警察による理不尽な殺人がなくなるまで「Black Lives Matter」運動は終わらない。活動家デレー・マッケッソンが声を上げ続ける理由とは

 ここ最近、日本でも「Black Lives Matter*1」について触れるメディアは増えているが、この運動は2013年から続くもの。2014年の抗議デモで活動家として有名になったデレー・マッケッソン(DeRay McKesson)がストリートペーパー『Street Roots』に、今の「Black Lives Matter」運動にも続く想いを語った。


(取材が行われたのは2018年3月、聞き手:『Street Roots』の販売者ネッティ)

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Photos by Celeste Noche

*1 Black Lives Matter 公式サイト https://blacklivesmatter.com

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デレー・マッケッソン、2014年までは全く無名の男だった。この年にミズーリー州ファーガソンで起きたマイケル・ブラウン射殺事件*2 への抗議デモをテレビで見ていた彼は、ミネアポリス公立学校の人事部ディレクターとして働く身だった。

*2 2014年8月9日、武器を持っていない18歳の黒人青年を警官が射殺した事件。

何か自分にできることはないか、マッケッソンが思いついたのは週末に現場まで車を飛ばすこと。マッケッソンは警察とデモ参加者らが衝突する模様をおさめた動画をTwitterに投稿、現場で起きていることをニュースレターで配信した。たちまち彼はSNS上の“有名人”となり、警察の残忍行為を非難する活動家のなかでも最も認められた人物のひとりとなっていった。それからまもなくして、彼は抗議デモに取り組む時間を確保するため、職場に休暇届けを出すことを決めた。

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Orna Wachman / Pixabay

ファーガソンに車で乗りつけた日から一年後、マッケッソンは仲間らと共同で、警官による射殺事件ゼロを目指し「キャンペーン・ゼロ*3」を立ち上げた。あまりに壮大な目標に思えるかもしれないが、マッケッソンはポートランドでの講演会で聴衆に向かってこう語った。「こんな状況はもういらない」。

*3 Campaign Zero https://www.joincampaignzero.org/#vision

警察の射殺事件に関するガーディアン紙のデータ収集プロジェクト「The Counted*4」によると、米警察はほんの何日間かのあいだに、多くの国で長い年月のあいだに起きる射殺事件よりも多くの人の命を奪っている。例えば、イングランドやウェールズでは、1990年から2014年までの24年間に起きた警察による射殺事件は55件だったが、米国では2015年の最初の24日間で59件も起きているのだ。アイスランドなど、1944年の独立以来1件しか起きていない。「多くの人たちが、より良い世界を思う、夢見ることを忘れてしまっています」マッケッソンは言う。

*4 The Counted: people killed by police in the United States (対象は2015-16年度のみ)


販売者ネッティ: (黒人に限らず)すべての人間の命が大切だと思うので、「Black Lives Matter」のサインを見ると、正直、どうして黒人だけ?という気分にもなりました。
子どもたちにも誤解なく、正しいメッセージを発信できていると思いますか?

デレー・マッケッソン:私たちは、すでに真実であることを公の場で声を大にして訴えているだけです。警察が人の命を奪うことは、我々がこんなことを言い出すずっと前から行われてきましたし、メッセージを発信してるのは私たちが初めてではありません。できることなら、こんなことを訴える最後の世代になれたらとは思いますが。

「Black Lives Matter」のメッセージが人々の暮らしの場にトラウマをもたらしているのではなく、むしろトラウマはすでにそこにあるのです。私たちはただ、それが “今も起きていますよ” と言ってるだけで。たとえ世の中がそうなっていなくても黒人の命には価値があるというメッセージを、若者、そして大人たちに伝えたいのです。そうした “共通語”を作り出し、同じ理解を持つことが大切なのです。

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Photos by Celeste Noche

乳がん患者の集会の場に行って「結腸がんも大事だ!」なんて言わないですよね?ひとつのテーマにフォーカスし、そのことに胸を張る、それが私たちがやっていることです。警察はマイク・ブラウンを殺した。彼が違法行為をしたように見えたのなら他にもいろんな対応があっただろうに、決して命を奪うほどのことではなかったはず。あの事件以降も、警察は全米各地で多くの人々を殺しています。私たちはその事実を声を大にして言っているだけなのです。

ー ファーガソンに駆けつけて抗議運動に加わろうと思い至ったのには、あなたの人生の何かが影響している?

大きく3つあります。一つは、私の両親が共に薬物依存だったことです。母は私が3歳の頃に姿を消したため、父に育てられました。私は今32歳ですが、30歳のときに母が戻ってきました。(依存症からの)回復を目指し、毎日毎日、生活を立て直そうと必死に生きている大人たちに囲まれて育ったことは、一人の若者としてどういう意味があったのだろうかとよく考えます。無理だと言われながらも人生の再起を目指す人たちを見て育った、そのことは自分が “リスクを取る” ことを考えるときに影響していると思います。

二点目は、私が中学校で教師をしていたことです。6年生の子どもたちに算数を教えていたのですが、世界が公平でないことも、彼らが貧しい環境で育ったことも、貧民街で育ったことも、何ひとつ彼らのせいではありません。彼らは何も間違ったことはしていない。社会のシステムが彼らをそんな環境に置いただけなのです。

一人の大人として自分の役割を考えるとき、常にあの子どもたちのことが頭に浮かびます。彼らが違った選択肢を持てる世界で生きられるようにする、私にはその責任があります。彼らは何も間違ったことはしていない、不利な立場に置かれるべきではないのです。

そして三つ目は、警察が射殺した相手は未成年だったということです。マイケル・ブラウンは18歳で、大学入学を控えていました。(事件)当時の私は、自分が熱心に打ち込めることをして生きていくことについてよく考えていた時期でもありました。自分が本当に大事なことだと思えるのであれば、今の自分にできるせめてものことは、週末に抗議デモの現場に駆けつけることだったのです。

土曜日の朝に出発し、2日間だけ自分にできることをしよう、何が起きているのかこの目で見届けようと思ったのです。でも現場に到着すると、これはひどい!となり、当初の予定よりずっと長く居続けることになり、今に至るわけです。でも最初は、自分にできるのは現場で起きていることを見る、それだけだったんです。

ー 運動に深く関わるようになってから、いろんな土地に足を運んでおられます。今日の米国における公民権闘争について、他の土地での抗議運動から学んだことはありますか?

なぜそこまで人種問題に肩入れするのかと聞く人も多いけど、僕がじゃなくて、人種問題が僕をつくってるとも言える。そして、それは全米各地で起きていること。

どこに行っても格差を目にします。格差なんてないと言われてる場所に行ってもです。私はボルチモア(メリーランド州)出身ですが、ちょっと街へ出れば一目瞭然、あからさまな格差を目にします。ミネアポリスやポートランド、違う土地に行くと、格差の有り様はまた違います。

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Photos by Celeste Noche

それに、「公平」という概念に口先だけで賛同することがいかに容易いものであるかも依然より意識するようになりました。パフォーマンス的なものを示すことは簡単です。でも、問題はあちこちにはびこっています。全米各地の有色人コミュニティにおいて、格差とそれがもたらすものは依然ひどい状況です。

それが一点目で、二点目は、この問題に熱心に取り組む準備ができている人々があちこちにいるということです。本人たちも自分たちにそこまでの力があるとか影響力があるとは思っていないかもしれません。自分たちとともに闘ってくれる人たちがいるとも思っていないかもしれませんが、実はあちこちにいるのです。

ー 他の土地を訪れてみて、何か驚いたことはありましたか?

“抗議デモが起こった場所での問題” と捉える人も多いのですが、これは同時多発的に各地で起こってるんです。私たちが行く先々で、「あれはファーガソンの問題だろ」「自分たちの街は大丈夫」「問題ない」と口にする人たちがいます。でも、違うのです。この国の警察はいろんなところで人々の命を奪っています。どこの土地でもこの問題は起きているのです。

ー Black Lives Matter 運動は、過去に犯罪を犯したけど人生をやり直したいと思っているような人たちでも参加できるのですか?

この運動は大きな広がりとなっていて、全米各地から素晴らしい人たちがたくさん参加してくれています。その中で気づいたのは、刑務所が更生の場となっておらず、出所者には継続して手段や支援が必要であるということ。

でも出所した者たちに十分な支援を行っていないのは、この社会がしてきた「選択」です。でも、過去に倣う必要はありません。システムというのは作り上げたら、一つのやり方しかないわけではない。何を選択していくか、なのです。

だから私たちはいつも、“雇用しない” “医療を提供しない” というのは、あくまで一つの選択なのだということを人々に再認識してもらっています。それは私たちが社会としてしてきた選択であって、違う選択をすることもできるのだということを。

プログラム的には興味深いものがたくさんあると思います。でも構造的な視点で言うと、私たちには違った対応を取ることもできるし、別のお金を充てることだってできる。でも決してお金の問題でも、リソースの問題でもありません。“意志”の問題だと思っています。

ー Black Lives Matter 運動によって、警察、貧困、(黒人の)大量投獄をめぐるメディア報道に影響を与えていると思いますか?

むしろ、この運動によって人々の会話の内容やトーンが確実に変わったと思います。抗議活動の初期の頃は、メディアが私たちのことを“暴徒”呼ばわりすることなどに必死で抵抗しました。

ミズーリ州セントルイスでは、警察は記者たちにも暴力的で、催涙ガスを浴びせるなどしたので、わざわざ記者たちに事態の深刻さを理解してもらう必要はありませんでした。MSNBCのクリス・ヘイズ記者もだいぶひどい目に遭いました。おかげで、メディアに働きかける必要はなくなったのです。暴力が記者自身の身に起きているのですから、報道せざるを得ない。大きなプラットフォームを有する人たちですから、私たちにとっては大きな成果になりました。

会話のあり方を変えたこと、警察による暴力について語るようになったことは素晴らしい収穫ですが、システムや構造を変えることとはまた違います。その点においては、まだ大きな成果は得られていません。警官による暴力行為の犠牲者数は減るどころか、年々増えているのですから*5。

*5「MAPPING POLICE VIOLENCE」によると、2020年は過去5年よりも増加傾向にある。
https://mappingpoliceviolence.org


ー 「キャンペーン・ゼロ」では10の政策を提言していますが、実際にどれくらい達成できるとお考えですか?

すべて達成できると考えています。だからこそ私たちは結集し、「キャンペーン・ゼロ」と名付けたのです。「キャンペーン・ほぼゼロ」でも「キャンペーン・できたらゼロ」でもなくね。警察が人々を殺すことのない世界に住むことはできる、そう確信しているからこの名前にしたのです。「安全」とはどういうことを言うのか、今とは違う概念がある世界を目指しています。

10ある政策の中で優劣をつけないのは、すべてが同時に変わる必要があるからです。警察による射殺をなくすには、コミュニティの監視がなければ難しく、逆もまた然りです。ですから、真の変革を起こすにはどれもが必要な要素だと考えています。

*キャンペーン・ゼロによる10の提言

CampaignZero

ー最初にBlack Lives Matterのサインを見た時、いまだにこれが問題となっていることが情けなくもなりました。でも、確かにそうです。私たちの命は大事なのです!これまでのご尽力に心より感謝申し上げます。

Black Lives Matter 運動には多くの人が関わっており、私はその一人に過ぎません。路上から抗議運動が湧き起こり、この動きを盛り上げるために尽力してきた多くの人たちのおかげです。

By Emily Green
Courtesy of Street Roots / INSP.ngo

Photos by Celeste Noche

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