ロックダウン(都市封鎖)された街では、人々の暮らしだけでなく、犯罪の手口も変わってくる。生活が根本から変わることで一部の犯罪は減少すると考えられるが*1、その一方で、家庭内暴力(DV)やオンライン詐欺などが急増する可能性が懸念されている*2 。さらには、“悪意のある咳” といった新たな犯罪も発生し始めているとか。ロックダウン中の英国における「犯罪」を取り巻く変化を見てみたい。
*1 ボリス・ジョンソン首相による外出禁止令を機に、ダラム市では強盗・暴力などの犯罪件数が前の週より20%減(165件→130件)。Coronavirus crisis leads to steep drop in recorded crime
*2 中国ではロックダウン中にオンライン詐欺の一番の標的となったのはゲーマーの若者たちだった。Covid-19: Online game players were top target for scammers during China’s coronavirus lockdown
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「犯罪したくなる機会」が変化していく
犯罪科学や環境犯罪学の分野では「犯罪の機会(crime opportunities)」 というものに着目し、ライフスタイル・日常的な習慣・特定の商品/サービスによってそれがどう変化するかを研究している。夜の外出が多い人はひったくりや暴行など対人間の犯罪に遭いやすく、また留守宅も空き巣に狙われやすくなる、といったことだ。
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こうした 「犯罪の機会」を減らすことでいかに犯罪を抑えられるか ーー 盗まれたスマートフォンを遠隔からオフにして価値のないものにする、酒類販売や飲み屋の規制を見直すことで酔っぱらい同士のトラブルを減らす、家のセキュリティを強化して侵入しにくくする、などさまざまな事例がある。
犯罪を起こそうとする者は、人間なり建物なり商品なり、犯罪を起こせる“標的” と出会う必要がある。ゆえに、 “犯罪機会の有無” が鍵を握るのだ。
ロックダウンによって私たちの行動が大きく変わっている今、「犯罪の機会」のあり方も変わるだろう。例えば、感染症の大流行によってマスクや医療器具など特定の商品が欠乏すると、それらは泥棒にとって格好の標的となる。現に、酸素吸入器が病院から盗まれる、フードバンクが急襲される、ウイルスに便乗した詐欺や偽造品が出回るなどの事態が発生している*3。
*3 ロックダウン中の大混乱に付け込んだ悪質な愉快犯が増えていると英国の警察は注意を促した。
UK police chiefs: coronavirus could bring out worst in humanity
外出自粛のメリットとデメリット
「家の安全性」については朗報がある。多くの人が家にいるためセキュリティは高まり、空き巣に入られにくくなる。自家用車の盗難も減るだろう。不審者がうろついていたとしても、近所の人たちの目に留まりやすくなる。
その一方で、家に居る時間が増えることで家庭内暴力が増えてしまいそうだ。2016年度の統計では、子どもへの性的暴行の40%は家庭内で発生したものだったし、子どもへの身体的虐待で一番多いのは父親や母親によるものだ。
暴力の引き金となるのが「アルコール」。飲み屋が営業していなくても、スーパーやオンラインでの酒類販売は好調だ。家でお酒を嗜む人や “オンライン飲み会”する人も増えている。ひとつ屋根の下で暮らす家族や子どもたちにとっては、決して良い環境ではない。
Laura MによるPixabayからの画像
地域住民の人たちで助け合えるよう WhatsAppなどのメッセンジャーアプリでグループをつくり、近所の見回りをする動きも生まれている。その防犯効果についての評価はまちまちだが、いくつかの先駆的プロジェクトからは、ごく近所の人たち同士による小規模な監視の方がより効果があることが示されている*4 。
*4 西オーストラリア警察が実施した取り組みについて2018年に発表された研究。
Preventing near-repeat residential burglary through cocooning: post hoc evaluation of a targeted police-led pilot intervention
オンラインでのハラスメントにご用心
職場におけるハラスメントや盗みといった犯罪は、そこで働く人たちがいないのだから減るだろう。しかし、テレワークが広がることでオンラインでのやり取りが増え、従業員間の “オンライン・ハラスメント*5 ” が増えてくる可能性がある。(チャットのやり取りは記録を残せるため、それを証拠として加害者が責任を問われることもあるだろう。)
*5 チャット機能を使って嫌がらせのメッセージを送ってくる、オンライン会議に入れてもらえず勝手に物事が決まる、オンライン会議への貢献ぶりを過小評価される…等。
ロックダウン下で休業中の無人店舗は侵入しやすそうではあるが、近頃の英国では「Shopwatch」という取り組みが増えている。これは、同じショッピングエリア内の小売店らで非公式のグループをつくり、ときに自治体や警察とも連携しながら、盗難や反社会的行為を減らすことを目的としたもの。それに、とにかく人がいないため、警察が無人店舗の監視をしている場合は特に、不審な行動をしている者はすぐに見つけられるだろう。
しかし、悪人に付け込まれやすいスキというのは意外なところから生まれる可能性がある。英国政府は、雇用を維持する企業に給与の80%を支払う補助金支給を決めたが*6、これらの施策は十分な犯罪防止策の検討もないまま導入されようとしている。システムに何らかの抜け穴があれば、“虚偽の申請” など詐欺師たちの格好のターゲットにされる恐れもある。
*6 Coronavirus: Wages, sick pay and time off explained
屋外・公共空間での犯罪は激減の見込み
公共スペースでの犯罪発生率は劇的に低下するだろう。“犯罪多発スポット”とされているスポーツ観戦施設、人気の観光地、飲み屋、学校*7、駐車場、ショッピング街、繁華街などに人が集まることもない。公共交通機関での犯罪、電車やバスの駅での犯罪、タクシー運転手がからむ犯罪も大幅に減るだろう。
*7 英国では盗難、レイプ、薬物、武器所持など警察沙汰となる犯罪が多発していることが社会問題となっている。
Police log 8,000 crimes at London schools in just one year
ロックダウン中は公園や庭園が閉鎖されるため、そこで行われていた不法・反社会的行為も減るだろう。しかし依然として、若者たちが通りをうろついているとの報告も挙がっている。英国東部の街ハルでは、警察が親に対し「子どもを外出させないように」との警告を出した*8。不満を募らせた若者や大人たちがロックダウンを無視した行動を取らないかどうかも注視していくことになろう。
*8 Police warning to parents as kids found on the streets during coronavirus lockdown
警察による取り締まりもエスカレートしており、ドローンを使った監視を行っている地域もある*9。英国中部ダービーシャーの景勝地では、“不要不急の” 旅をしている者たちの姿や車のナンバープレートをドローンから撮影した。
*9 UK police use drones and roadblocks to enforce lockdown
悪意のある咳ハラスメントで懲役刑に
そして今や、“悪意のある咳” も犯罪扱いされる。自称 “新型コロナウイルス感染者” が、警察官や医療従事者に向かって執拗に咳をしたことで逮捕され、男性(55)が6ヶ月、女性(35)が3ヶ月の懲役を言い渡されている*10。
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*10 Man jailed for six months for coughing at police officer and saying he had coronavirus
数々の予期せぬ事態がもたらされうるロックダウン生活。犯罪の新たな手口をその一つだ。警察ならびに政策立案者は、新たなる「犯罪の機会」を予測しつつ、それに応じた防犯策を速やかに講じていく必要がある。
※ こちらは『The Conversation』の元記事(2020年4月2日掲載)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
執筆者:
Graham Farrell(Professor of Crime Science, University of Leeds)
Nick Tilley (Principal Research Associate, Department of Security and Crime Science, UCL)
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