてどうなってもいい』と自暴自棄になってしまうんです」
「だからビッグイシューでは、『自分で決める=セルフヘルプ』と『楽しむこと』を大切にしています。どちらも自己肯定感を取り戻すために、重要であると考えているからです」。そして、販売者主宰でまちあるきをする「歩こう会」や、“ホームレスワールドカップ”(※)が紹介されると、「おぉ!」と会場からは驚きの声が上がりました。
※ 2003年より毎年開催されている、ホームレス状態の人が一生に一度だけ選手として参加できるサッカーの世界大会のこと。
左)ビッグイシュースタッフ・吉田、右)販売者・西岡さん
父親の病気で夢を諦め、転職した先が震災で倒産・・・
続いては、販売者の西岡さんの登場です。大阪出身で小学校時代は、人を笑わせるのが大好きだったと言う西岡さん。
転機は中学生の頃に訪れました。書店で見た雑誌に「ビビっときて」騎手を目指しますが、当時の身長制限に引っかかり断念。けれども高校入学後、やはり馬と関わる仕事がしたいと諦めきれず、北海道・摩周湖近くの観光牧場で就職を果たします。
それから、10年。北海道での生活も板についてきた頃、父親が脳梗塞で倒れ、帰阪を余儀なくされます。関西で道路舗装の仕事に就きましたが、阪神大震災が起こり、会社が倒産してしまいました。
その後派遣社員として働くも、ある朝仕事に行くと、「うちはもう仕事がないから帰ってくれ」と突然言い渡されたのだそうです。
半生を語る西岡さん
「その時の気持ちは、『ええぇ!どうしよう?』ですよね。もう『頭真っ白』という感じで。その時の所持金は5万円くらいだったと思います」
ほどなくして、野宿と炊き出しの列に並ぶ日々が始まったという生々しい体験談に、皆熱心に耳を傾けます。
「なぜ実家に帰らないのですか?」たくさん手のあがった質疑応答の時間
事前授業でビッグイシュー関連のDVDを視聴し、販売場所を訪れていたこともあり、生徒の皆さんからは質疑応答の時間になると、多くの手が上がりました。
「ビッグイシューのことはどこで知ったんですか」という質問には、「『路上脱出ガイド』(※)知りました」と西岡さん。「ホームレス状態に陥ると、『どこに行ったら何ができるか』という情報が一番に不足するんです。だから、『路上脱出ガイド』には『どこで炊き出しをしているか』『どこで必要な治療を受けられるか』といった情報も記載しています」と吉田が補足します。
(※)路上生活する人が生きのびるために必要な情報を冊子にまとめたもの。大阪、東京にはじまり、札幌、名古屋、京都、福岡、熊本の各地でも作られ配布されており、ウェブからのダウンロードも可能。
https://bigissue.or.jp/action/guide/
また、「ホームレス状態に陥った時、実家に帰るっていうことは考えなかったのですか」という問いには、「もう実家がないんです。両親も亡くなっていて、家ももう駐車場になっていますから」と西岡さんは答えました。
販売の工夫-200枚近い手書きの暑中見舞いと残暑見舞いも
質問は、「販売者」としての西岡さんに焦点を当てたものも、多く寄せられました。
「販売の際、雑誌の中身を読んだりしますか」と問われ、「はい、読みます」と即答。「定期的に読んでくださっている方には、『この号、興味があるんじゃないかな』と勧めたりします。僕自身のお気に入りのコーナーは『リレーインタビュー・私の分岐点』※ですね」と語りました。
※著名人に自分の人生の分岐点を語ってもらう連載。
販売道具も披露
さらに、「ビッグイシューの販売者は街角本屋の店長ということでしたが、西岡さんは販売に当たってどんな工夫をされていますか」という質問には、おもむろに鞄を取り出して商売道具を披露しました。
「僕は販売場所が地下道なので、階段を降りてくる方から見えやすいように、こんなポスターを作ってカバンに掲示していますよ。季節に応じた特集のものをキャッチコピーとともに宣伝したりもします」
「それに今年の夏は、暑中見舞いと残暑見舞いを手書きで180枚、お客さんに宛てて書きました」
これには、「1枚1枚手書きですか?コピーではなくて?」と会場も感嘆の声に包まれました。
思わず笑みもこぼれた質疑応答の時間
「人生で行きつきたい場所はどこなのか。使命は何なのかを考えて」
最後に西岡さんは、こんなメッセージを生徒さんたちに送りました。
「ぜひ目標を持って欲しいんですね。例えば、天王寺から京都に行きたいと思った時に、まずは環状線で大阪まで出ますよね。そして、そこから京都行きの電車を探します。でも、行き先がわかっていなければ、電車を乗り換えようともせずに、環状線をぐるぐる回っているだけで終わってしまうでしょう」
「だから、ぜひ皆さんには、自分は人生でどこに行きつきたいのかを常に考えてほしいと思います。『使命』という字は『命』を『使う』と書きますが、ぜひ自分なりの使命を見つけてほしいです」
スーパーグローバルハイスクールがビッグイシューを招いてみての感想
授業後、講義を企画した中村彰男先生にお話を伺いました。
「本校は2015年にスーパーグローバルハイスクール (SGH) に指定され、多面的に“いのち”を考えるグローバル・リーダーの育成に取り組んでいます。生徒たちは、『医療・保健』『防災・減災』『格差・貧困』の3領域から選択した課題について研究活動を行なっており、今回の授業はその一環でした。
事前にDVDで学んでいたことが、実際に西岡さんからの話を聞くことで有機的につながり、積極的に質問が出ていましたね。現場の声の大切さを改めて知ることのできた講演でした」
(写真と文章:八鍬加容子)
格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします
ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。
小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
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