巣篭り時代のストレス対策ー玄関先に植木、室内に観葉植物を置くだけでも効果あり

 自然の中に身を置くと、多くの人が心がほぐれると感じるだろう。自然に触れることは、リラックス効果があるだけでなく、認知機能の向上や、トラウマ症状の改善、子どもの注意力欠如障害(ADHD)の症状を緩和するともいわれている*1。しかし、パンデミックにより外出を自粛している人も多いだろう。家の庭や室内のグリーンでも同じ効果が期待できるのか、シェフイールド大学園芸学の研究者ラウリアネ・スイン・チャルミン-プイが研究結果を発表した。

*1自然の中で暮らしている子どもたちはADHDを発症しにくいことを示したニュージーランドの研究がある。
参照:Association between exposure to the natural environment, rurality, and attention-deficit hyperactivity disorder in children in New Zealand: a linkage study

自宅の玄関先(前庭)にグリーンを置くのは、ストレス軽減効果をもたらす*2。昨今は家を建てる際に、玄関先に十分なスペースを取らないケースが増えていることもあり、あえて玄関先に植物を置くスペースを設け、植物が生活の一部にあることの価値および精神的、社会的、文化的な影響を把握しようと考えた。自宅のプライベート空間と外の世界をつなぐ玄関先は、近所の人や通行人の目にも触れるため、ここに植物があると地域としての幸福度にも寄与するのではないだろうか。

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momo105/photo-ac

*2 “It made me feel brighter in myself”- The health and well-being impacts of a residential front garden horticultural intervention

玄関先に植物を置き、1年間のストレスレベルを追跡

英国サルフォード市において、それまで草木のなかった玄関先のスペースに植物を置き、その前後で、被験者の生理学的および心理学的なストレス度を診断した。被験者は42人、年齢は21〜86歳、うち女性が64%だった。

玄関先に植木鉢を2つ置き、手入れが簡単で、英国でよく親しまれている植物を植えた(ペチュニア、ビオラ、ローズマリー、ラベンダー、ツツジ、クレマチス、ザイフリボクまたはドワーフジュニパーなど)。植物はすべて研究チームが準備し、どの玄関先も見た目が同じになるよう配慮した。堆肥、自動水やり機能つきの鉢、じょうろ、植物をはわせるための格子も配布。植物の世話や水やりについてもアドバイスし、手入れが簡単なものであれば他の植物を加えても良しとした。

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今回の実験で使った植物の1つ、ペチュニア。
Sebastian Janicki/ Shutterstock

コルチゾール値、体感、聞き取りでもストレス軽減効果を確認

1年以上に及ぶ調査から、被験者の唾液に含まれるコルチゾール濃度に著しい変化が見られた。コルチゾールは別名ストレスホルモンとも言われ、自律神経系の「攻撃・逃避反応」を活性化し、睡眠やエネルギーレベルを調節している。この日々の健康維持に不可欠なコルチゾールの分泌は、朝起きた時がピークで、夜になると低下する。このパターンが乱れると、ストレスにさらされていることを示す。調査開始時、このパターンが健全な者は被験者の24%だったが、植物を置いてから3か月後には53%に増加した。それだけ心の健康状態が改善されたといえる。

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玄関先に植物を置くことで、1年後にストレスレベルの低下が見られた。
Jeanie333/ Shutterstock

ストレス状況について自己申告してもらった。生活のさまざまな場面について「なんとかできる」と思えているか、「ストレスが多い」と感じているか等をみることで、生活にどの程度のストレスを感じているかを見た。結果、1年以上に及ぶ調査から、被験者のストレスレベルは低下することが判明した。他の方法で同じ効果を出そうとするならば、週1回のマインドフルネスのセッション8回分が必要である。

聞き取り調査からも、植物スペースを設けたことで、生活全般のことにポジティブになれた、とプラス効果を認める声が多々聞かれた。庭があることのリラックス効果をはじめ、玄関先に植物を植えることで、通りにも良い変化をもたらし、地域の環境にも意識が向くようになったとの声も聞かれた。

家先のグリーン空間を建築基準に

今回の研究結果から、たとえ小さくても生活空間にグリーンがあることがストレス軽減効果があることが明示された。家に玄関先があるなら、ぜひお手入れが簡単で、スペースを取らない植物を植えてみてはどうだろうか。賃貸の家でも、植木鉢を置くのが取り入れやすいだろう。屋外にスペースがなければ、屋内の観葉植物でもメンタルヘルスに効果があるとのエビデンスもある*3。

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しがまち/photo-ac



*3 金融機関の従業員に花を見る時間を取らせたところ、そうでない者よりも脳活動や精神の安定効果が示された。
参照:Effects of viewing flowering plants on employees’ wellbeing in an office-like environment

今回の研究を踏まえ、街の景観や緑地の設計担当者には、人の感受性、健康、幸福に対して自然環境が大きく影響していることをこれまで以上に考慮してもらえればと思う。通りを歩くことで心が安らぐ環境、植物を活用した自然環境への配慮を、建築基準や都市計画に標準化することを目指してほしい。

視界にグリーンを取り入れることは、都市開発、健康と社会福祉ケアにおいて、非常に重要である。建築と環境と健康を別々に考えるのではなく、統合して考えることが必要である。

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mecha/photo-ac

<補足>
自然の緑地がもたらす健康や幸福感に関するこうしたメリットは、環境心理学における二つの理論、「注意回復理論」と「ストレス低減理論」に基づき理解されている。「注意回復理論」とは、自然環境の中で過ごすと努力と注意力を要するタスクに集中しやすくなるというもの、「ストレス低減理論」とは、自然環境にいると瞬間的に感情的な反応が起こり、自然のない環境にいるよりもネガティブな気持ちが薄れるとするものだ。

著者
Lauriane Suyin Chalmin-Pui
Wellbeing Postdoctoral Fellow with the Royal Horticultural Society, University of Sheffield

THE CONVERSATION

※本記事は『The Conversation』掲載記事(2020年11月25日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。

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