キャリー・アン・モスは、『メメント』『ディスタービア』などでスリル満点の難しい役柄を数多く演じてきたが、一番有名なのはウォシャウスキー姉妹*1が監督・脚本を務めたSFアクション映画の傑作『マトリックス』シリーズでのトリニティー役だろう。バイクを巧みに乗りこなし、意識を乗っ取り、仮想世界「マトリックス」からネオ(キアヌ・リーブス)を誘惑するヒロイン役だ。『ビッグイシュー オーストラリア』がモスにインタビューした。
『マトリックス レザレクションズ』のネオ/トーマス・アンダーソン(キアヌ・リーブス)とトリニティー(キャリー・アン・モス)
Copyright: © 2021 Warner Bros. Entertainment Inc. and Village Roadshow Films North America Inc. – U.S., Canada, Bahamas and Bermuda Photo Credit: Courtesy of Warner Bros. Pictures
*1 3部作製作当時はウォシャウスキー兄弟だったが、二人はその後、性別適合手術を受け、女性として生きている。
オーストラリアでの1作目の撮影を振り返る
『マトリックス』1作目の撮影は、大半がシドニーのスタジオや街なかで行われた。当時を振り返り「良い思い出しかありません」と語るモス。とりわけバイロンベイはこれまでで最も印象に残っている旅先のひとつだと言う。「カナダ人の私は、魂のレベルというのでしょうか、オーストラリア人ととても似たものを感じるんです」
自分の出演シーンがないときも、毎日撮影現場に顔を出したという。「とにかく何もかもを見ておきたかったんです」と話す。この作品が爆発的ヒットを飛ばし、自身のキャリアにとって重要な作品になることはまだ知らなかったが。「でも、何か独特な作品を作っている実感はありました。いくつもの層からなる深いストーリー構成で、アクションもすさまじくて。最初に完成版を見たときは、かなり衝撃を受けました」
「ケガは厭わない」
モスは今やアクション映画のベテラン的存在となっているが、初めて激しいアクションシーンを撮影した頃を思い出して笑う。「アクション専門のスタントマンたちは、俳優がよく見えるよう配慮してくれるし、相手を実際に殴らない術を心得ています。でも当時の私にはそんな能力はありませんから、『アクション』の声がかかると、全力で戦ってました。なので、あざだらけになったこともありました」
ひどいときには足を骨折し、2作目の『マトリックス リローデッド』では、6週間撮影に参加できなかった。そんな痛い目に遭ったのなら、同シリーズへの復帰を躊躇する思いはあったのだろうか? 「とんでもない。かかってこい!って気分ですよ。ケガをすることは怖くありません。ケガをするときはする、そんな気持ちです。朝ベッドを出るときにひざが痛むこともありますが、撮影に挑む気持ちに変わりはありません」
『マトリックス レザレクションズ』のネオ/トーマス・アンダーソン(キアヌ・リーブス)とトリニティー(キャリー・アン・モス)
Copyright: © 2021 Warner Bros. Entertainment Inc. and Village Roadshow Films North America Inc. – U.S., Canada, Bahamas and Bermuda Photo Credit: Murray Close
第4作『マトリックス レザレクションズ』
新作『マトリックス レザレクションズ』(日本公開2021年12月21日、DVD発売2022年4月20日)公開のニュースに、ファンの期待はさらに高まった。ラナ・ウォシャウスキー監督の4作目となるこの作品(今回、妹のリリー・ウォシャウスキーは関わっていない)で、キアヌ・リーブスとモスは第1作目の20年後の設定を演じている。
『マトリックス レザレクションズ』のネオ/トーマス・アンダーソン(キアヌ・リーブス)とトリニティ(キャリー・アン・モス)
Copyright: © 2021 Warner Bros. Entertainment Inc. and Village Roadshow Films North America Inc. – U.S., Canada, Bahamas and Bermuda Photo Credit: Murray Close
かつて恋人同士だったネオとトリニティーは、コーヒーショップでまるで初対面かのように出会い、過去の関係に気づいていない。その後、トリニティーが叫び、マトリックスに囚われた世界へとぼやけていく。いくつもの現実世界を“リロード”または“リスタート”させ、きわめて刺激的な世界観を味わうには『マトリックス』は最適だ。
『マトリックス レザレクションズ』のアナリスト(ニール・パトリック・ハリス)とネオ/トーマス・アンダーソン(キアヌ・リーブス)
Copyright: © 2021 Warner Bros. Entertainment Inc. and Village Roadshow Films North America Inc. – U.S., Canada, Bahamas and Bermuda Photo Credit: Courtesy of Warner Bros. Pictures
ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世やジェシカ・ヘンウィックが演じる新しい役柄が登場する一方、過去3作で存在感を放ってきたローレンス・フィッシュバーンやヒューゴ・ウィーヴィングは本作では出演していない。心身ともにかなり厳しい撮影現場ではあるが、とても居心地がよかったとモスは語る。「何かにつけ、30歳の頃より時間がかかったけれど、作品づくりの全プロセスが大好きなんです」
『マトリックス レザレクションズ』予告編
トランスジェンダーの生き方の寓話
『マトリックス』シリーズが象徴するのは宗教なのか、資本主義なのか、自由意志なのか、ファンや批評家は毎回、作品の意味を見出そうと躍起になる。近年は、2人のトランスジェンダー監督が生み出した“トランスジェンダーの自由”の寓話ではないかという見方も強く、リリー・ウォシャウスキー自身もこれを認めている。
自身の役柄づくりにファンの解釈は必ずしも影響しないと言うモスだが、常にいろんな意見にはオープンな姿勢でありたいと言う。モスが「メタバース」という仮想世界をどう体験していくのか、世界中の観客が心待ちにしている。しかし今日の世界事情をみると、それほどフィクションとは思えない世界でもあるが。
SNSは使わないポリシー
オンラインで行われた今回の取材だが、モスは基本的に『マトリックス』で予言されたようなテクノロジー優勢の世界を避け、ソーシャルメディアのアルゴリズムに人より慎重だと語る。「私には向いてないんです。Facebookは使ったことがありませんし、私をよく知る人たちは、電話かテキストメッセージでしか私と連絡が取れないとわかってくれています」
「これには、いろんな思いがあるんです。(ソーシャルメディアは)ネット上の創り上げられた世界と自分の日常を比べ、うつ症状や自己肯定感を低くすると示す研究もたくさん出ています。じゃあなぜあえて?と思ってしまうんです。単に私の世代向きでないのかもしれませんが」
By Eliza Janssen
Courtesy of The Big Issue Australia / International Network of Street Papers
ビッグイシュー・オンラインのサポーターになってくださいませんか?
ビッグイシューの活動の認知・理解を広めるためのWebメディア「ビッグイシュー・オンライン」。
提携している国際ストリートペーパー(INSP)や『The Conversation』の記事を翻訳してお伝えしています。より多くの記事を翻訳してお伝えしたく、月々500円からの「オンラインサポーター」を募集しています。