「女性による女性のための相談会」をより多くの人に知ってほしい。BIGISSUELIVE「深刻化する女性の貧困」に雨宮処凛氏が登壇

 2021年5月28日、9都道府県における緊急事態宣言の延長が決定。すでにギリギリの生活を続けてきている人は、絶望にも似た感情を抱いている。自粛生活が長期化する中、サービス業は深刻な打撃を受け、その主な担い手である女性の貧困が深刻化、支援団体はより強い危機感を持って活動を続けている。


5月26日に行われたオンラインイベント<BIG ISSUE LIVE「深刻化する女性の貧困」>には、『ビッグイシュー日本版』に連載を続ける作家・活動家の雨宮処凛氏が登壇。貧困問題に関する取材や現場での支援活動を行う中で感じる“コロナ禍以前の女性と以後の影響”について、司会を務めるビッグイシュー日本東京事務所の佐野未来が話を聞いた。

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この記事は、2021年5月26日にYouTubeで開催されたイベント<BIG ISSUE LIVE「深刻化する女性の貧困」>のレポートです。
主催:ビッグイシュー日本

生活困窮者2千件以上に約6千万円を給付。役所に同行も

「2006年から15年間、国内の貧困問題にかかわり続けてきましたが、それをすべて足しても足りないくらい、この1年にはいろいろな問題が濃縮されていました。多くの困窮者との出会いがあり、その数は膨大で、内容も深刻です」と雨宮氏。

自身が世話人を務める反貧困ネットワークが呼びかけ、2020年3月に「新型コロナ災害緊急アクション※1」が立ち上げられる。4月にはメールでの相談フォームを設置、これまでに700件以上のSOSが寄せられた。同時に募集を始めた「緊急ささえあい基金」に集まった寄付金を宿泊費や食費として困窮者に給付。その場で聞き取りを行い、後日役所へ同行し公的支援に繋げる。この取り組みで、すでに2千件以上に総計6千万円を給付した。

「休業要請の影響で、今まで支援団体がリーチできなかった水商売や風俗業に従事している方、ネットカフェで生活している方から、どっと相談がきました。今まで何とか生活していた人たちが日雇いの仕事にも入れない、ネットカフェに泊まるお金もなく路上に出てしまう、所持金ゼロで何日も食べられていない状態が続いている…これは本当に21世紀の日本の話なのか⁉ という状況です」


※1新型コロナ災害緊急アクション | (corona-kinkyu-action.com)

女性が貧困に陥りやすい社会構造とは

性別を問わず深刻な状況だが、この状況を「女性」という切り口で考えてみると何が言えるだろうか。「女性の貧困」が指す状況とはどのようなことなのか、データで紐解きたい。

「コロナ禍になってはじめて女性が貧困に陥ったのではなく、コロナ禍以前から貧困問題はありました。特にシングルマザーの貧困はよく取り上げられており、ひとり親世帯の半分以上は貧困状態にあると言われています」

こう話す雨宮氏は、問題の背景として女性の半分以上が非正規雇用の状態にあること、非正規雇用の状態にある人の7割近くが女性であることをグラフで示した。
(2020年労働力調査)

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男性の賃金を100とすると女性の賃金は74.3。このように、もともと男女の賃金格差があるところに非正規雇用率の男女差が重なり、年収格差を拡大させている。
(厚生労働省「令和元年賃金構造基本統計調査の概況」)

国税庁が発表した令和元年の雇用形態別、平均給与のデータによると、非正規雇用全体の平均給与は年間175万円で、これを男女別で見ると女性の152万円が最も低い。月収にすると13万円程度であるこの層が、この1年間で大変な状況に陥ったのだ。
(国税庁「民間給与実態統計調査」(令和元年分))

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「実質失業者の女性が103万人いるという試算が野村総研から出ました。これは、もともと多くの女性が貯金できない額の収入で生活していた中、コロナ禍で飲食・宿泊・観光・販売などの業種が大きな打撃を受けた結果だと思います。飲食・宿泊に従事する労働者の約64%は女性。日本のサービス業全般を女性非正規という低賃金・不安定雇用労働者が支えていたという構図が明らかになったのです」と雨宮氏。

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非正規であることを理由に、休業手当もなく放り出される。このような人が膨大に生まれたのがこの1年間だった。

女性からの相談件数が急増。女性を守る余力を失った日本社会の実態

民間支援団体が受ける女性からの相談やホームレス状態にある女性の数は、依然、男性に比べると少ない。しかし雨宮氏らが2020年4月以降7回実施している「いのちとくらしを守るなんでも電話相談会」の利用者の男女比はほぼ半数ずつ、先に述べた「新型コロナ災害緊急アクション」の相談フォームに届く女性からの相談は全体の2~3割。これほど女性が増えているのは雨宮氏にとってもはじめての経験だ。

「2008年のリーマンショックの際、年末年始に設置された『年越し派遣村』には505人が来て、女性はわずか5人。ですが2020年年末年始の「年越し支援・コロナ被害相談村」には344人が来て、うち女性は2割弱である62人。このうち29%はすでに住まいがなく、21%は所持金1000円以下、42%が収入ゼロでした。62人でこの状況ですから、背景にはもっと大規模なホームレス化が起きていると確信しました」

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こう話す雨宮氏は、「年越し支援・コロナ被害相談村」に参加した女性有志らとともに2021年3月13日・14日に大久保公園で「女性による女性のための相談会」を開催した。今まではDVなどの家庭問題や精神疾患が原因で女性がホームレス状態に陥るケースが多かったが、コロナ禍特有の、失業のみを理由にホームレス状態に陥るという状況が見えてきた。

「13年前は企業、家族、友人など、社会に女性を支える余力があったのだと思います。派遣村からの13年で雇用も劣化し、日本全体の蓄えが奪われてしまった。それがコロナ禍で露呈したのでしょう」

厚生労働省「2019(令和元)年国民生活基礎調査※2」によると、1世帯あたりの平均所得金額(年収)は1990年代後半に約652万円(5年間平均)、2018年に約552万円と100万円ほど下がっている。また金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査] 令和2年調査結果」では、貯蓄ゼロ世帯がこの10年、20年で単身世帯の3割以上にも達した※3ことが明らかになった。

「貯蓄ができないということは、何かあればすぐに困窮がはじまるということ。リーマンショックのときは実家に帰るという話もよく聞きましたが、コロナ禍では実家も生活保護を受けるなどしていて余裕がない、企業にも余力がない。相談に来る方は、友人も含めて頼れるものは頼り尽くした果てに支援団体へSOSを出しているんです」と雨宮氏は言う。

※2家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査]令和2年調査結果|知るぽると (shiruporuto.jp)
出所:金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査] 令和2年調査結果」

※3Microsoft Word – 02 19結果の概況 (mhlw.go.jp) p.9
出所:厚生労働省「2019(令和元)年国民生活基礎調査」(図8 各種世帯の1世帯当たり平均所得金額の年次推移)

安定した生存基盤の確保を

家族、地域、企業などによる「共助」が公的なセーフティーネットの代わりを担ってきたのが日本社会の特徴だが、社会全体が支える力を失い地盤沈下しているところを、今回のコロナ禍が襲った。

「企業が従業員を雇用し続ける文化が失われてしまったということもあります。派遣法の改正とともに非正規雇用が浸透し、契約が細切れになったことで、何かあったときに犠牲になる一定の層が作られてしまった。安定雇用の促進、それがだめなら非正規雇用労働者への社会保障の拡充をと訴え続けてきましたが、それらがことごとく無視されてきたところへコロナ禍がやってきたんです」

雨宮氏はこの1年間で総務省、厚労省、国交省などとの計5回の政府交渉を経験しており、必要とする人々には何度でも支援金を給付することなどを要請してきた。しかし圧倒的に給付が足りておらず、社会福祉協議会による貸し付けがメインとなっている。貯蓄ゼロで生きていくのがギリギリの人に、借金の返済など考えられるだろうか。

「派遣村の時も非正規が問題になりましたが、当時約1800万人だった非正規労働者は今2000万人を超え、全労働者の4割弱にまで達しています。このままでは政治不信、社会不信に陥り、働く意欲をなくしてしまう。生きる意欲すら失い、自殺に言及する人も増えています」と雨宮氏は警笛を鳴らす。

2020年の女性の自殺者が前年比935人増の7026人だったことは、このことと決して無関係ではないだろう。雨宮氏は、コロナ禍で困窮しても決して見捨てないというメッセージが政府から一度も発せられてないこと、生存の基盤である安定した住居の確保についての政策が不十分であることについて、ドイツの事例や東日本大震災後の対応実績などを挙げながら問題提起した。

安心して足を運んでほしい「女性による女性のための相談会」

安定した住居は性別関係なく人として当然の権利であるが、女性は特に、生活に困窮している、住居がないと知られた瞬間からあらゆる危険にさらされる。困窮しているはずなのに相談に来る女性がまだ少ないのにはそういった理由もあるのだと雨宮氏は指摘する。

「DV被害者は男性の支援者や弁護士に対し恐怖心を抱く場合があります。また家族で相談に来る場合、夫や子どもを優先し自分のことが後回しになってしまう女性もいる。衣類や生理用品などがほしいと思っても男性のいる場では言い出しにくい。この1年間で相談に来た女性たちと接する中でいろんなニーズに気づき、これは一度ボランティアを含め全員が女性という空間を作るべきだということになりました」

「女性による女性のための相談会」では、周りから見えないようテントを張り、中央には軽食をとりながら雑談するカフェスペースを設けた。そこから参加者を相談内容に応じたブースへ案内していく。もちろんその場だけでは終わらず、後日役所に同行するなどの個別対応に繋げるケースもある。

「実際にやってみると安心感が持てるようで、女性だけの空間がとても重要なのだとわかりました」

この経験を「女性だけの相談会のノウハウ」としていろんな地域に広めていこうという動きが生まれており、災害時における避難所運営などにも生かせると、雨宮氏は意気込む。次回開催予定についても近々発表されるので、困っている女性にはぜひ情報をキャッチし足を運んでいただきたい。

長期化するコロナ禍を乗り切るための「公助」と「共助」の在り方

この状況が長期化することでどのようなことが危惧されるのか、あるいはあるべき支援について、「女性による女性のための相談会」の経験を踏まえ雨宮氏が語った。

「共助にも限界があります。野戦病院のような(生死をわける状況)ところで1年間もボランティアが対応にあたっているというのは異常です。一方役所では、もともとオーバーワークの職員がコロナ禍でさらに仕事を増やしている。この状況では丁寧な対応が期待できないのも当然です。公助にしっかりと予算をつけ、人員を増やすことは必須です」

雨宮氏は、コロナ禍で失業した人々を臨時職員として雇うなどの提言とともに、政府に必要な人員の確保を働きかけている。公助が正常に機能すれば、民間支援団体は今のように24時間体制で困窮者のもとに駆けつけるような緊急対応から解放される。

とはいえ、公助充実の実現には時間がかかる。今ある社会資源に必要な人がリーチするためには、私たち一人ひとりに何ができるだろうか。

まず自分や家族、友人が収入や住居を失うような切迫した状況にあるときは、公的な福祉制度を利用してほしい。うまくいかない場合は「新型コロナ災害緊急アクション」など民間の支援団体の相談フォームを利用すれば、東京以外の地域でも、全国の信頼できる支援団体と繋がることができる。また、自分が困っていなくてもSNSなどで支援制度について広めるという方法がある。そのアクションが、一人でも多くの人の命を救うことになるだろう。
新型コロナ災害緊急アクション | (corona-kinkyu-action.com)

女性であれば、「女性による女性のための相談会」の利用も検討してみてほしい。
https://twitter.com/sodanforher2021

今は必要ないとしても“何かあったときはこの団体に言えば解決する”という繋がりを知っておくことが有事の支えになる。認定NPO法人ビッグイシュー基金のホームページから無料ダウンロードできる「路上脱出・生活SOSガイド」にも情報が濃縮されているので必要に応じて活用いただきたい。

路上脱出・生活SOSガイド | ビッグイシュー基金 (bigissue.or.jp)

第6次「コロナ緊急3ヵ月通信販売」の募集

ビッグイシューはホームレス状態の人や生活に困窮している人がすぐにできる仕事をと、雑誌を路上で販売する仕事を提供している。1冊220円で仕入れ450円で販売する、その差額230円が販売者の利益になる。

コロナ禍で路上販売がままならなくなったが、そのような中でも収入を確保して販売継続ができ、体調が悪いときは安心して休めるしくみを作るために、2020年4月に「コロナ緊急3ヵ月通信販売」を立ち上げた。当初コロナ禍収束を見越して3ヵ月間と設定したが、現在6次の募集中だ。参加者に3か月分の計6冊の雑誌を購入いただき、ビッグイシューは販売者が本来路上販売により得られる利益分としてプールしておき、販売者に毎月支援金として現金を渡すしくみだ。

誰もが大変な状況であるが、路上から買うのが難しい方は「コロナ緊急3ヵ月通信販売」に参加をご検討いただきたい。

ビッグイシュー日本版(第6次「コロナ緊急3ヵ月通信販売」)

このLIVEはYouTubeのビッグイシューチャンネルにアーカイブされている。生活に困っている人が周囲にいたらご紹介いただきたい。

ビッグイシューチャンネル→BIG ISSUE LIVE #3「深刻化する女性の貧困」 – YouTube


雨宮処凛プロフィール
1975年、北海道生まれ。高校卒業後に上京、5年間のフリーター経験を経て25歳で作家としてデビュー。ネットカフェで生活する人が話題になり始めた時期である2006年からは「国内の貧困問題」をメインテーマとした取材・執筆を開始し、その他にも「生きづらさ」や「メンタルの問題」、自身の経験もあり「いじめ」や「リストカット」などのテーマも扱っている。

『ビッグイシュー日本版』には、2006年から「雨宮処凛の活動日誌」を連載中だ。2021年4月には、コロナ禍での1年にわたる困窮者支援の記録をまとめた『コロナ禍、貧困の記録 2020年、この国の底が抜けた』を刊行。


文:甲斐彩子