路上生活者たちが老けて見える理由/路上やシェルターで年老いていくことについて、当事者にインタビュー

 日本ではホームレス人口の42.8%が65才以上、平均年齢は61.5才という数字が発表されている(厚生労働省 2017年9月)*。

*平成28年度ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)」の分析結果より

同じく米国でも路上生活者の高齢化は深刻な問題となっており、困窮状態やホームレス状態にある高齢者の割合はここ15年で20%以上も増えている(米国住宅都市開発省の発表)。そこで、米ポートランドのストリート誌『Street Roots』が、路上やシェルターで年老いていくことについて販売者たちの声を訊いた。

ホームレス状態になる前は「どうして風呂にも入らないのか」と自分も思っていた

「普通より10歳は老けて見えるよな」と言うのはジェイソン・シアー。



ジェイソン・シェアー。
数年前の冬には凍傷を負い、指1本と他数本の指先を失っている。本誌354号より

60代前半のマークはこう言った。「朝早くに目を覚ましますが、とにかく体が痛い。ダンボールが手に入らなくて直接コンクリートに寝た時なんかは特に」

「今まで自分のことくらいはケアできたのに、今はそれすら心もとなくて情けない。年を取ってもシャキッと見えるには、しっかり自分のケアをしないといかん。髪もボサボサになるし。(後頭部を指しながら)このへんに大きな髪の毛が絡まってたんだが、去年のクリスマスに(『Street Roots』の)事務所のおかげで無料で散髪してもらえて、やっとスッキリしたんだ」

「以前はこんな人を見ると、どうして風呂にも入らないのか、身なりも構わないのか理解できませんでしたが、そんな簡単なことじゃないと今ではわかります。人間、行き詰まってしまうと、服が匂おうと、どうしていいのか分からなくなる。洗濯なんてたったの4ドルだろと言われますが、そのお金すらないこともある。無料で洗濯できるところもあるにはあるが、ほぼいつも一杯で使えない。私だってもともとはきれい好きで、清潔な服を着るようにしていました… それができなくなったときにプライドを傷つけられ、人は老いていくんじゃないかな」

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Leroy SkalstadによるPixabayからの画像 

「恐ろしい」「痛い」「つらい」・・・過酷な路上生活

トニー・プリンス デノは「恐ろしい」という言葉を使い、こう続けた。「誰だって一歩ずつ年を取っていく。だけど路上でひとりぼっちで年老いていくのは、大きな重しがだんだんのしかかってくるようです。

メリッサ(50)は厳しい寒さがからだに堪えると言う。「あちこちの関節が痛くて、コンクリートの道路から起き上がるのがつらい。寒い日は足の痛みはひどくなるし、荷物を持ち歩くのも、何をするにも大変ですよ」


数年に一度は雪が積もるポートランド ©Shutterstock.com (本誌356号より)

DWD(仮名)という販売者は言う。
「路上生活歴2年半ほどですが、腰が痛くて痛くて… こんな生活はもう続けられないと思ってます。椎間板変性症なので、自分の荷物を持ち運ぶのがかなり負担なんです。腰をこれ以上悪化させたくないので、カートを手に入れた方がいいかなと思い始めてます。寝床が濡れると、荷物はさらに重くなりますしね。

年を取ると耳が聞こえにくくなり眼も見えにくくなって、さらに厄介です。人が近寄ってきても言ってることが聞こえづらい。となると路上でも狙われやすくなりますしね。でもたくさんの人が守ってくれる、そんな場面も少なくないんですよ」

ジョージは激しい寒さや暑さの中での野外生活がつらいと言う。「年を取るとよりきついです。いろんな事を対応しないといけないし、列に並ぶことも増え、悪天候にもさらされる。からだのあちこちが痛いし、しょっちゅう病気にもなる。一向に楽にならず、ストレスを感じる。シェルターで寝れても、まわりに15人もいるから一人きりになれない。プライバシーもない、自分ひとりでくつろぐこともままならない日々です」

ショーン・シェフィールドは、年を取る感覚がないと言う。「説明しづらいのですが、6年前にアパートを出てから、まるで時間が止まったかのような感覚なんです。コンクリート生活でいろんな痛みはありますが、それにも慣れていき、老化してる感じはしません。腰や膝が痛んであまりに調子が悪いときは、販売場所に立つこともできませんが」


ポートランドの路上生活者(2018年)/写真:西川由紀子

車椅子や歩行器が手放せない状態での路上生活

ジェニファー・ブラッドフォードやヘザー・ダフィールドは移動がとても難しく、路面電車やバスの乗り降りが難しいため、さらなる困難がのしかかっている。

ジェニファーは車椅子生活で義足もつけている。「最近、旧式の路面電車に乗ったときに転倒しました。障害者専用スペースに車椅子を固定しようとしたら、まだ固定しきれていない状態で運転手が発車したので、車椅子ごと後方に投げつけられ、真っ逆さまに倒れました。2人で私を起こしてくれましたが、頭をかなり強く打ちました。血液を固まりにくくする薬を飲んでいるのもあり、すぐにバスを降りて、病院に行きました。何も間違ったことをしていたわけではないのに…」

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Pech FrantisekによるPixabayからの画像 

ヘザーは歩行器が手放せない生活だ。「バスや路面電車で移動することが多いですが、わたしの歩行器に気をとめる人などそうそういないので、乗り降りがとても大変です。スロープを下げてもらえないこともあって、自分で歩行器を降ろすあいだ、人を待たせることになりますし、腰にも悪いです。

理学療法士のところに通院できたらよいのですが、一回40ドル(約5千円)は今の私にはとても払えません」

米国の路上生活者の高齢化にはいろいろな背景がある。ベビーブーム世代の高齢化。 貧困ラインよりはるかに低い社会保障手当。70年代後半から80年代前半に起きた不景気のいまだに残る後遺症。連邦政府の住宅予算削減、高額な医療費、精神疾患患者の施設退所、街角で手に入る薬物の蔓延。そして2008年に起きたリーマンショック経済危機では、50歳以上の多くの人がマイホームを失い、高騰する賃貸市場に敗れるかたちとなった。

路上やシェルター生活で年老いていく、弱い心ではなかなか厳しいだろう。糖尿病、心臓疾患、虫歯、記憶力の低下… 加齢に伴う健康面の問題は、安定した家がない状況ではより大変だ。転倒すれば致命傷になりかねない。栄養ある食事を確保できないと慢性疾患をより深刻化させうる。しかし時は一方向に進むのみ。誰も若返りはしない。

By Helen Hill
Courtesy of Street Roots / INSP.ngo
クレジット:by Sabine van Erp from Pixabay

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