英国ミュージシャンのスティングに、イタリアのストリート誌『Scarp de’ tenis』がインタビューを行った。アルバムのプロモーションとイタリアでのツアーを控えてミラノのホテルに滞在していたのだ。
photo:Mayumi Nashida
ー 音楽への情熱が生まれたのはいつ頃ですか?
スティング:両親ともに音楽が大好きで家には多くのレコードがあったので、すぐにロジャース&ハマースタインのミュージカルや、ジェリー・リー・ルイスの初期のロックンロール、そしてなによりもエルビスに夢中になりました。
でも人生で最も大きな影響を受けたのは、10〜11歳頃に出会ったビートルズの音楽です。彼らの出身地リヴァプールは私の故郷ニューカッスルと似ていて、労働者階級や公立学校の教育が主流の街。彼らは自分たちの音楽で世界を“征服”した。なら自分たちにもできないものか?ビートルズにそう思わされた世代なのです。
ニューカッスルには音楽の歴史があり、フォークミュージックの伝統が脈々と引き継がれていましたしね。アイルランド系コミュニティとも強いつながりがあり、彼らと対話を築けたのも音楽のおかげです。
ー 今のあなたにとって音楽はどういう意味を持っていますか?
セラピーみたいなものですね。私は音楽以外のことをやっていた時期でも*1、自分のことをミュージシャンのように感じていました。これまでに自分がつくってきた楽曲、そしてこれまでの人生には心から感謝しています。
*1 バスの運転手、建設作業員、税務署員を経て教員免許を取得、2年間教師をしていた時期がある。
ー アルバム『My Songs』では、なぜ自分の曲を再アレンジしたのですか?
計画してやったことではありません。ニューヨークのタイムズスクエアで行われたイベントで「Brand New Day」を歌ってくれと言われた時に、ベースをもっと強くしたくてレコーディングし直したんです。それがすごく楽しくて、同じことを他の楽曲でもやっていったら最終的にこのアルバムが完成したというわけです。楽曲はまさに“生き物” なので、時間が経つとその曲との関係性も変わっていきます。
タイムズスクエアで「Brand New Day (2019 version)」を歌うスティング
ー 『Roxanne』など自身の “名曲” を何度も歌うことは嫌にならないのですか?
なりませんね。演奏するたびに何か新しいことを発見するのが私の仕事です、その曲を書いたときと同じパッションを持ってね。アーティストであるということは常に改良を加えられる術を見つけ出すことだと捉えていて、これは次のツアーでも模索していきたい点です。
ー アーティストには社会的メッセージを伝える義務があるとお考えですか?
自分のことしか答えられませんが、私自身は常にその義務を感じてきました。私には私ならではの声や個人としての考えがある、そう信じているので、曲を書くときや歌うときにそれらを表現する。例えば「Brand New Day」(99年発表)では、20世紀が終わることへの恐れをわざと楽観的な調子の曲に仕上げました。というのも私は、人々を不安に立ち向かわせるには希望を伝えることがベストだと考えているからです。
photo:Mayumi Nashida
ー 最近はどの分野に “社会的責任” を感じていますか?
人権の分野ではまだまだやるべきことがたくさんある、と社会に気づいてもらうこと。そして、環境を守るためには本当に世界が結束する時だと訴えることですね。
編集部追記:
スティングは80年代から社会活動に熱心に取り組んでいるアーティストとして知られる。2019年にはアマゾン熱帯雨林を守る活動でグローバルシチズン賞を受賞。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの活動も長年支持している。また、かねてから英国のEU離脱(ブレクジット)について「反対」を公表し、他のミュージシャンたちとの連名で二回目の国民投票実施を要求する手紙をメイ首相(当時)に送った。2018年からは、環境運動をサポートする投資ファンド JANA Impact Capital の顧問にも名を連ねている。
ー 1996年度の『ビッグイシュー(英国ノースイースト版)』にて、人生で最も幸福でなかった時期は仕事が最も成功していた時期と重なっていると明言されています*2。今のあなたはいかがですか?
実際、「成功」と「幸福感」は必ずしも一致するものではありません。むしろ「成功」はいろいろな問題を増幅させることもあります。私は人前に出るという自分の仕事と日常生活が混同しないよう努め、幸いなんとかやり抜いてこられました。最近は、自分の音楽を通していかに人々に思いを伝えられるかに注力しており、これまでのキャリアの中で最もやりがいを感じられる段階にあると感じています。
*2 掲載記事:https://www.sting.com/news/title/the-big-issue
ミュージシャンとして大きな成功を手にしつつも、結婚も友情も、そして精神的にもあらゆるものが破綻していき、ひどく不幸な気分だったと述べている。
スティング(本名:ゴードン・マシュー・トーマス・サムナー)
1951年、英国ノーサンバーランド州ウォールズエンド生まれ。1977年にバンド「ポリス」を結成、翌年発表したシングル「Roxanne」が全米チャート入り。1984年の活動停止までに『白いレガッタ』『Synchronicity』など5枚のメジャーアルバムを発表した。
1985年よりソロ活動を開始。アルバム『The Dream of the Blue Turtles』を皮切りに、『The Soul Cages』(1991)、『Brand New Day』(1999)、『Songs from the Labyrinth』(2006)、『The Last Ship』(2013)、『57th & 9th』(2016)を発表。43年に及ぶキャリアにおいて、グラミー賞17回、ブリット・アワード3回、ゴールデングローブ賞など数々の受賞歴を持ち、アカデミー歌曲賞にも4度ノミネートされている。
By Andrea Pedrinelli
Translated from Italian by Sara Lopes
Courtesy of Scarp de’ tenis
スティングが掲載された『ビッグイシュー日本版』バックナンバー
THE BIG ISSUE JAPAN313号
https://www.bigissue.jp/backnumber/313/
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