今日、孤立に苛まれる高齢者は増え、賃貸物件の価格上昇で手頃な住居を見つけられる人は減っている。こうした二つの課題を、シンプルかつ心温まる方法で一挙に解決しようとするのが「異世代ホームシェア」だ。先進国で広がるこの動きをビッグイシュー・オーストラリアがレポート。
老人ホームより自宅を希望。
同居する人が家事のサポート、対象は亡命者やシングルマザーも
オーストラリアで典型的な郊外型一軒家に住む70代のフィロミナは、夫のビクターとともに3人の子どもを育てあげた。彼らは成人し、家を出てそれぞれの家族と暮らしている。ビクターは長い闘病生活の後、今年他界した。
一時はひとり暮らしになりかけたフィロミナは今、看護学を学ぶマレーシアからの留学生、20歳のラケシュと住んでいる。ありがちとは言えないこの組み合わせは、調理、掃除、買い出しなどのサポートが必要な家主と、住まわせてもらう代わりにサポートを提供する人とを仲介させるホームシェアのプログラムで出会った。家の所有者は、老人ホームではなく自宅に住むことを望む高齢者であったり、障害のある人であったりする。一方、その相手は家賃の安い住居を探している若者が多い。
フィロミナと一緒に料理を作るラケシュ Photo: Michelle Grace Hunder
ラケシュは収入もわずかでオーストラリアに家族もいないので、フィロミナと住むことで住居が確保できる。フィロミナにとっては、家事の手伝いが得られる。しかしこの組み合わせの利点は、それよりも深いところにある―なによりも、両者ともに孤立から距離を置くことができるのだ。
ここ数年、異世代同居とも呼ばれるホームシェアは先進国で広まっている。オランダの高齢者住宅を運営する「Humanitas Deventer」は、大学生を対象に無料で住宅を提供。入居している高齢者に“隣人として接する”ボランティアを毎月30時間することが条件だ。スペインの港町アリカンテでは、同様の住宅を自治体が整備している。
さらに、米国の「CoAbode」では、家をシェアしながらともに子育てできるようシングルマザー同士を仲介するなど、さまざまなバリエーションも登場している。オーストラリアの「ホームシェア・メルボルン」では、このモデルを賃貸物件市場で行き詰まった人々に拡大するべく取り組んでいる。「私たちの対象は、亡命者、難民、家庭内暴力から逃れてきた女性などです」と同団体のカーラ・レインズは言う。「お互いが出会う機会さえあれば、最高のハウスメイトになりうる人たちはたくさんいます。双方にとって有益な関係になってほしいですね」
離れて暮らす家族にとっても セーフティネットに。 ホームシェアが生む「安心の輪」
ラケシュは、フィロミナが招いた3番目のホームシェア・パートナーだ。1人目は夫のビクターが体調を崩した時にやって来た。「スクリットは修士の学生で、この家で3人で一緒に暮らしました。よく夫をリハビリに連れて行ってくれましたね。彼の後に来たのが、チベット人のララ。彼女にはよく英語を教えました。二人ともまだ連絡を取り合っています。彼らは私の家族ですし、私も彼らの家族です」とフィロミナは語る。
彼女と初めて会った時にピンときた、とラケシュは言う。「(僕の場合)水道光熱費だけ払えばよいので、賃貸よりも安いです。帰宅した時の心のサポートも得られます。外国なので、私のような留学生にとっては近くに誰かがいてくれるのはよいことです」
フィロミナはラケシュのことを“養子”と呼んでいる。「彼は本当に料理が上手。若いけれど、高い目的意識をもっている。私たちは二人で語り、笑い、食事をします。これが私にとっては人生で最高のことなんです。ただ、彼は寝ている時間がとても長いの!」。笑いが部屋を包む。二人の絆は確かだ。
子どもたちにとっては、高齢の家族と誰かが一緒に住んでくれることはセーフティネットのようなものでもある。「ホームシェアが生み出す『安心の輪』は、住んでいる当人たちだけでなく、その周囲の人たちにも広がっているのです」と、ホームシェア・コンサルタントのトム・ケニーリーは言う。
増える55歳以上の女性ホームレス
孤立の悪影響はタバコ1日15本分。
貧困と孤立感は関係あり
まさにそれが当てはまるのが、89歳のセシリアのケースだ。彼女は約50年前に南アフリカからメルボルンに移住し、オーストラリアにいる身内は妹だけ。最近体調が不安になってきたセシリアは、老人ホームに入居しなくてはならないところだった。そこで代案となったのが、誰かと一緒に住むことだった。
歩行器をすぐ脇に置いて、お気に入りのアームチェアに腰掛けたセシリアは「老人ホームに入る心の準備ができていないんです」と言う。「気分が悪くなった時、そばに誰もおらず、近所の人が気づいて私を助けてくれました。それ以来、ひとりではいられず、とても怖いのです」とセシリア。すでに3年間を一緒に過ごしている初めてのホームシェア・パートナー、ジーンも隣に座っている。長年ひとり暮らしだったセシリアにとって人と住むのは苦労もあるが、ジーンのように相性のよいパートナーと出会えたのが幸いだった。
セシリア(左)とシェアメイトのジーンは、一緒のティータイムが幸せのひと時だ
Photo: James Braund
61歳のジーンにとっては、ホームシェアは初めての経験だった。「長いことつき合っていた人と別れたところでした」と彼女は説明する。「田舎に家はあるのですが、何十年も都市部で働いてきたので、ホームシェアの話を聞いた時にやってみようと思ったんです」。セシリアに会わなかったら、40年続けてきた仕事を辞めて勤め先も少ない地域に引っ越さなくてはならなかった。「私だけではメルボルン市内に住み続けられませんでした。このあたりの家賃は私には払えませんので。離婚などで似たような状況にいる同年代の人はたくさんいます」と彼女は言う。オーストラリアの最新の調査では、ホームレス経験者は55歳以上の女性で最も増えていることがわかっている。
ホームシェアで得られるパートナーシップは、孤立の予防になる。孤独に苛まれる人は増加しており、英国の研究では、その健康への悪影響は一日15本のタバコを吸うのに匹敵するという見方も出ている。糖尿病などの慢性疾患、メンタルヘルスや早期死亡リスクの上昇にもつながるのだ。お金があれば他者とかかわりやすくなることは周知の事実。逆を言えば、貧困と孤立感の増加には直接的な関連性がある。英国では2018年に孤立問題担当大臣を任命し、オーストラリアでもこれに追随すべきとの圧力が高まっている。
フィロメナはこうも話す。「自分の子どもたちのことを考えるなら、愛されて大事にされる場所で暮らしていってほしいです。そうやって人間らしい交流があるということは、生きる上でとても重要なことだと思います」
(Anastasia Safioleas, The Big Issue Australia / INSP)
※上記は『ビッグイシュー日本版』361号(2019年5月1日発売、現在SOLDOUT)からの抜粋です。
日本にある異世代ホームシェア
NPO法人「リブ&リブ」
https://www.liveandlive.net/
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