2019年初め、ドルトムントの街の中心に「屋外型リビングルーム」を設置し、ストリート誌『bodo』の販売者を含むホームレス状態にある人たちがソファで待機。通行人らをお客さんとしてお迎えし、 “同じ目線”で会話を楽しむという試みだ。
「このリビングルームはカーペットにソファ、観葉植物と限りなく家っぽくしてますが、壁はありません。家であって家でない、その中間のような空間です」と発起人のトドロバが説明する。
すると、予期せぬことがいくつも起きた。
ホスト側である“ホームレス” たちが、見ず知らずの他人を招き入れ、談笑する姿がいかにも慣れた様子だったのだ。ときにシリアスな話題に及ぶこと、本音を語らい合ううち思いのほか長く話し込むこともあった。通りすがりの人たちの寛大さにも驚かされた。見物客のいぶかしげな視線にさらされながら、またカメラ撮影も入る中、この実験的プロジェクトに参加してくれたのだから。
リビングルームの周辺には、『bodo』誌スタッフと販売者たち、その他の路上生活者らに加え、カメラマン、撮影の技術担当、音響担当、社会福祉専攻の学生たちも集まっていたのだから、通行人の目を引くのも無理なかった。
発起人であるトドロバ(ブルガリアの首都ソフィアで生まれ育った)は、“普通じゃない”環境に身を置けばこれまでと違った視点が持てるようになるのでは、との思いからこのプロジェクトを考えついた。
「貧困、物乞い、路上生活…厳しい現実とそれにまつわる偏見や先入観があふれるこの世の中。この関係性を逆さにしてみたらどうかなと思ったんです」
ホームレス状態にある人々が自分たちのリビングルームにお客さんを招き入れる。招かれた客はどんな質問をしてもよい。会話を交わす中でお互いのことを知っていく。そうすることで、両者ともに新しい物の見方ができるようになるのではと。
トドロバは女性、男性、家族連れ、若者たちに路上で声をかけ、“リビングルーム”に案内した。皆、前のペアの会話がなごやかに終わり、ソファが空くのを気長に待ってくれた。
招く方も招かれる方も、最初は何を話したらよいかわからないのは同じだろう。このぎこちなさを軽減し、スムーズに会話を始められるよう、サンプル質問を書いた紙も用意した。ひとつの安心材料にはなっただろう。しかし結果的に、このリビングルームに入ってみようと思った勇敢なゲストたちはほとんどこの紙には目もくれず、会話はごく自然に始まっていった。路上での暮らしについて、これまでの人生のこと、これからのこと……普通に人々がリビングルームでするような話題だ。
トップバッターだった販売者のシュテファンも、最後に順番がまわってきた販売者のマーカスも、静かにうなずきながら「実に面白かった」と感想を述べた。この実験的プロジェクトはうまくいったと言えよう。
この屋外型リビングルームに続き、『bodo』誌販売者たちのポートレート撮影会も実施。さらに2019年秋には、ドルトムントのノルトシュタット地区にあるギャラリーで写真展と映画上映会が行われた。
By Bastian Pütter
Translated from German by Jane Eggers
Courtesy of bodo / INSP.ngo
Photos by Sebastian Sellhorst
日本の学生による仕掛け
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