ウクライナの原発2ヵ所占拠、あわや原子炉破壊の危機

 2月24日にロシア軍が突如としてウクライナに侵攻を開始した。プーチン大統領の予想を超えて戦闘は長期化し、同氏は質・量ともに攻撃をエスカレートさせている。今では化学兵器や核兵器使用の恐れも指摘されている。今や兵士の犠牲もさることながら、民間人の犠牲者が増え続けている。

(原稿は4月20日時点のものです)

チョルノービリ原発

一時は電源喪失や送電線切断も

 国連人権高等弁務官事務所は、侵攻から1ヵ月間の死者数が1000人を超え、実際はさらに多いとしている。また、これまでに4人に1人が家を追われ、400万人以上が国外に避難している。2014年以降の、あるいはそれ以前からの経緯も指摘されているが、それを踏まえても武力による侵略は言語道断だ。プーチン大統領は撤退を即時に決定するべきだ。

 ロシア軍によるチョルノービリ(チェルノブイリ)原発占拠は世界を驚かせた。同原発には4基の原発がある。1986年4月26日に4号基が爆発事故を起こし、噴き上げられた放射能は北半球をめぐった。ベラルーシを含む半径30km圏内は永久居住禁止区域にされている。残る3基は運転を続け、最後の原発が運転を終了したのは2000年だった。

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 3月9日にチョルノービリ原発への送電線が切断されたとの報道があった。回復したが再び切断など、また、修復に関する情報などが錯綜している。電源喪失が原因と考えられるが、IAEA(国際原子力機関)にサイト監視システムのデータが届かなくなった。また、シェルターの換気が停止したことから、ここからの放射能漏洩が心配される。塹壕にいたロシア兵の被曝障害も伝えられている。周辺環境の放射線レベルが急上昇したとも報じられたが、戦車による蹂躙で放射性物質が巻き上げられたからか、あるいは砲火による森林火災も考えられる。3月末日にロシア軍が同原発から撤退し、心配の種が一つ減った。

欧州最大規模の原発に砲弾
いつでも破壊できる能力を握る

 前後するが3月4日未明にロシア軍はザポリージャ原発を攻撃し、これを占拠、管理下に置いた。ザポリージャには6基の原発があり、電気出力は600万kwと欧州では最大規模の原発である。攻撃時点では4 号基が運転していた。現在は2号基と4号基が運転中だ。攻撃を受けて1号基は原子炉建屋が損傷、使用済み核燃料の乾式貯蔵施設に2発着弾した。また、訓練棟も攻撃により火災が発生。ウクライナ当局はIAEAに重要な設備に深刻な影響は生じていないと報告している。しかし、砲弾が原子炉建屋を貫通したり、乾式貯蔵容器が破壊され使用済み燃料が破損したりしていれば、深刻な放射能拡散につながっていた恐れがあった。それが避けられたのは偶然というほかない。緊張が続いている。

 運転員の心理的ストレスは非常に強いだろう。IAEAが懸念するように、些細なトラブルが深刻な事態に進展してしまうリスクも高くなっている。
 ウクライナは電力需要の約50%を原発に依存していることから、攻撃の危険がわかってもすべてを止めることができなかったのだろう。
 今回の原発占拠はライフラインの掌握による威圧が狙いと思われるが、しかし、いつでも破壊できる能力を手中にしたことの意味は深刻だ。原発への武力攻撃は早期の放射能放出に至り、それは福島事故をはるかに上回る量になるが、その被害が最大化するように攻撃を計画することもできるからだ。
 更田豊志原子力規制委員長が認めているように、原発は武力攻撃に耐えられない。エネルギーを原発に依存することの危うさがいっそう明白になった。

(伴 英幸)

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(2022年5月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 430号より)

伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけに、脱原発の市民運動などにかかわる。著書に『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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