宇宙空間で大渋滞が発生中。約8千基の人工衛星が地球を周回する今、必要なルールとは

人工衛星や火星探査機が毎週のように打ち上げられ、宇宙旅行客を乗せたロケットも登場している*1。 数年前から「宇宙が混雑しつつある」といわれているが、実際にはどのような状況で、今後はどうなりそうなのか。マサチューセッツ大学ローウェル校の物理学教授であり、宇宙科学技術センターの所長を務めるスプリヤ・チャクラバルティによる『The Conversation』寄稿記事を紹介しよう。


*1 2021年9月15日、Space X社のミッション「Inspiration4」は、4人の民間人を乗せて、宇宙に3日間滞在した後、地球に帰還。宇宙ツーリズムの幕開け、とされている。

軌道に投入された人工衛星は、そのほとんどが大気中で燃え尽きるが、そのまま宇宙に留まり続けているものも何千基とある。 人工衛星の打ち上げについては、複数の団体がその数を報告しており、多少の誤差はあるものの全体的な傾向は明らかで、その数には驚かずにはいられない。

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 地球を周回している衛星の数(2021年9月16日現在)

2010年代前半は年間60〜100基程度だったのが、1週間で50基を超えるように

1957年にソビエト連邦が人類初の人工衛星スプートニクを打ち上げて以来、人類は毎年、多くの物体を軌道に投入してきた。 20世紀後半の人工衛星の打ち上げペースは、今より緩やかではあるものの着実に増加傾向にあり、2010年代初期までは年間60〜100基程度だった。

しかしそれ以降、打ち上げのペースが劇的に上がっており、2020年には、114回の打ち上げで約1300基の人工衛星が宇宙に運ばれ、年間1000基の衛星打ち上げという史上初の大台を突破した。それでも、2021年の記録には到底敵わない。 9月16日現在、すでに約1400基の人工衛星が新たに地球を周回しており、その数は今年後半でさらに増えるだろう。 今週(9月13日の週)だけでも、スペースX社はさらに51基の人工衛星「スターリンク」を軌道に投入しているのだ。

ロケットの性能向上と衛星の小型化

この急増ぶりには、2つの大きな理由がある。

1つ目は、衛星を宇宙に送り込む技術の進化だ。 例えば、2021年8月29日、スペースX社のロケット「CRS-23」が複数の人工衛星を国際宇宙ステーションに運び、10月11日にこれらが軌道上に配備されるため、人工衛星の数はさらに増える。

2つ目が、1回のロケットに載せる衛星の数の増加だ(それにより、1つあたりの単価が下がる)。 これは、ロケットがよりパワフルになったこと以上に、電子機器の革命により、人工衛星がより小型化していることが大きい。 2020年に打ち上げられた宇宙船のうち、94%は重量が約1320ポンド(600キログラム)以下の小型衛星だった。

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学生が作業しているこちらのように、技術開発によって衛星の小型化が進んでいる。Edwin Aguirre/University of Massachusetts Lowell, CC BY-ND

これら人工衛星の多くは、地球の観測やインターネット通信などを目的としている。 民間企業であるスペースX社とワンウェブ社は、地球上のインターネットが行き届いていない地域に衛星インターネット接続サービスを提供するため、2020年だけで合わせて約1千基の小型衛星を打ち上げた。さらに両社は、今後数年間でそれぞれ4万基以上を打ち上げ、地球の低軌道上に「メガコンステレーション*2」と呼ばれるシステムを作る計画だ。この1兆ドル(約111兆円)規模の市場に注目する企業は他にもあり、よく知られているのがアマゾン社の宇宙インターネット計画「プロジェクト・カイパー」だ。

*2 1万基以上の人工衛星を打ち上げ、それらを連携させることで世界中にインターネット接続サービスを提供することを目的とするスペースX社のプロジェクト。

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国際宇宙ステーションから放たれたこの立方体の衛星のように、地球を周回している数千もの衛星は小型化している。NASA, CC BY-NC

宇宙空間の大渋滞

人工衛星の大幅な増加にともない、「宇宙空間の大渋滞」という懸念が現実のものになりつつある。スペースX社が最初のスターリンク衛星60基を打ち上げた翌日から、天文学者たちは、それらが星の光を遮っているのを確認している。

オランダ上空で目撃されたスターリンクの映像

目に見える影響だけでなく、電波天文学*3者たちは、スターリンクのようなメガコンステレーション(大量の衛星で構成される衛星網)の感度が、特定の周波数で70%ほど失われることを懸念している。専門家たちは、これらコンステレーションがもたらす潜在的な問題と、宇宙事業会社が取るべき対応について研究・議論している。具体的には、人工衛星の数を減らす、明るさを抑える、人工衛星の位置を共有する、改良された画像処理ソフトの開発をサポートする、などだ。地球低軌道が混雑してくると、人工衛星同士が衝突する可能性が現実的になると同時に、スペースデブリ(宇宙のゴミ)の懸念も高まる。

*3 電磁波を使って天体を観測する天文学の1つ。

宇宙の民主化実現に向けて

ほんの10年前まで、「宇宙の民主化」は未達成の目標だった。 しかし今や、105カ国以上の国々が少なくとも1基の人工衛星を宇宙に有し、学生たちのプロジェクトも宇宙ステーションで行われている。目標に手が届くところまできたといえるだろう。

革新的な技術進歩には必ず、ルールの更新、あるいは新しいルール設定が必要となる。 スペースX社はスターリンクのコンステレーションが及ぼす影響の軽減策を検証し、アマゾン社はミッション終了後355日以内に衛星を軌道から外す計画を発表している。こうして、さまざまな関係者の行動を目にするにつれ、「宇宙空間の大渋滞」という潜在的危機に対し、ビジネス、科学、そして人類の努力によって、サステナブルな解決策が見つかると期待している。

著者
Supriya Chakrabarti
Professor of Physics, University of Massachusetts Lowell

THE CONVERSATION

※本記事は『The Conversation』掲載記事(2021年9月17日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。

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