ボロボロの靴を履いて一日中立ちっぱなしの歩きっぱなし。およそ快適とは言えないシェルター施設で大勢の人との共同生活。ホームレス状態にある人にとって「足の健康」を保つことは容易ではない。この見過ごされやすい問題について、米ポートランドのストリート紙『Street Roots』が販売者たちの声を聞いた。
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困窮状態にある人の多くは、いろんな足のトラブルに悩まされている。サイズの合っていないボロ靴は、濡れてしまっても簡単には履き替えられない。共同シャワーは衛生面の問題もある。ストリート紙販売のために長時間立ちっぱなし。重い荷物を背負って長距離を歩かなければならないことも。そんな生活の厳しさがさまざまな「足のトラブル」を招く。
『Street Roots』の事務所では年間を通して靴下を無料支給している。特に冬場は防寒のため、寄付された靴下がたくさん配られている。看護師による足の健康診断も年に数回実施しているが、販売者たちに話を聞いてみると、ほぼ全員が何かしらの悩みを抱えていた。
Image by OSTC from Pixabay
足のトラブルで9カ月間まともに歩けなかった/ジョージ
ジョージ・マッカーシーは昨年、ダウンタウンのシェルターで生活していた頃に、足のケガが悪化してさまざまな皮膚トラブルに見舞われた。「足や肌を健やかな状態に保つのはすごく難しい。痛みなく歩けるようになるまで9カ月もかかったよ」。
この数週間は、ダウンタウン中心地から外れたシェルターで過ごし、足の回復を待っている。「あと少しすれば、また歩けるようになるはず。 治す時間を取れて本当に良かった」と言った。
「靴を脱ぐと盗まれてしまう」/ステファニー
ステファニーは路上生活を始めて数年になる。
「テント暮らしをしていた頃は夜になると靴を脱ぐことができたけど、ポートランドに来てからはシェルターを転々としています。盗まれないよう、ずっと靴を履いたまま。足には常に痛みがあるし、通気性も良くありません。医者に診てもらったら、足の裏全体に皮膚トラブルが広がっていました」
「先月までブーツしか持っていなかったのですが、サンダルを履くようにしたら少し良くなってきました」
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「路上では手足の指先を失う人も少なくない」/リリー
リリーはシェルターで生活している。
「どんなときでも歯と足のケアだけはしっかりしなさいってよく母親から言われました。立ちっぱなしで新聞を売るのは大変です。足がしびれて冷えてくると、休憩を取るようにしています。足が濡れたとき用にいろいろ備えてやりくりしています。かかとのないサンダルを履いて、足にはティーツリーの精油* を塗るようにしています」
*オーストラリアの先住民族アボリジニが使ってきた森のハーブ。皮膚のトラブルにも良いとされる。
「路上では糖尿病や感染症から手や足の指先を失う人も少なくありません。 若くもないのに何年も続く路上生活で、体調管理どころではありませんから。特に足のトラブルを抱える人はたくさんいます」
「シェルターで隣のベッドで寝ていた女性は、ここ何晩か夜中になるとものすごく痛そうにしていたのですが、昨夜ついに病院に運ばれました。糖尿病で足もボロボロだったみたいです」
「シェルターでは健康チェックなんてほぼありませんから。シェルター運営者にとっては ホームレス支援 も一つの “仕事” 、そこにいる人たちの健康は後回しです」
「常に足が痛く鎮痛剤を飲んでいる」/ドン
ドン・ピーターソンはこの3年間、シェルターと路上生活を行き来しており、常に足の痛みを抱えている。
「いったん座ると立ち上がる時に体がすくむほど痛いので、ほぼ休むことのない生活です。今は鎮痛剤を飲んでいるので日によって調子はまちまちだけど、痛みは常にあります。とはいえ、命があること、自分に与えられているものには感謝しています」
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「今は歩行器を使っているけれど、そのうち手足を切断するだろう」/ジョン
販売者歴10年になるジョン・ウィリアム・モンローは、「仕事があるのはラッキーなこと。支援が必要で、仕事がない人は大変だと思う」と言う。
この1年半は歩行器を使っている。 「糖尿病治療の副作用で神経を痛めたので、専用の靴を履いてます。病気のせいで、太極拳など好きなことがいろいろできなくなりました。今すぐではないけど、いずれ手足を切断することになるだろうね。今はなるだけのことをして、何とかやってるよ」
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「足が濡れると、体全体が冷えてたまらない」/ポーレット
ポーレット・ベイドはベテラン販売者の一人。これまでに支給してもらった靴下は数百足になると言う。「一日中立ちっぱなしで販売してると、足の感覚がなくなってきます。歩行器を使うとだいぶマシですが、足が濡れると体も冷えてきて、気持ち悪いです」
Jossué TrejoによるPixabayからの画像
だが、そんな販売者としての辛さも、ストリート紙が多くの人に届くならとあまり苦にしていない。
「お届けすべき情報を伝えるため路上で新聞を売る。販売者の仕事があるから、外に出ていく勇気が湧いてきます 」
By Helen Hill
Courtesy of Street Roots / INSP.ngo
フットウェアブランド「キーン・ジャパン」の社会貢献事業
日本の路上生活者も足のトラブルには悩まされている。キーン・ジャパンはそんな彼らの足元を支えたいと、ビッグイシューの販売者に靴の寄贈を続けてくださっている。
「キーンの靴を履くことで歩く喜びを支えられている」と語る販売者のひとり・濱田さんは、月に1度、読者やボランティアとともに街を歩く「歩こう会」を企画・主催。
115回目を迎える次回は2020年2月24日に開催予定。
詳細・お申し込みは下記より。
https://bigissue.or.jp/event/353/
*ビッグイシュー基金 東京事務所で春物の靴下等の衣料を募集中です
https://bigissue.or.jp/2020/02/20021401/
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