コロナ禍は発達障害や知的障害のある人たち、その支援者に相当厳しい状態をもたらす

 新型コロナウイルス感染拡大を受け、誰もが平時より大きな不安を感じている。食料は手に入るか、生活に必要なサービスは利用できるか、仕事には行けるのか、自粛生活に耐えられるか、そして自分も感染してしまわないか…..日常生活に起きたさまざまな変化ならびに世界レベルの不安定にどうにか折り合いをつけていっている状況だが、発達障害や知的障害のある人にとっては、その影響はずっと大きなものである。英ウォーリック大学博士課程でメンタルヘルスを研究するダニエル・アダムスが解説する。


先の予測がつかないコロナ社会、生活の“つじつま合わせ”は誰にとっても難しいものだが、人とのコミュニケーションが難しい人たちにとっては特にストレスのたまるものだ。

いつもの日常が突然変わってしまった理由をきちんと理解できない(または理解はできても受け入れられない)、これからどうするのかを自分で決められないとなると、変化への順応がいっそう難しくなる。いつも近くにいた人たちとなぜ交流できなくなったのか、なぜ知らない人のサポートを受けるようになったのかと、大きな戸惑いを覚えるかもしれない。

支援施設やグループホームの職員や入居者を守るためにと施設の閉鎖をしてしまうと、彼らの不安や恐怖、ネガティブな行動は悪化してしまうだろう。誰も経験したことのないコロナ禍という非常事態において、発達障害や知的障害のある人をどうサポートしていったらよいのか。

大切なのは生活の「リズム」と「ルーティン」

学習障害*1のある人は一般の人よりもこころの病を患いやすい。例えば、英国では学習障害がある成人の約40パーセント、青少年の約36パーセントが、人生のある時期において、うつ病や不安障害などの精神疾患を患うと見積もられている*2。

*1 学習障害(learning disability)は、読み書き能力や計算力などの算数機能に関する発達障害のひとつ。

*2 参考:Mental health problems in people with learning disabilities: prevention, assessment and management(p.31)

発達障害や知的障害のある人たちの不安を和らげるには日常生活に「リズム」や「ルーティン」があることが重要で、それらが急激に変化するようなことがあると、途端にこころの健康が悪化してしまう恐れがある。

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コロナ禍は発達障害や知的障害のある人たちに特に大きな負荷となる
Photographee.eu/ Shutterstock

新型コロナウイルス危機を受け、在宅勤務や自粛生活がすすむと、そうした人たちのケア体制(介護スタッフ、家族含め)も大きく変わるだろう。外出を控えなければならない「生活上の変化」、いつもの介護スタッフが暫定的に別のスタッフに代わる「環境の変化」は、当事者たちに動揺をもたらし、ストレスや不安レベルを高めてしまう恐れがある。介護チーム側の体制次第では、いつものようなサポートを受けられない人が出てくるかもしれない。

介護する側にとっても、慣れない場所でなじみのない人をサポートすることとなり、どういう接し方がベストなのかすぐにはつかめないこともあるだろう。特に変化に敏感な人たちにとっては、まわりの人のマスクや防護服姿がさらなる不安を覚えるやもしれない。

食生活など日常の些細な変化がネガティブな行動を引き起こしかねない

パニック時の買い占めも、そんな人たちを危険にさらす行為だ。彼らの中には、食べ物の味や食感、匂いの変化に非常に敏感な人たちが少なくない。食事に厳格なこだわりがあり、限られたものしか口にできない人たちもいる*3。いつもの食料品を買えない、いつもの時間にいつもの店で買い物ができないということや、使い慣れた洗剤が手に入らず、香りの異なる別ブランドの洗剤を使わなければならないといった、多くの人にとっては些細なことがストレスになる人もいる。

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パニック時の買い占めにより、いつもの食事が摂れなくなる恐れも Jakob Weyde/ Shutterstock 

また感覚過負荷*4の人たちにとっても、ちょっとした変化が大きな不安・ストレスを引き起こすこともあるのだ。そして、このような日常生活の変化が、他人を傷つける、自身を傷つける、物を壊す、さらにはこころの病をぶり返すといった「ネガティブな行動*5」につながってしまいかねない。

*3 参考:自閉症の子どもに見られる偏食傾向は大人になっても続くのかをインタビュー調査(対象は12名の自閉症成人)。食生活への影響は続くが大きな問題にならないレベルとの回答が大半だったが、一部の人は摂食障害と診断された人もいた。Eating as an autistic adult: An exploratory qualitative study

*4 過度の感覚情報を処理しなければならない状況。自閉症者の日常の見え方をイメージした動画

*5 ネガティブな行動として、他人を傷つける(髪を引っぱる、叩く、頭突き)/自傷行為(頭を強く打ちつける、目を突く、手を噛む)/破壊行為(物を投げる、家具を壊す、ビリビリに破く)/食べられないものを口にする(たばこの吸い殻、ペンのふた、寝具)など。
参照:What is Challenging Behaviour?

当事者の精神的・感情的な健康に配慮したコロナ対応が求められる

発達障害や知的障害のある人たちの「健康格差」は以前から問題視されている。他の人たちと同じレベルの医療サービスが受けられない、より深刻な病気を患う可能性が高くなり、若くして命を落とすリスクも大きい。

私たちは今、新型コロナウイルスの感染拡大といった目の前のリスクだけでなく、こうした人たちの精神的・感情的な健康への影響にもしっかり目を向ける必要がある。

FotoRiethによるPixabayからの画像
FotoRiethによるPixabayからの画像

当事者とその家族ならびに介護スタッフたちを支える最良の方法を探るには、ソーシャルケアや医療サービス従事者らとの協業が必須となろう。さまざまな変化に効率的に対応していけるよう、具体的な行動指針を提供していくべきである。

【オンライン編集部補足】

記事掲載(2020年3月18日)後、各支援団体から行動指針が出されているので一部を紹介する。

特定非営利活動法人ADDS「発達障害のあるお子さんのSTAY HOME ヒント集」

発達障害情報・支援センターによる新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の関連情報

英国自閉症協会による コロナ対策情報(英語)

※ こちらは『The Conversation』の元記事(2020年3月18日掲載)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。

著者

Danielle Adams

Independent Specialist Mental Health Pharmacist and PhD Candidate, University of Warwick

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