『ビッグイシュー・オーストラリア』では国内11人の販売者に使い捨てカメラを渡し、このお題に挑戦してもらった。
何も南国パラダイスや絶景の写真でなくたっていい。
歌、息子、柔らかな光、壁に立てかけたギター、我が家へと続く道……もっとシンプルで、だからこそその人にとって特別な意味を持つものでいい。販売者たちから寄せられた写真はどれも、繊細で心に響く、微妙なニュアンスのあるものだった。
友人のレイが一昨年の私の誕生日に描いてくれたボン・ジョヴィの絵をリビングの壁に飾っています。ヘアスタイル、音楽、革ジャン… 彼のことが大好きなんです!
毎晩、寝る前に聴いてます。ルームメイトはうんざりしてますが…。
お気に入りの曲は「Never Say Goodbye」です。(パースの販売者キャロライン)
ビーチは私にとって“教会” みたいな場所。ここを歩いていると頭と心がすっきりします。晴れの日も雨の日も、毎日散歩しにきます。雷や稲妻の日であっても、海辺に向かい広い空を眺めています。(アデレードの販売者アンドリュー)
体を動かすと気分が晴れるので、よく自転車に乗ります。空を飛んでいるような気分になれるし、いろんなことを忘れられるので、よいストレス発散です。ショーンクリフという美しい海辺で自分のマウンテンバイクを撮りました。海の穏やかな波を見ていると、心が安らぎます。 (ブリスベンの販売者エディ)
以前の自宅の裏庭が私にとってのハッピーな場所。思いっきりリラックスできるスペースでした。美しい草木に囲まれて雲を眺めて、ころころに太った猫とよくのんびり過ごしていました。 (メルボルンの販売者レニー )
毎日スケートボードをするのでこの写真を撮りました。一人になれて、新鮮な空気を感じられるこの時間に、とても幸せを感じます。16歳からスケートボードを始め、今は31歳。靴はものすごいスピードですり減ります。(ブリスベンの販売者レス)
私のかかりつけ医の診察室です。普通、“ハッピーな場所” とはならない場所ですが、この日は他に誰もいなくて、視線を気にすることなくすぐに診てもらえました。この1年で4回来ましたが、待たずに済むのはいいな!と思ったんです。(アデレードの販売者デビッド)
コンコルド・ウェスト駅から5分のところに住んでいます。仕事でもどこへ行くにも電車を使うので、すっかり乗りこなしています。この木が花を咲かせると、いつも見とれてしまいます。暑い時でもすごくきれいだし、いい具合に風が吹くとふわっといい香りが漂ってきます。 (シドニーの販売者マーカス)
他にシドニーの販売者マーカスが撮ったのは “甘い誘惑”、地元のスイーツショップに並ぶ、砂糖やチョコがたっぷりかかったドーナツだ。「たわいもないものだけど、僕はドーナツに目がなくてね!からだにいいとは言いがたい、だからこそ幸せを感じる。特別なものじゃなくても、美味しいドーナツがあればハッピーさ!」
その他に撮ったのは、町のいろんな場所へ連れて行ってくれる電車の線路。2008年から “マイホーム”と呼んでいる部屋のドアにかかった表札。「部屋に入って『ただいま』って思ったとたん、外の世界のことを一切忘れられるんだ」
販売者仲間とシドニー港に行ったときの一枚です。路上生活をしていた頃、よくここに来ました。海を見ていると気分が落ち着きます。 (ブルーマウンテンズの販売者トレバー )
他にトレバーが撮ったのは、隣人のサンディが飼っている猫のディジー。
ディジーのおかげでサンディと仲良くなれた。サンディは彼の人生にとても大切な存在となり、心臓発作で倒れたときもいろいろと親身になってくれた。サンディが休暇で家をあけるときは、トレバー夫妻がディジーの世話を引き受けている。
「ディジーは保護猫。信頼してもらえるまでにだいぶ時間がかかった」トレバーは言う。「でも良い子だ。今じゃよく甘えてくる。なんだか自分を見ているような気もするね」
編み物やアート制作をしているとき、そして庭に出ている時間が幸せです。こんな風にこれらが合わさると完璧!これは自分用に編んでる掛け物の一部。アートは自分を表現するとても大切な手段。どんな状況にあろうと自分の支えになります。 (パースの販売者ステイシー)
販売者でアーティストの顔も持つステイシーは、バスルームのドアに貼ってある、自分で描いたアート作品も撮った。鮮やかな色で “Believe” と描かれている。
「何があろうと自分を信じなさい、という意味。シャワーを浴びるとき、顔を洗うとき、毎日目にするところに貼ってあります。辛くて気持ちがふさぐこともあるけど、気分が晴れる日は必ずやって来る、そんなことを思い出させてくれます」
私の息子夫婦が赤ちゃん、私の孫にキスしているところです。本当にかわいい女の子で、幸せってまさにこういうことだなと思ったんです。どんな辛いことがあっても自分は幸せだと感じさせてくれる。この子たちもそう思えるように…。(シドニーの販売者レイチェル)
シドニーの販売者レイチェルが他に撮ったのは、街角に止めた『The Big Issue Australia』を積んだ小さなカートだ。
「販売者になれるところが私にとってのハッピーな場所 」とレイチェルは言う。「私の肩書きは “販売者のレイチェル” 。こんな小さな仕事場だってある。大変なこともたくさんあったけど、販売者をしているとより良い自分になりたいと思える。大きなことではないけれど、何かしら活動しています」
しかし、撮影は思っていたより難しかったと振り返る。
「自分にとってのハッピーな場所は何だろうって、いろいろ考えました。『The Big Issue Australia』から出されたこれまでの課題の中で、一番難しかった。」
「人生がいかに辛くても “ハッピーな場所” は自分でつくっていける。そんな思いを伝えられたらと思いました」
メルボルンの販売者ダリルも「自分が何に幸せを感じるのかを考えるきっかけになってよかった」と言う。彼が撮ったのは、販売場所近くの雨に濡れた道路と通行人、行きつけの店などだ。
多様な人々やお店でにぎわうメルボルンの町が大好きです。生まれも育ちも田舎ですが、とにかく窮屈さを感じていました。この街に来て、ぴったりの場所を見つけたと感じています。 (メルボルンの販売者ダリル)
「ハッピーな場所」ーー おなじみのテーマではあるが、普段はあまり立ち止まって考えることも、あらためて写真に収め、感謝することもないのではないか。必ずしも写真映えするもの、ワクワクさせるものでなくていい。その人にとって大切なもの。ハッピーな場所は案外シンプルなものだ。そして、それぞれの写真にはストーリーがある。自分たちの日常を撮影する販売者にそっと寄り添っている、そんな気さえしてくる。
しかし、未経験の写真家たちに雑誌に掲載できるレベルの写真を撮ってもらうのは、決して簡単なことではなかった。使い捨てカメラでの撮影は、今やほとんどの人にとって慣れないものでもある。現像した写真にはピンボケや画像が暗すぎるものもあったが、それがかえって味わい深いものになっていた。販売者が選び抜いた被写体には、いろんな思いが詰まっているのがよく分かる。
By Katherine Smyrk
Courtesy of The Big Issue Australia / INSP.ngo
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